荒野のウィッチ・ドクター(長編ファンタジー小説・完結)

    荒野のウィッチ・ドクター(30・B)

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     30(B) 伝承によるエピローグ



    「だからさ」

     テマはいった。

    「こういうのって、あたしは悪趣味だと思うんだよね」

     アグリコルス博士はのほほんとした声で答えた。

    「成功したんだからよいではないか」

     アトは複雑な思いで、目の前にある「それ」を眺めていた。

     アグリコルス博士の発想は簡単なものだった。獣が「傷」を食らって治療をする時、「傷」を受けている存在とは何なのか、ということである。アグリコルス大博士は、学者としての観察力をもってテマの治療を観察して、魔方陣の中でテマの身体だけではなく、「ちぎれて落ちた髪の毛」のほうにも再生の跡がある、という事実を発見したのであった。

     もしこの観察が正しいとすれば、「ちぎれた耳」を獣に食わせたら、「ちぎれた耳から頭部を含む肉体を再生することも可能ではないか」と博士は推論を進めた。そして博士の推論どおり、博士は三人の生首を再生することに成功したのである。

    「だからといってどこも悪くない自分の耳を切り取ることもないじゃん。医者として、あたし、そういうの嫌いなんだ」

     純粋な意味での長時間の肉体労働を強いられ、ぼやきっぱなしのテマに向かってアグリコルス博士はにやりと笑い、目を丸くしっぱなしのデムにいった。

    「で、これをかついで文明社会に帰ってもらえるかな、デムくん」

     デムはうめいた。

    「そりゃ、命の恩人のいうことだからもちろんやるが、これをかついでいくのはひと苦労だぜ。兄貴がいくつかの壺と大量の塩を荷物の中に入れていたから、保存だけはなんとかなるといったらなんとかなるが」

    「きみの身体の強健だけが頼りだ。成功したらジャヤ教徒がかけていた賞金の金貨三千枚はきみのものだぞ。そう聞くとやる気が湧いては来ないかな。重いようだったらその気のふれた男に少し持たせて帰ればよかろう」

     アグリコルス博士は腑抜けのようになったアシャール法務官の方へあごをしゃくった。

    「大博士って人は人情というものをどう思ってるんだか。わかったよ。その話に乗らせてもらう。総督にも会って、あんたらの話を細大漏らさず伝えるよ。総督が博士のいう通りの人なら、おれを悪いようにもしないだろう。で、あんたらは、これからどうするんだ」

    「わしはここでミツリンチャノキの研究に没頭してもいいのだが、この野蛮人が面白そうなことをいい出してな」

     アトはぼそぼそといった。

    「おれはただ、テマに、あの葉によれば、この密林をさらに遥か東に行ったところに、人の傷を食らう謎の獣を飼い馴らしている村がある、といっただけだ」

    「それだけじゃないじゃろう」

     アグリコルス博士は含み笑いをした。アトはさらにぼそぼそといった。

    「おれは、もしそこで定住して、テマも獣をもっと飼い馴らしておとなしくさせることができたなら、身体の中にできた異物は全部食らわれるということもなくなって、お前も普通に子供が産める身体になると思うから、そのときはおれの子供を産んでくれないか、といっただけだ」

    「自分の意思で?」

    「自分の意思で」

    「精霊の導きではなく?」

    「精霊の導きじゃない」

     うむ、とアグリコルス大博士は大きくうなずいた。

    「その言葉に嘘はないじゃろう。立派な発言じゃ。で、テマくんはそれに対してどう答えたんだっけか」

     テマの顔は紅潮し、その身体は怒りに震えていた。

    「このスケベ爺いども……すでに聞いたことを何度も何度も蒸し返しやがって……」

     しばらくの沈黙ののち、テマは叫んだ。

    「何度でもいうよ! 行くっていったんだ! お前がこれから向かうところには、どこだって行くっていったんだよ! 主人も従者も関係ない、お前の行くところがあたしの行くところだ、って答えたんだよ! 悪いか!」

     アグリコルス博士は目配せしてデムにいった。

    「デムくんや。これからしばらくは、わしは観察するだけで面白いことになりそうじゃぞ。この経過報告を総督府で発表出来んのが残念じゃ」

    「みたいでやすね、博士。やっぱり美男子ってやつは、得ですな。なにもしなくても、こうやってころりと美少女が引っかかるんだから」

     アトは首をひねった。

    「『美男子』って、いったいなんなんだ?」

     テマは杖でアトの頭をぽかりと殴った。

    「まったくお前というやつは……鏡を見ろ! 水面を見ろ! 少しは常識というものをわきまえろ!」

     そのようにいわれても、これまでいくら鏡を見ても水面を見ても、女の子が黄色い声を出しても自分を見て意味ありげに目をそらせても、なんのことかまったく気づかなかったアトにはまったくピンとこなかった。

     三人の旅はなお続く。ふたりの旅はもっと長く続くだろう。そしてふたりの旅が、三人、四人、十人以上の遥かに長い旅にならないとは、誰にも断言できないのであった。

     親が子に語る昔話は、こうして終わり、子供たちはぐっすり眠る。真実かどうかは知らないし、気にすることもないままに。



    (了)
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    たまにはめでたしめでたしで終わるものを書かないと寝覚めが悪い(笑)。

    中南米をイメージしたのは、アニメ「エル・カザド」の印象もあるかな。しかし、砂漠とジャングルと海と山地が隣接しているなんて、いったいどんな世界やねん(笑) 絶対中南米の人、頭抱えるぞ(^^;)

    今になって読み返して、「テマの治療によりデムの耳が治っている」というエピソードを入れるのを忘れたことに気付いてちょっとあたふたしている(^^;)

    「なろう」にUPするときは忘れずに入れないとなあ(汗)

    NoTitle

    おつかれさまでした。めでたしめでたし!(^O^)
    楽しませていただきました。
    中南米っぽいファンタジーというのも楽しかったし、「紅蓮の街」の後日譚であったことも嬉しかったし、SF展開には作品世界がぐっと広がった気がしてドキドキしたし、エピローグのA/B構成もすごくツボでした。培養された生首を持って行く羽目になったデムさんは災難でしたが(笑)

    いやあSFとファンタジーの融合は本当好きです。楽しい時間をありがとうございました<m(__)m> 
    そして……アトかわいかった!(笑)

    Re: blackoutさん

    やっぱり自分としては丸く収まるハッピーエンドが書いていて一番気持ちいいので(←あれだけ人類をひどい目に合わせておいてどの口がいうか(笑))。

    blackoutさんの新作、楽しみにしておりますね~(^^)/

    Re: 矢端想さん

    根が哲学で、80年代の「言語SF」の影響をもろに受けましたからねえ……唯物論と決定論でガチガチになっているとはいっても、どこかでそういう「精神世界」とリンクしていると思いたがっているのかもしれません。そう考えると変なふうにロマンチストですなわたし(\\▽\\)

    NoTitle

    お疲れ様でした

    確かにテマの気持ちも理解できますが、アグリコルスの考えの方が、誰も泣き寝入りしないで済む、1番いい落とし所だと思いました

    テマとアトのその後が気になりますが、あの2人のことだから、順調に家族を増やしていったかなとw

    さて、そろそろ自分も新作を書き始めたいですね
    色々読んでると、書きたくてうずうずしてきますよw

    NoTitle

    ええっ、ここで終わりですか!?
    …いえ、面白かったです。「集合的無意識」。何らかの媒体によって知らずに知識なり記憶なりが受け継がれる。ポール先生の作品にはいつもどっかにそういう要素ない?僕は「幻想帝国の崩壊」と「偉大な男の物語」とで三部作みたいなイメージを勝手に持ってしまいました。物理的因果ではなく概念的なものの存在が世界や個人の意思まで規定するような。それと実は…「ドグラ・マグラ」と「イデオン」を連想してしまったことも…。
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