5 死霊術師の瞳(連載中)
死霊術師の瞳 1-3
「それにしても、お前が墓守をやっているとはな」
坂元開次はわたしをミラに押し込んだ。
「職業選択の自由は憲法により保証されているとばかり思っていたが」
「それは普通の墓守の話だ」
坂元開次は、運転席に乗り込むとシートベルトを締め、ちらりとバックミラーを見た。おおかた、わたしの仕事場である墓地の、墓地とは思えないほど繁茂している雑草でも見ているのだろう。
「だいたい、墓守というのは昔からある種の厳粛さを伴っていたはずだ。それに対して、お前がやっていたのはなんだ。コタツにネットにテレビ。来る理由もない侵入者を見張る形だけのパトロール。これに缶ビールがあったらただのニートだぞ。墓守として認めてもらいたければ、せめて草むしりくらいはやるもんだ」
わたしは坂元開次がわざとそういう発言をしているのを知っていた。この墓は、草むしりをするのを、運営する会社自らが禁止しているのだ。
坂元開次はイグニッションキーを回し、アクセルを踏み込んだ。
「だいたい桐野、お前が手を貸している『棄骨ビジネス』というもの自体がおれには納得いかん」
「もうちょっとポリティカル・コレクトネスに配慮した呼び方はできないのか。『自然回帰埋葬システム』とか」
坂元開次はわざとらしくげらげら笑うと、真顔になった。
「あれを『埋葬』とはよくいったもんだ」
わたしは返答できなかった。その通りだからだ。このビジネスは「埋葬」ではなかった。「葬儀」ですらない。「死者に対する畏敬」というものを完全に否定するところから始まっているのだから当然だ。
「いいか、桐野」
坂元開次は物わかりの悪い子供に説き聞かせるようにいった。
「いくら相手がどうしようもなく憎くて仕方がなく、『無縁仏』にして成仏される価値すらないと思ったからといっても、それを実行に移すようなやつは、おれは人間として最低だと思う」
「法律はクリアしているといっていたが」
「死体損壊罪か。刑法190条。『死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する』。確かに墓守を置いた墓地に埋めてあるから遺棄じゃないわな。正当に埋葬の手続きを踏んでいるわけだから領得したわけでもない。骨壺に生分解性プラスチックを使うのは、草が生えるままにしてある墓地で土に還るという自然に配慮した埋葬法というわけだ。唯物論者が運営しているという建前だから宗教も問わないし坊主の読経すら存在しない。もちろんお布施も祈祷料もだ」
坂元開次はわたしをミラに押し込んだ。
「職業選択の自由は憲法により保証されているとばかり思っていたが」
「それは普通の墓守の話だ」
坂元開次は、運転席に乗り込むとシートベルトを締め、ちらりとバックミラーを見た。おおかた、わたしの仕事場である墓地の、墓地とは思えないほど繁茂している雑草でも見ているのだろう。
「だいたい、墓守というのは昔からある種の厳粛さを伴っていたはずだ。それに対して、お前がやっていたのはなんだ。コタツにネットにテレビ。来る理由もない侵入者を見張る形だけのパトロール。これに缶ビールがあったらただのニートだぞ。墓守として認めてもらいたければ、せめて草むしりくらいはやるもんだ」
わたしは坂元開次がわざとそういう発言をしているのを知っていた。この墓は、草むしりをするのを、運営する会社自らが禁止しているのだ。
坂元開次はイグニッションキーを回し、アクセルを踏み込んだ。
「だいたい桐野、お前が手を貸している『棄骨ビジネス』というもの自体がおれには納得いかん」
「もうちょっとポリティカル・コレクトネスに配慮した呼び方はできないのか。『自然回帰埋葬システム』とか」
坂元開次はわざとらしくげらげら笑うと、真顔になった。
「あれを『埋葬』とはよくいったもんだ」
わたしは返答できなかった。その通りだからだ。このビジネスは「埋葬」ではなかった。「葬儀」ですらない。「死者に対する畏敬」というものを完全に否定するところから始まっているのだから当然だ。
「いいか、桐野」
坂元開次は物わかりの悪い子供に説き聞かせるようにいった。
「いくら相手がどうしようもなく憎くて仕方がなく、『無縁仏』にして成仏される価値すらないと思ったからといっても、それを実行に移すようなやつは、おれは人間として最低だと思う」
「法律はクリアしているといっていたが」
「死体損壊罪か。刑法190条。『死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する』。確かに墓守を置いた墓地に埋めてあるから遺棄じゃないわな。正当に埋葬の手続きを踏んでいるわけだから領得したわけでもない。骨壺に生分解性プラスチックを使うのは、草が生えるままにしてある墓地で土に還るという自然に配慮した埋葬法というわけだ。唯物論者が運営しているという建前だから宗教も問わないし坊主の読経すら存在しない。もちろんお布施も祈祷料もだ」
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Re: えぐさん
明けましておめでとうございます(^^)
映画といえば年末の話題をさらった「この世界の片隅に」を観に行きたいんですけれど、体力が許すかどうか、で……。仕事に触るよな、絶対。何せ3時間だもんなあ。
映画といえば年末の話題をさらった「この世界の片隅に」を観に行きたいんですけれど、体力が許すかどうか、で……。仕事に触るよな、絶対。何せ3時間だもんなあ。
NoTitle
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致しますm(__)m
今年もお体大切にしてくださいね!
そしてポール・ブリッツさんにとって幸多き一年になりますように!
おススメ映画のお話も楽しみにしています(^_-)-☆
今年もよろしくお願い致しますm(__)m
今年もお体大切にしてくださいね!
そしてポール・ブリッツさんにとって幸多き一年になりますように!
おススメ映画のお話も楽しみにしています(^_-)-☆
- #18264 えぐ
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- 2017.01/03 19:19
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Re: 鍵コメKさん
人間ああはなりたくないですな……。