ゲーマー!(長編小説・連載中)

    1983年(8)

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     PB-100には、BASICの各命令をワンキーで打ち込むための機能もついていた。シフトキーを押してから対応するアルファベットのキーを押すと、「PRINT」や「GOTO」といった命令が即座に出てくるのである。

     しかしそれでもポケットコンピューターの、ゲームウォッチに毛が生えたようなゴム製の細かいキーボードを、一文字一文字親指を使って押しての作業は神経をすり減らすものだった。なにしろキーボードを入れてもゲームボーイよりも小さい代物である。ブラインドタッチなど不可能だということは、ひと目見れば誰にでもわかる、そんなおもちゃのようなコンピュータなのだ。

     わずか1キロバイトのプログラムを入力するのに、修也の指ではたっぷりと4時間はかかった。

     修也は震える指でモードを切り替え、打ち込んだプログラムをスタートさせた。

     「RUN」と入力してEXEキーを押す。PBシリーズは、命令を実行させるキーが「RETURN」でもなく「ENTER」でもなく「EXE」だった。関数電卓の名残であるか、カシオ計算機が独自性を出したかったのかどうかはわからない。

     一瞬、間があった。

     次の瞬間、液晶の表示画面に出てきたのは次の文字だった。



     ERR2 P0-30



     修也はうなると、モードをWRTモードに切り替え、プログラムの30行の修正にかかった。

     「ERR2」、それはPB-100でなにかしらのプログラムを組もうとする人間が必ず出会う、もっとも基礎的なエラー、「構文エラー」「シンタックスエラー」というものだった。要するにプログラムの打ち間違いである。

     調べてみると、プログラムの間違いはすぐに見つかった。「:」を「;」と打ち間違えていたのである。

     修也はリストを見て修正し、再度RUNモードに切り替えてプログラムを実行しようとした。



     ERR4 P0-40



     今度は存在しない行番号のサブルーチンを指定してしまったらしい。

     修也はこの、消しても消しても現れるバグを相手に、また1時間ほど退治に追われるのであった。

     プログラムがどうやらまともに動くようになったと思われたのは寝る時間の直前だった。修也は未練を残しつつ寝床へ行った。

     世の中、ゲームをひとつやるにしても、そう簡単にはいかないものなのである。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    PB-100はまだいいんです。タイプミスしても「暴走」しませんから。

    でもカタカナが出ないというのは正直つらかったですね、英語が弱いゲームファンとしては。アドベンチャーゲームが作りにくくて(笑)

    NoTitle

    懐かしいなあ。。。
    ゲームを作っていたころはよくありました。
    こういう一文字のミスがゲームのミスに綱がるのですよね。
    昔はよくゲーム小説とゲームの併用ができなあ・・・と思います。

    Re: 椿さん

    画面が小さいどころではありません。

    なにしろ、PB-100は「文字が一度に12文字までしか表示されない」んですから、1行を調べるのもたいへんで(笑)

    まあ慣れてくるとだいたいリストを見ると文のどこらへんで間違えたのかカンでわかってくるのですが(笑)

    エミュレータをダウンロードしましたが、いや懐かしいですな。図書館で昔の本も借りたいけれど、あるかなあ(^^;)

    NoTitle

    た、大変そう(^-^;
    キーボードで打ち込むのだって大変なのに、ポケコンでのプログラム入力を想像すると……自分だったら1回やったら音をあげそうです。
    :と; とかあるある過ぎる……エラー箇所を探すのも、画面が小さいから大変でしょうね。
    とりあえず修也くん、おつかれさま。この後、無事にゲームが出来ることを祈っております。

    Re: ECMさん

    バベッジといえば、昔のSF「ディファレンス・エンジン」、面白いそうですね。まだ未読ですが、バベッジの機械が完成していたら、ほんとにあんな風にガチャガチャ動いたのでしょうか。気になります。

    もしもガウスが現代に生まれていたら、ハッカーになっていただろう、というジョークがありますが、バベッジが現代にいたら、リアルでボブ&キースをやっていたんじゃないかなあ(笑)

    NoTitle

     デバックの困難さは19世紀にバベッジが自動計算器を構想したときに、すでに予言されていました。
     なにしろバベッジが作った自動計算器用のプログラムの誤りを、エイダ(コンピューター言語のエイダの由来になった、世界初のプログラマーと思われる人物)に指摘されていたという。
     まあバベッジの自動計算器には、メモリーの概念がなく、すべてレジスタのやりとりで計算するものでしたが。
     バベッジの自動計算器の完成には、国家予算レベルの資金が必要なので、自動計算器の改良の図面を書いたり、部分的に作ったりするのを趣味としていたため、世界初のコンピューターマニア?でもあるようです。(笑)
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