東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ69位 皇帝のかぎ煙草入れ J・ディクスン・カー

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     ひさしぶりに再読。面白かった。恐ろしいまでによく考えて作られた文章でしか構成できない物語であるが、叙述トリックとは違う。こんな小説を書いて許されるのは、カーとチェスタトンくらいであろう。

     しかしよくこんなシチュエーションを思いつき、それを書こうと思ったものである。普通の作家なら思いついた時点で即ゴミ箱行きのようなアイデアなのだ。それを長編にするというのは、ある意味クリスティを上回る図々しさというか度胸というか……乱歩がこの小説に熱狂しながらも「ごまかし」といわざるをえなかったのもよくわかる。

     創元推理文庫で300ページにも満たない、しかも読みやすい話ではあるが、ある意味非常にマニア向けの作品だともいえる。カーのこのトリックに感心する人は、ミステリマニアの素質がじゅうぶんある人だろう。しかし、感心しない人は、腹を立ててこの本を叩きつけてしまうのではないか。

     あらすじを書きたいところだけれど、それをこの小説にやってしまうというのもなあ。ものすごく語りたくてたまらないのだが、ぐっとこらえるファンのつらさよ。

     なにしろ作者は表紙からしてだましにかかってくるのだ。どこが「徹底したフェアプレイ」だ。奇襲攻撃もいいところではないか。読み終えてから表紙を見るだけでにやにやできる謎解きミステリなんて、この作品くらいだろう。

     有名なパズル作家のサム・ロイドに、キャベツ畑を逃げる鶏をつかまえるというパズルがあるが、まさにあのようなだましのテクニックが炸裂している。カーのドヤ顔が目に浮かぶようだ。

     ミステリを書いているアマチュアとしては、いつか自分もこんなふうに読者をだます作品が書きたいものだ、と思わずにはいられない。

     「だまされる喜び」がわかる人間なら、一度は読むべきミステリ。チェスタトンだかがいったとおり、すべての一流の芸術作品というものは、そのすべての外装をはぎとったら、そこにはシンプルな構造が残るものなのだ。この小説はまさにそれを追求したものだ。この発想のあまりのシンプルさにニヒニヒ笑えたら、謎解きミステリの奥深い世界はきっと満足感をもたらしてくれるだろう。そうでなかったら……ミステリではなくて何か別なものを読んだほうがいいと思われる。六法全書とか。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    タイトルからしてミスディレクションですからね。

    カーも根性悪です(笑)。

    NoTitle

    読み終えてからの表紙、
    ニヒニヒ笑いが出ますね。

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