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    手斧を持ったサンタ

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     ぼくは枕もとのカレンダーを見て憂鬱な気分になった。クリスマスなんか早く過ぎて、お正月にならないかと強く願った。

     理由はこうだ。両親が、ぼくが来年から中学生になることを祝って、映画に連れて行ってくれるといっているのだ。

     普通の映画なら、ぼくは大喜びで映画館に行っただろう。だがしかし、ぼくの両親は、根っからのホラー映画ファン、スプラッター映画ファンなのだ。

     見に行く映画はこれだ。海外ホラー映画『手斧を持ったサンタ』である。なんでも、サンタクロースの姿をして手斧を持った殺人鬼が大暴れする映画なんだそうだ。

     ぼくは人一倍の怖がりだ。みんなそれを知っている。それなのに、そんな怖い映画をどうしてぼくが見なくちゃならないんだ!

     映画館の外壁に貼ってあったポスターでは、血まみれの手斧と、恐怖に見開かれた目がでかでかと描いてあった。瞳の真ん中に、ぼんやりとしたサンタクロースのシルエットが浮かんでいるのである。

     見たくない。そんな映画、見たくない。だが両親は、ぼくを連れて行く気満々だった。しかもそれをクリスマスプレゼントにする、といってはばからないのだ。そんなものよりぼくはスマホがほしいんだけども。

     とうとう寝る時間が来て、ぼくは、明かりを消した部屋の中で、ベッドにもぐり込んでいるというわけだ。ぼくは、明日のクリスマスが来るのが一秒でも遅くなるように一心に願った。

     祈っていると、ごとり、と音がした。

     なにかがいる。両親は寝てしまったはずだ。クリスマスプレゼントは明日のホラー映画なので、起きてくるわけがない。

     音が変わった。

     みしり、みしりと音がする。何の音だろうか、と思ったが、すぐにわかった。階段を誰かが……かなり重い体重をした誰かが、登ってくる足音なのだ。

     ぼくは叫ぼうとした。どう考えても、泥棒かなにかである。「なにか」……なにかってなんだよ! 泥棒に決まっているじゃないか! だが、ぼくの喉からは、かすれ声すら出なかった。

     足音が止まった。ぼくは、ごくりと息をのんだ。

     ドアのノブが、ゆっくりと回り出した。

     ぼくは逃げ出そうとした。だが、身体がすくんで動かない。

     ドアが、かすかにきしみつつ開いた。

     最初に見えたのは、斧の刃が、星明りを受けてぎらりと輝くところだった。

     斧を持っているのは……ぼくは小便を漏らしそうになった。

     丸々と太った、小山のようなサンタクロース!

     サンタクロースは、手斧をかざして、ゆっくりとぼくのベッドに近づいてきた。

     ぼくは身動きもできなかった。

     サンタクロースは、手を伸ばすと、ぼくの右手を引っ張った。

     ぼくは暴れようとしたが、そのぼくの手に、サンタは手斧を握らせた。

     サンタはにやりと笑うと、ひとこといった。

    「クリスマスプレゼントだ。勇気をもって、強く生きるんだぜ、少年」

     その言葉にほっとしてしまったのか、ぼくは意識がすうっと遠くなっていくのを感じた。

     目が覚めたら朝だった。クリスマスの朝だ。当然、斧なんてどこにもなかった。

     ぼくと両親は映画館に行った。ポップコーンとコーラを買い、ぼくは『手斧を持ったサンタ』が始まるのを見た。

     ショッキングな音楽と叫び声の連続する、血まみれでグロテスクな映画だった。怖くなかったといえば嘘になるが、ぼくは平然として映画を見た。両親はそんなぼくに拍子抜けしたようだったが、それでも喜んでくれたらしい。

     映画の後に食べたビーフステーキは、大人の味がした。

     ぼくは確信している。そんな大人の味がわかるようになったのは、ゆうべサンタクロースがぼくの心にくれた手斧のおかげだと。あれで、ぼくは大人になったんだ。

     中学校に入って、ひとりで映画館に入ることができるようになったら、クラスでちょっと気になっているあの女の子を誘って、ホラー映画でも見てみようかな。

     そのときは、見る映画は選ぶことにしよう。血まみれでグロテスクで怖い映画だったが、『手斧を持ったサンタ』は、安っぽい作りであまり面白い映画ではなかったからね。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    中学生のころの夢が、そのままヴィヴィッドな形で描けたらいいなあ、と思うことはときどきあります。必然性も構成も何もなく、極彩色で爆発するようなイメージの奔流を奔流として描く!

    「幻想帝国の崩壊」の最盛期幻想帝国パートでそれをやろうとして破綻したのは内緒だ(笑)

    Re: miss.keyさん

    そりゃあいちおう、読者にそういう想像をさせてどきどきさせよう、ということくらいは作者も企んで書いてます(^^)

    そういえば岡嶋二人に「クリスマス・イブ」という血も凍るようなホラー長編がありまして、見かけたらぜひご一読を(^^)

    Re: ダメ子さん

    ホラーファンイコール中二病とも思えないですが(^^;)

    まあ、ホラー映画を見ても動じないだけの根性は身に付いたようですし、女の子ともうまくいくんじゃないでしょうか。

    ちなみにホラー映画についての耐性はほぼゼロのわたしは、現実の人生において女の子とは(以下略(笑))

    NoTitle

    。。。夢オチ?
    まあ、、この時期の夢って、結構将来に影響したりしますよね、私も今のファンタジー小説は中学生の頃の夢ですからねえ。

    目覚めて階段を下りるとそこには

     クリスマス朝の惨劇を想像してしまいました。そして惨劇の犯人は夢の中の自分だったとか・・・わたくしは毒されていますでしょうか。

    NoTitle

    ホラーマニアに洗脳されたと言えなくも…?
    そして今後中二病に…
    あの女の子とうまくいきますように…
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