5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 2-2

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    「服だ。出るとき着ろ」

     坂元開次はわたしに量販店の名前が書かれた、かなり大きなビニール袋の包みを手渡した。中身を確認すると、新品のセーターと新品の厚めのジーンズ、新品のダウンジャケット、それに新品の靴と靴下だった。

    「たいして違いないじゃないか」

    「新品なだけましだろう。それに、あんな垢じみたズボンよりは、ジーンズのほうが若く見えるだけずっといい」

     とりあえずありがたくいただくことにした。どうせわたしが払うことになるのだろうが、たしかにあの服では不審者か浮浪者に見えてもおかしくない。

    「それで」

     わたしは姿勢を正すと、坂元開次に問いただした。

    「遥美奈が福嶋清親と結婚したというのはほんとうか? まったく聞いていないぞ」

     遥美奈。七年前の戸乱島でのことは、いまでもはっきりと覚えている。父も姉も親しい人々もすべて失い、天涯孤独の身になっていたことは知っていたが、それがどうしてよりによって福嶋清親と。

    「おれはあのカメラの件で直接に福嶋医師とは会っていないが、真面目な医者だという評判は聞いている。たぶん、遥さんもそこに惚れたんだろうな」

     わたしは肩をすくめた。

    「あいつが真面目なことは認めるよ。同じ大学の、しかも同期だったからな」

    「福嶋医師からそのことは聞いた。桐野、お前が在学中ろくなことをしなかった、という話も聞いたぞ」

     わたしは自分の唇が歪むのを感じた。

    「大学に入って医者を目指すからにはひたすら勉強するべきだ、そうでないやつは死刑にしてしかるべきだ、というのがやつの考えだったからな。大学の講義を受けるだけでなく、射撃部なんかに入って腕立て伏せなんかをしている体育会系の学生がやつの目にどう映ったかはわかりそうなもんじゃないか。しかも、そいつは図書館で、医学書以外の本まで借りて読みふけっているときているんだから、むかっ腹がよけいひどくなったとしてもおかしくはないだろう」

    「それだけの理由で二十年も喧嘩をしているのかよ」

     坂元開次は呆れたようにいった。

     わたしは首を振った。

    「もちろん、それだけじゃない。やつは大学に残って研究者になりたかった。そして大学で最も人気と実力がある石垣教授のゼミを受けようとした。だがどういうわけか、桜の花が咲くころに石垣教授の指導を受けていたのは、射撃で遊んでる不良研修医だったのさ」

     わたしはテーブルの魔法瓶から湯呑みにお茶を注ぎ、ひと口飲んだ。

    「あいつがわたしを恨んだとしても、そりゃもっともだ、としかわたしには思えないな」
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