映画の感想

    「その夜の侍」見る

     ←ニーチェという男 →海外ミステリ63位 ヒューマン・ファクター グレアム・グリーン
     ブログDEロードショーの企画として見る。

     思ったままを書く。

     「日本映画界の将来を心配したくなってしまう映画」だった。

     なんというか、日本映画界がなぜ不振なのかの理由が濃縮されているような映画なのである。

     1.「物語のコードを破りさえすれば面白くなると考えたらあかん」

     最大の問題点はここだろう。つまり、この映画の脚本は、「普通の映画に飽きた」人間のために書かれている。物語としては当然の「お約束」が出てきたときに、いかにして予想外の方向にそれを破るか、ほぼそれだけで脚本が構成されている。そのため、物語は破綻に破綻を極め、登場人物が全員頭がおかしいのではないか、そんな思いを見る者に与えるのである。

     「マニア向けの芸術映画」としてはそれもありかもしれないが、映画好き、レベルの、ちょっとたまには映画を見てみようか、という人間がこれを見た場合、「拍子抜け」の連続であろう。死ぬべき人間が死ぬべき時に死なず、ベッドシーンがあるべきところでなく、クライマックスが「カタルシスをもたらす方向に動かない」のである。それではこの映画を見てどこを面白く思えばいいのかわからないではないか。

     日本映画の悪い点であると思う。



     2.「『現代人の孤独』を描きさえすれば面白くなると考えたらあかん」

     この映画にテーマらしいものがあるとしたら、それは「現代日本に住んでいる人間の危機的なまでのディスコミュニケーションぶりと、それがもたらす恐るべき孤独」だろう。テーマとしてはいいかもしれない。しかし「現代人の孤独」なんて、もうみんな議論の前に知っており、受け入れている『事実』である。ここで『孤独』を描かれても、「それだったらNHKないしEテレのドキュメンタリー見たほうが危機意識や切迫性がより強く感じられるんじゃないかなあ」と思うのが関の山ではないか。孤独を描くなら描くで、もうちょっと見せ方というものを考えよう、とは思わなかったのか。前記した「脚本の意図しての破綻ぶり」をあわせると、ディスコミュニケーション以前に、「ここに出てくる『人間』は『人間』のふりをしたエイリアンか何かではないか」としか思えない。いくらなんでも観客と登場人物の間くらいにはコミュニケーションなり共感なりができるようにしておかないと、見る方としてはたまったものではない。

     ここも日本映画の悪い点だと思う。


     3.「俳優が熱演しさえすれば面白くなると考えたらあかん」

     この映画の俳優陣は熱演していると思う。それは認める。だが熱演のベースとなる脚本が破綻しているのである。人物がひとりもまともに共感できるやつがいないのである。共感できないやつを熱演されても、「共感できなさ」が拡大するだけで、ますます登場人物が「人間のふりをしたエイリアンか何かで、言語さえまともに通じないのではないか」という思いを強くするだけである。不条理感を出す意味があったのかもしれないが、不条理で面白くなるのはカフカの小説くらいなのであって、それも作者がカフカだから面白くなっているのである。熱演すれば熱演するほど、「どこでどう面白く思ったらいいのかわからなくなってくる」となったら、そもそも優秀な俳優を出すこと自体の理由すらわからなくなってくるではないか。俳優陣がかわいそうに思えてならなかった。

     やっぱり日本映画の悪い点だと思う。


     4.「泥まみれでアクションしさえすれば面白くなると考えたらあかん」

     黒澤明へのオマージュのつもりだとしても、「クライマックスで泥まみれのアクションシーンに持って行くためだけに脚本を破綻させてみました」みたいな考えが透けて見える気がする。泥まみれのアクションが撮りたいのなら、それなりに細かい積み重ねという「お約束」が必要なのではないか。単にそれを怠っているとしか思えない。


     総論としては、サスペンスだとか芸術だとかいう前に、「脚本はなんとかならんかったのか」である。疲れた。この映画を推薦してくれたケフコタカハシさん、すまぬ。
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    ~ Comment ~

    Re: しずくさん

    ここではまだいえませんが、

    ものすごい「カルト映画」です。

    未見ですが、DVDが新版としてレンタル屋に並んでいたので思わずリクエストしてしまいました。

    さあそのカルト映画とはなんでしょう? ヒント:日本映画です(それだけでわかるかっ!(笑))

    良く分かりました

    >もとは舞台劇だったそうですが、舞台劇としても「舞台劇を見慣れてちょっとやそっとのことでは驚かないすれっからしのマニア」向けの舞台でしょうし

    私も御多分に漏れずそのクチでしょう(笑)
    演劇部に所属し、遅まきながら多少アングラ演劇をかじり上演しましたから・・・。その頃抵抗をかなり覚えたのですが、染みついた何とかは拭い落とせないのかもしれませんね。
    さて、物語の云々の件です。
    ポールさんが私に提示されたことは、その後のケフコさんのコメントでより伝わりました。
    同じ内容を私におっしゃりたかったのだろうと、後から合点がゆきました。
    私の疑問に皆様がそれぞれコメントを下さり、今回は「ブログde~」ならではのことがありました!

    >「世評の高さ」と「賞の受賞」でえらんだ2月のあの作品

    どんな作品か楽しみです!
    佳きお年をお迎え下さい!
    TBさせて戴きました。

    Re: 宵乃さん

    うーん、やっぱり個人差でしょうね。

    心情を考慮したとしても、あの場面でのあの情報量では、わたしにはどうしても「人前で泣く」まで至らないんじゃないかとしか思えないんです。

    もしかしてわたしは自分で思うよりも冷酷で非人情な性格なのかもしれません(汗)。

    NoTitle

    幸せになるのを拒むように「僕はそんな人間じゃない」という言葉を親しい人から聞かされたら、思うところはありませんかね?
    今まで彼が立ち直れるよう願って見守り続けていた相手だったら、なおさら無力感に襲われませんか?
    幸せになってほしいけど、それは本人がどうにかするしかない。自分には見守ることしかできない。
    愛する人を失う痛みは、自分の想像をはるか越えたもので、彼は今もそれに耐え続けているというのが想像できて、私なら泣いてしまうと思います。(その場では泣かないかもしれないけど)

    …まあ、これも個人差なんでしょうね~。
    長々付き合って頂きありがとうございました。

    Re: 宵乃さん

    うーん、そこらへんにギクシャク感があるんでしょうねえ。

    観客のわたしたちは主人公がすべてに清算をつけて仇を討つなりなんなりしに行く、ということがわかっているから、あそこで中村が泣いても違和感を感じないのでしょうが、少なくともあの段階では、中村は主人公が仇の死まで思い詰めているということを知らないわけです。だから、主人公がグローブを中村に渡すという行動を取っても、それが「やっと妻を忘れる決心がついた」のか、「自死するつもり」なのか、「仇の命を奪うつもり」なのか、判別が付けようがないというのが自然だと思うんですよね。で、中村が「主人公は自死するつもりだ」と思ったのなら、走って探し回って止めないとウソですし、「主人公が仇の命を奪うつもりだ」と思ったのなら、それこそ走って止めないとウソでしょう。「やっと妻を忘れる決心がついた」と判断したのなら、友人が新たな一歩を踏み出したことを思って感慨にふけりこそすれ泣くいわれがない。

    したがって、個人的には、あの場面では、演出的には、中村は、「グローブを渡されたことをぼんやりと考え続ける」だけでよかったのではないかと思ってます。

    うーんうがち過ぎかなあ。

    NoTitle

    >「だからなんでそこで突然伏線もなしに泣き出す」んだ、と思えてしまって

    みんなで中村を気遣っていたところで、「僕はそんな人間じゃない」と言って、彼女がいないうちに勝手に去って行ったところで泣き出したんでしたよね?
    それまでも中村が新しい人生を歩めるよう、彼らなりに頑張っていた様子が描かれていたし、この男泣きがあったからこそ、描かれていたシーンだけじゃなく、これまでずっとやってきたことだというのが伝わると思うんですが…。

    少なくとも私はこのシーンを見て、何年も傍にいて何もしてあげられない無力感とか、何年経っても癒えるはずのない深い傷を思っての共感(家族と一緒に過ごす”良き父”の描写があったので、自分が最愛の家族を失ったらと想像することはできたはず)が、自然と伝わってきましたよ。

    Re: 宵乃さん

    「都合がよすぎる」というよりも「反応が不自然」なんですよね。ベンチで泣き出す同僚についても、「だからなんでそこで突然伏線もなしに泣き出す」んだ、と思えてしまって、感情移入どころではなかったです。これも、「観客の不意をつく」という演出の意図によるものだと思いますけれど、正直、「やりすぎ」以外の何物でもないと思います。ラストの展開も同様。

    もとは舞台劇だったそうですが、舞台劇としても「舞台劇を見慣れてちょっとやそっとのことでは驚かないすれっからしのマニア」向けの舞台でしょうし、脚本でしょう。「ゴドーを待ちながら」のような不条理劇の影響を受けているのかもしれません。芸術作品としてはどうだか知りませんが、エンターテインメントとしては完全に失敗作だと思います。こんな作品に賞をやっちゃいかんだろ、と思いました。

    「世評の高さ」と「賞の受賞」でえらんだ2月のあの作品も、もしかしたら……と考えて怖くなってます。まだ未見なので、海のものとも山のものとも。今から弁解の文章の草案を考えています(汗)

    NoTitle

    >登場人物が全員頭がおかしいのではないか

    これはちょっと思いました(汗)
    主役二人はおかしくてもいいんですが、その周りの人たちが二人にとって都合がよすぎて誰にも共感できなかったです。…でも、ベンチで泣きだす同僚さんには不意打ちでウルっときました。
    ラストはもう少し普通の決着をつけてほしかったですよね~。木島を野放しにしていて良いのか!?

    今回もご参加ありがとうございました♪
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