5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 2-1

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     わたしは赤と青と白の縞模様が流れる昔ながらの床屋に連れて行かれ、むりやり椅子に座らせられた。抵抗も考えたが、坂元開次の腕力と、床屋の持っているカミソリのことを考えると、やめた方がよさそうであるという結論に達するのもまた早かった。

     床屋は手慣れた調子でわたしの頭をスイカでも洗うかのようにてきぱきと洗い、髪の毛をばさばさとカットした。顔に蒸しタオルが乗せられ、石鹸が塗りたくられ、カミソリが修行中の仏陀かキリストのようにでたらめに伸びまくったわたしのひげをぞりぞりと剃り落としていった。散髪代がいくらかかったかは知らない。そんなことを語る坂元開次でもなかった。

     それから坂元開次がわたしを連れて行ったのは、高尾の近くにあるスーパー銭湯だった。そのときにはもうどうにでもなれ、という気分だった。

     わたしは脱衣所のロッカーに服を預け、手に鍵を巻き付けて浴場へ向かった。むっとくる風呂場の湯気を受け、身体にかけ湯をすると、あのひとりきりの墓場で自分の身体に積もった垢がどれだけ悪臭を放つものであったのかがよくわかった。

     わたしは洗い場で手ぬぐいとボディシャンプーを使って身体中を洗った。刑務所と墓場の垢がぼろぼろと剥げ落ち、湯と一緒に排水口に流れていった。抵抗していたわずかな澱も、シャワーを向けるとあっさりと流されていった。

     湯船に身を沈めると、忘れかけていた熱さと圧迫感と蒸気がわたしの身体をすみずみまでほぐしていくのがわかった。

     気分までほぐれたのか、わたしは薬湯とジャグジーと露天風呂とサウナと水風呂とをすべて試した。もし、魚の泳ぐ海底温泉でもあったら、それにもトライしていただろう。認めたくないことだが、心の奥底では、のりやすい人間なのかもしれない。そういう人間に、小説の中で出会ったような気がする。トーマス・マンであろうか。

     たっぷりと一時間は浴場にいただろうか。脱衣所で扇風機の風を浴び、身体を拭った桐野俊明の半煮えは、ガウンという衣を来た。これで煮えた油が待っていたら天ぷらかエビフライだ。

     坂元開次にいわれた通り、わたしはまっすぐ食堂を兼ねた大広間へ向かった。七年の刑務所暮らしは、足の運びにも「イチ、ニィ、サン、シィ」のリズムを刻み付けていた。

     坂元開次は広間の隅で渋面を作っていた。

    「早いな」

     わたしはテーブルを挟んで座った。坂元開次が、ぼそりといった。

    「足くらい崩したらどうだ」

     わたしは足を崩してあぐらをかいた。刑務所で座るとは正座をすることである。
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