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    昔話シリーズ(掌編)

    空を飛びたかった女の子の昔話

     ←樹になった龍の昔話 →エドさん探偵物語:18 依頼人は怪獣
     窓から空ばかり見ていて飽きないかって? ううん。そんなことないよ。あたしは、空が好き。青い青い、空が大好き。
     いつから空が好きになったのか? わからない。覚えてないよ。気がついたら、空にあこがれていたんだ。いつか、ほんとに空を飛んでみたいって思ってる。女だてらにこんな理系コースを選んだのも、大学に入って、パイロットの試験に合格するためなんだ。ちょっと、笑わないでよ。あたしはまじめなんだから。
     こんなことを考えるようになったのも、おばあちゃんが話してくれた昔話の影響かなあ。聞きたい? うん。いいよ。
     それじゃ、昔、昔……。

     昔、昔、あるところに、翼を生やした人たちの住む国がありました。その国の人々は、大人になると、背中に立派な白い翼を生やすようになるのでした。皆、その翼で大空を自由に飛びまわり、幸せに暮していました。
     その国には、小さな翼を持った、小さな女の子も住んでいました。
     女の子は、いつも暇さえあれば空を眺めていました。それを見て、幼馴染の男の子が、笑いながら尋ねました。
    「どうしたの?」
     女の子は、空を飛ぶ人々を指さして答えました。
    「空。あたしも飛びたい」
     そうでした。女の子は、まだ小さかったので、翼がじゅうぶんに成長しておらず、空が飛べなかったのです。
     それは男の子も同じでした。男の子は、さらに大きな声で笑いました。
    「大丈夫だって。すぐに飛べるようになるよ。大人になれば、誰だって空を飛べるさ。そのときは、いっしょに飛ぼうよ」
     女の子は、男の子の顔を見ました。
    「約束だよ!」
    「約束だよ」
     二人は指切りをしました。
     しばらくして、よその国との間で戦争が起きました。ひどい戦争でした。誰もかれもが、我を忘れて殺し合いをしました。
     勝ったのは、よその国でした。武器をぴかぴかに光らせた軍隊がやってきて、女の子たちの国は占領されてしまいました。
     軍隊の兵士たちは、残酷でした。人々を逃げられなくするためと、国へのみやげにするために、捕虜にした翼のある人々から、翼を切り取ってしまったのです。
     女の子も、例外ではありませんでした。背中に、翼を切られた醜い傷跡をつけたまま、生きていかなければならなくなったのでした。でも、まだよかったのかもしれません。お父さんも、お母さんも、ほとんどの家族は、翼を切られた傷がもとで死んでしまったからです。
     季節が流れました。いつの間にか、女の子は、美しい若い娘へと成長していました。
     女の子は、辛い生活にも歯を食いしばって耐えて生きていきました。しかし、あるとき、女の子にさらなる不幸が訪れました。女の子の美しさに目がくらんだ征服者の将軍が、自分の召し使いになるようにと命令を出してきたのです。
     女の子と同じように傷から生き延びた幼馴染の男の子が、深夜にこっそりと女の子の家に訪ねてきました。
    「……逃げよう。遠くへ逃げよう。ぼくたちには、翼はなくても、二本の足がある。それを使って、逃げるんだ」
     女の子はうなずきました。
    「そうね。あなたとならば、どこまでも逃げられるような気がするわ」
     善は急げです。二人は、さっそく旅装を整え、夜陰に紛れて街を抜け出しました。
     しかし、怒り狂った将軍は、二人に追っ手をかけました。軍隊に包囲された二人は、三日の後に、断崖絶壁へと追い詰められてしまいました。
     眼下にごつごつした岩場と砕け散る波を見ながら、女の子はぎゅっと男の子の腕を握り締めました。周りからは軍隊がじわじわと迫ってきます。
    「こうなったら、一人でも多く道連れだ」
     男の子は腰の剣を抜こうとしました。
     女の子はその手を押さえました。
    「最後の、お願いがあるの。聞いてくれない?」
    「最後の願い……?」
     女の子は、震える顔で、なんとか微笑みました。
    「あたし、死ぬ前に一度、空を飛びたかったんだ」
    「空を? でも……」
    「あなたとよ」
     男の子は、はっとしました。ほんの小さな子供のころに交わした約束が、昨日のことのように頭に浮かんだからです。
     男の子は崖を見下ろして答えました。
    「いいよ。二人で飛べば、きっと怖くない。やつらの手に落ちるくらいなら!」
     二人は、抱き合い、宙に身を躍らせました。
     ぎゅっと目をつぶり、岩場と波に身体を砕かれる瞬間を待ち……。
     一瞬後、二人は、自分たちが飛んでいることに気がつきました。
    「飛んでいる……?」
     そうでした。二人は、海の上を、鳥のように飛んでいました。
     女の子は、明るい声で、歌を歌うようにいいました。
    「そうよ! 空を飛ぶのに、翼は必要なかったんだわ! 心の底から飛びたいと思えば、誰にでも空は飛べたんだわ!」
     二人は、呆然と見守る軍隊に背を向け、海の上を、どこまでもどこまでも、手に手を取って飛んでいったのでした。

    ……っていうお話なんだけど。あたし、なんだか、この二人の子孫じゃないかって思ってるんだ。おばあちゃんも、ご先祖様から代々伝わってきた話だっていってるし。
     証拠だってあるよ。ほら、この窓から、身を乗り出して、こう……。
     痛いよ。そんなに強く身体をつかまないでったら。冗談だったら冗談。
     でも、あなたがこうしてつかんでくれているなら、あたしも、無理して飛ばなくても、いいんじゃないかって思ってるんだ。
     なにを赤くなってるのよ。変な人!
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    ~ Comment ~

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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 一ノ瀬さん

    はじめまして。

    こういう話はやっぱり最後はハッピーエンドで締めないと(^^)

    ほっこりしてくださって嬉しいです(^^)

    はじめまして。

    ラスト、女の子が身を乗り出すところでとてもブラックなオチを想像してしまったのですが、その後の数行が大層きゅんとさせてくれて、とてもほっこりした読後感でした。
    楽しかったです。

    おじゃましました。

    Re: YUKAさん

    わたしも自作では好きなほうです。

    この話は、結末のシーンが頭に浮かび、そこから逆算して作りました。たいてい、「昔話シリーズ」はそうやって帰納的に作るのですが、中でもイメージが鮮やかに頭に浮かんだやつです。

    やっぱり愛し合う人間がハッピーエンドを迎えると精神衛生にもいいわけでありますよ(^^)

    とかいいながらシニカルなものばかり書いてしまうのでした。とほほ(^^;)

    こんばんは♪

    こんばんは^^
    久々に、昔話。

    私このお話、好きです^^
    ちょっとどうなるんだろうって思いながら読んでいたんですが
    最後に救いがあって良かったです♪

    Re: ぴゆうさん

    この話の最後のシーンは気に入ってます。

    やっぱり愛し合うカップルが幸福になると気分がいいですね書いてて。

    でもほかの小説はシニカルになってしまうのでありました(^^;)

    NoTitle

    明るい希望に終わった処がとてもいい。
    情景が浮かんだもの。
    雲間からいく筋もの光が差し込む、断崖絶壁。
    コバルトブルーの海。
    きらきらとした銀色の鎧と槍。
    目の先に手を取り合って飛んでいく2人の姿。
    ら~~ぶだわ。
    鳥人伝説の新たな始まりだね。

    Re: LandMさん

    ご紹介ありがたくあります。m(_ _)m

    ご覧の通りの零細ブログですが、どうか今後ともよろしくお願いします。

    NoTitle

    記事掲載したので、また見てやってくださいませ。
    http://landmart.blog104.fc2.com/blog-entry-142.html

    Re: LandMさん

    うーんちと残酷に思えましたか。たしかにそうも読めますよね(^^;)
    まあ昔のベストセラー「本当は恐ろしいグリム童話」のノリでお読みいただければ。

    リンク許可ありがとうございます。
    紹介記事は、もちろんかまいませんよ~♪

    わたしもそういうコーナーを作ろうかなあ。やっぱりあったほうがいいよなあ。

    考えないとなあ。

    NoTitle

    空を飛ぶ話っていうのは結構ありますよね。
    やはり空を飛ぶのは人の浪漫でしょうからね。
    どうもLandMです。

    その中で残酷性があるのが作品の特徴かな、と思います。
    私としては参考になっていいのですが。

    そう言えば、以前お話したリンクについてはOKとなりました。とりあえず、ウチのサイトの性質上、リンクするサイトについては感謝の念をこめて、紹介記事を日記の方でつけさせていただいているのですが、大丈夫でしょうか?
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