東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ63位 ヒューマン・ファクター グレアム・グリーン

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     重い小説である。たしかこれは大学生のころに近くの市立図書館で読んだ。ページをめくるのももどかしく、夜を徹して読んだため、翌日はふらふらで講義を聴くどころではなかったのを覚えている。

     それから二十年して再読してみた。やっぱり面白い。しかしやっぱり暗い小説であることには変わりなかった。特にこの年になると、主人公の老スパイがもう悲惨で悲惨で。これに比べればジョン・ル・カレのスマイリーはやはりスーパースパイだったんだなあ、と思えてくる。

     読み終えて、タイトルの「ヒューマン・ファクター」という言葉の意味を噛みしめることになるのもまた無常である。スパイの世界において、そうした人間的要因など、巨大な歯車の動きにつぶされてしまうものなのだ。

     諜報活動など、どこがどう転んでも汚い仕事には違いない。そんな中でも人間は愛するものを守ろうとするし、自分の生活を守ろうとするものである。それすらも「できるわけがない」と悟りながら生きるところに、末端のスパイの悲哀がある。

     できるわけがないのだ。情報部というものは、怪しいとなれば自国にいる情報部員でも、裁判なしでその命を奪って、誰も責任を取らないでいるものだ、という考えのもとで日常を生きていかなければ、スパイ戦で生き残ることはできない。

     作中で殺される情報部員の残した手帳を調べるシーンは、何度読んでも泣けるのだが、同時に皮肉な笑いをこらえることができない。「ハバナの男」での『敵の秘密兵器の設計図』をめぐるやりとりと同様、こういうシニカルなジョークをやらせるとグレアム・グリーンはうまいものだ。

     しかし、MI6もCIAもKGBも、なんでこんなろくでもない作戦を立てるのだろうか。その大義は、ひとりの男をこんなふうにしてしまうだけの価値があるのだろうか。そんなことをぶつぶつ考えて暗い夜は更けていく。

     二十年前のあの時よりもしみじみと面白く感じる小説であった。齢を取ったんだなあ、認めたくないけど……。

     未読の「密使」も読まなくちゃなあ。噂では傑作だそうである。
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