5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 1-4

     ←死霊術師の瞳 1-3 →1983年(9)
     坂元開次はミラを乱暴に運転した。

    「どんなやつがこの『ビジネス』の利用者になるのか考えただけでも泣けてくるな。なあ、桐野! このサービスを利用するのは金持ちじゃない。例えばアル中でヤク中でギャンブル中毒で家族を貧困のどん底に追いやった挙句死んだやつ、葬式どころかこんなどうしようもないやつの死体を埋葬するのにどうして金なんか払わなくちゃいけないんだ、と頭を抱えている貧乏人。そんな家にセールスマンが現れるという寸法だ。さまざまな業界の中でも最低の料金で埋葬してくれるということだけでも飛びつく客はいるだろう。それに、本気でその自分の抱えた遺骨に対して憎悪を向けている人間には、『弔いの言葉ひとつもなく、静かに朽ちていきますよ』と説明する。ふらふらと契約書にハンコを押してしまい、後はこの原野も同然の、廃村になった田舎の墓地に穴を掘って骨壺を次から次へと埋めりゃいい。『維持』ということを一切しないのだから、びっくりするような低価格でもびっくりするような儲けが出る。後は名義上の墓地の持ち主である寺と、業者とで儲けを山分け。墓守をしようなんていうもの好きな労働者は、衣食住に加えてインターネットを保証すれば、後は最低賃金で働いてくれる」

     坂元開次は誤解していた。わたしは労働者ではない。名目上は経営者だ。要するにパクられ要員である。なにかの事情で警察沙汰になった場合、刑務所に送られることも仕事のうちなのであった。

    「あのパソコンは惜しかった」

     わたしはぽつりといった。

    「書きかけの手記をまとめてあるんだ」

    「インチキ霊園の名ばかり管理人の手記なんて、そんなもの誰が読む」

     坂元開次はにべもなかった。

    「そういう自己憐憫に満ちた行為はやめて、ちっとは現実に目を向けろ。桐野、お前の力を借りたいという人がいるんだ」

    「ナイトメア・ハンターとしての力か」

    「ほかに何がある」

     わたしはドアのノブに手をかけた。

    「下ろしてくれ。裁判所でも何度もしゃべった。わたしには、ナイトメア・ハンターとしての能力は、もうないんだ」

    「それでも、と相手はいっている。お前もよく知っている相手だよ。福島清親という医者だ。奥さんが大変なんだ」

    「なおさらだ。わたしはあの男とこの二十年間ずっとそりが合わなかった。助けてやる気もないし、力もない」

    「奥さんも、おれたちがよく知っている人間なんだ、といったら?」

    「なに?」

    「奥さんの名前は福嶋美奈。旧名は遥美奈」

     その名は忘れようがなかった。

    「詳しく話せ」

    「そいつはお前を風呂に入れてからだ」

     坂元開次はアクセルをさらに踏み込んだ。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【死霊術師の瞳 1-3】へ  【1983年(9)】へ

    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    前にEテレの深夜のドキュメンタリーで見て何ともいえぬ重い気分になりました。

    そこではここまで割り切ってはいませんでしたが、ほんと、「厳粛」とはなんなのかを考えさせる問題であります……。

    Re: ツバサさん

    遊びにいらしてくれて嬉しいです。

    今回の作品はかねてよりの予告作品だから気合い入れてがんばります!

    NoTitle

    この手のビジネス、これから迎える人口減の時代に必要になりそうな気がしますね

    葬儀屋が絶対的に足りなくなるって言われてるので

    もしくは、スイスかオランダみたいに安楽死を合法にするような法改正も視野に入れた方がいいんじゃ?っていう

    そうしないと、格差増大に伴い、極端な話、土のある場所にそのまま埋葬、もしくは川に流す輩が後を絶たない気が(汗)

    NoTitle

    新年あけましておめでとうございます!
    今年もよろしくお願いします(´∀`)

    今年も小説や自炊日記を楽しみにしてますね^^
    では良き一年になりますように。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【死霊術師の瞳 1-3】へ
    • 【1983年(9)】へ