荒野のウィッチ・ドクター(長編ファンタジー小説・完結)

    荒野のウィッチ・ドクター・あとがき

     ←荒野のウィッチ・ドクター(30・B) →1983年(5)
    stella white12

     あとがき

     あだやおろそかで長編を書きはじめてはいけないな、と今になって思う。そのくらい、この小説は「あだやおろそか」で書きはじめたものだった。

     最初に頭にあったのはもちろんウィッチ・ドクターである。

     昔の海外製ファンタジーTRPGに「ロールマスター」というゲームがあった。超精密戦闘ルールと超精密魔法ルール、その他なんでも超精密をうたい文句にしたマニア向けゲームである。高校生のわたしはどきどきしながらそれを買い、プレイヤーを募ったが、ほとんどの人間はキャラクター作成と荷物の選択だけでやめてしまったという、それくらいのマニア向けゲームだ。せっかく高いカネを出して買ったゲームがウケなかったことによりわたしがどれくらいヒネてしまったかはここでは書かないでおこう。そのとき主流だった「ソード・ワールド」がどれだけ嫌いになったかも書かないでおきたい。

     で、その「ロールマスター」の中に、治療師という職業がある。この職業というのがものすごく、傷を受けた相手の傷を自分に移し、そして自分を治療するという代物だった。傷を移すわけだから、戦闘要員の傷はすぐに回復する、まことに理にかなった職業なのだが、理にかないすぎていて、おおかたの日本人プレイヤーは、念を送って相手の傷を直接治療する念術治療師という職業のほうを選びたがるのであった。この点、日本人のメンタルにおける、「傷=ケガレ」的発想がうかがえて興味深い。

     まあそんなわけで、専門誌にさえ「こんなマゾヒスティックな職業」「誰も選ばない」と書かれていた「治療師」を主役にしてみたら面白いのではないか、というのがもともとの発想だった。最初に思いついてから十年くらい頭の隅に置いていたネタだから、わたしもものもちがいいというか普段は何を考えているのだ、というか。

     さて、相方のアトくんであるが、この人のモデルは、昔のヤングキングに載っていた高港基資先生の漫画、「マサイ」の主人公である。こいつがまあ敵に回すと恐ろしいやつで、作中では高港先生の画力もあってターミネーターかなにかじゃないか、という化け物ぶりを見せていた。何と形容したらいいかわからない漫画で、アクションホラーファンといわず漫画好きにはぜひ読んでもらいたい逸品である。最終回を読んでまた頭から読み直すと感慨が深いという、ううむ形容に困るなあ。

     さすがにあそこまで化け物にすると読者が引いてしまうので、もうちょっと性格はマイルドにした。「文字を持たないがゆえの賢者」みたいな属性も加えた。それだけじゃ物足りなかったので「紅蓮の街」で使った「精霊」を使うことも決めた。となると、必然的に「紅蓮の街」の続編にならざるを得ない。地図で中国大陸から東にずっと行くと南米にぶち当たる。ようし大航海時代の南米植民地のノリで行こう、と決めた。こちらの世界では、「銃器」が存在しないので、植民者が原住民を圧迫することもなく、現実の歴史のようなひどい奴隷制は行われていないことにした。そのほうが書いているこちらも気が楽である。

     そんなふたりを、南米を模した世界をうろうろとほっつき歩かせて、「水戸黄門」「猿飛・霧隠・三好清海入道・由利鎌之助」「柳生十兵衛」のようにのんべんだらりと漫遊記ものを書くつもりであった。少なくとも第二章の時点ではそうだった。

     敵はジャヤ教徒だけに絞ったほうがよかったかも知れないが、そのときはそれだけではつまらないだろう、と思い、明確な悪役を作った。「ポンチョの男」である。モデルは「戦闘メカ ザブングル」のティンプ。

     そこからやたらと物語が指向性を帯び始めてきた。当初の予定では、適当に放浪していたふたりが放浪の果てに安住の地を見つけてめでたしめでたし、とするつもりだったが、あいつのせいで事態が人間世界の安定そのものまで揺さぶるようなことになってしまった。

     信じないかもしれないが、この時点で、「アトの村が虐殺されていた真相」も「精霊とはなにか」も「精霊の恵み」についても、まだ何も決めていなかった。全部後付け設定である。こんないい加減な性格のせいで昔から損ばかりしている。わはは。

     「精霊の恵み」のモデルは、いわずと知れたコカの葉である。あれを普通に噛むと、普通の嗜好品になるが、もしそこにほんのわずかだが木や草の灰を混ぜて噛むと……お察しくださいな事態になるので、昔の人の英知はすごかったんだなあ。

     さて、最後まで正体を謎に包んでいたポンチョの男には、部下が必要である。そこで作ったのがデムくん。当初はここまで重要な人物になるはずではなかった。それがいつの間にかあれよあれよと大出世。まるで「紅蓮の街」のガスくんである。わたしの長編ではこういうやつ多い。

     アグリコルス大博士を出した時は楽しかった。というより、この人が出てきてから政治陰謀劇とまさかのSF的展開に。いや、理論思い付いちゃったら小説に出すだろ、普通! そのためには現代人の我々と同様の知識を持つ「現代人」に登場していただかねばならんのだ。聞き役として。

     中盤まではこの五人だけで回すつもりだったが、それでは足りなくなってアシャール法務官と総督を出した。アシャール法務官、気の毒な奴である。いかにも日本人的エリートである東大出の野心的な官僚というところを目標にした。対して総督はあれしか出ていないのにけっこう存在感があった。面白いものである。

     しかし二年間にも及んで240枚書いたところで息切れを感じた。間に「ほら吹き大探偵の冒険」が挟まったせいもあるが、同時に「ゲーマー!」を始めたせいもあるが、体力を過信しすぎていたせいもあるが、480枚書いたら倒れるんじゃないか、という恐怖を抱き、360枚で終わらせることにした。

     矢端想さんのコメントにもあったが、たしかに中途半端といえば中途半端なところで終わっている。でも、ここから先、テマとアトが「獣を飼う村」にたどり着くまでを書いてもさらに駄作度を深める役にしか立たんと思えてならない。だいいち「獣」の正体を考えていないしな。

     わざと書かなかった部分もある。例えば「精霊の恵み」への情報のインプット方法。ここでそれを書いてもなんだろう。想像したそれが答えです。いや全くひどい話で。

     面白かったら改稿して「紅蓮の街」といっしょに「なろう」に上げてみようかな、などと考えている。でも恋愛ファンタジーならまだしもSFとなるとウケないらしいしなあ。どうしようかなあ……。

     テマとアトの名前が、メソポタミア神話の女神「ティアマト」から取りました、となればカッコいいのであるが、すみません、「後手間」から取りました。たはは。
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    ~ Comment ~

    Re: 山西 サキさん

    この結末シーンについては、アグリコルス大博士を登場させたときに思い付き、裏でにやにや笑いながらプロットを修正したものであります。とはいえ、本来はジャングルの中ではなくデムの鉱山で勝負をつけるつもりでした。

    アトの朴念仁ぶりは、「ボケ」を真面目な顔してやってほしかったんです。テマがツッコミ役。それなりにうまく機能したと思います。

    ファーストシーンとラストシーンだけ決めておいて後はアバウトに書く、という方法でないとわたし長編書けないんですよね。きっちり設計図を作るlimeさんみたいな真似はわたしには無理で、そこがあの人を尊敬している点なんですけど。

    「アト」「テマ」については、「やっぱり読者にウソをついてはいけないだろう」と(笑)。だって「ティアマト」からとっていたのなら、「テマ」は「ティマ」になってなければいかんだろう、と。もうこれはいいわけのきかん「後手間」であります(^^;)

    NoTitle

    どうなることかと思いながら読み進めてきましたが、「だからさ」で一気に肩の力が抜けました。良かったです。ひょっとしてあのまま終わってしまうのかと思ってドキドキしてました。
    ポールさんのことだから、あんまり酷いことにはならないと思って読んできましたが、ああいう風に伝承として展開されると万が一ということもありますからね。
    しかし、アトの朴念仁ぶりは筋金入りですね。あ、そんなんじゃなくて「戦士」である彼はちゃんとこういう奴なんでしょうけれど、そう感じてしまいます。
    アトとテマのやり取りは面白かったです。ちゃんと気持ちを伝え合っているのに傑作です。アグリコルス大博士がチャチャを入れる気持ち、わかるなぁ。

    そしてポールさんが書き進めながら設定をかなり大幅に変えたり追加したり、キャラを増やしたりされていることに驚きました。あの複雑な理論と設定を後付けで展開され、矛盾なく進めるられたのに驚いたのです。
    登場人物はそれぞれが個性的に書かれていて読んでいて楽しかったです。特にサキはデムが好きだなぁ。最後は結構良い奴になっているし。
    SF冒険物語、サキはとても面白いんですけれど、世間ではウケないんですか?
    残念です~。

    あ!絶対、女神「ティアマト」から取りましたと言うことにした方が・・・。
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