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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:2 海賊たちが来た日

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    海賊たちが来た日



     エドさんは、ほくほく顔で自分の探偵事務所に帰ってきました。近所の古道具屋さんの依頼を解決したところ、お金の上にさらに、商船のボトルシップ(ガラスの瓶に入った、帆船模型のことです)までもらってしまったのです。手入れが悪かったのか、船は今にも沈みそうなほどぼろぼろに痛んでいましたが、事務所の飾りとしては申し分ありません。

    「どこに飾ろうかな?」

     エドさんが、棚に場所を作ろうとしていたとき、ノックもなしに扉が開きました。

    「邪魔するぜ」

     入ってきた黒ずくめの男を見て、エドさんは心の底からびっくり仰天しました。

    「か、海賊!」

     そうです。真っ黒な船長服を着て、腰に刀を差し、ひげをもじゃもじゃとさせた、いかにも悪そうな面構え。話に聞く、四百年前の海賊以外のなにものでもありません。しかも、その後ろからは、これまた柄の悪そうな水夫たちがぞろぞろと入ってきます。狭い事務所は、いっぱいになってしまいました。

    「そうびっくりするなよ。ここに来れば、どんなことでも悩み事を解決してくれるって聞いて、せっかく来たんだからな」

     海賊は、ぎろぎろと目を光らせながらいいました。腕っ節に関してはまったく自信のないエドさんは、びくびくしながらも、とりあえず、聞くことだけは聞きました。

    「あな、あな、あなたのお名前は?」

    「おれは、海の暴れ者、熊ひげ船長ってもんだ。こいつらはおれの手下だ」

     エドさんは、ボトルシップなんかもらってきたので、夢でも見ているのかと思いました。ほっぺをつねってみましたが、熊ひげたちは消えません。観念するしかないようです。

    「で、その海賊さんがなんでうちみたいな探偵事務所に?」

    「海賊じゃあねえ。いろいろあって、海賊は廃業したんだ。もうこんな因果な稼業からは足を洗いてえ。それで、何か職はないかと思ってな」

     人の悩み事を解決するのが商売とはいえ、職のあっせんなんて、探偵には難しい仕事です。エドさんは頭を抱えました。

    「何か商売を始めてみたらいかがですか」

     熊ひげは、懐から金貨を一枚取り出すと、机の上に転がしました。

    「おれの手持ち金はこれだけだ。これじゃなにもできねえ。それに、商売しようにも、ここはおれたちが住んでいた時代じゃねえ。商売どころか、生きてくのにも難儀してる」

     エドさんは、思いつく限りの職業を挙げてみましたが、どれもこれもぴったりくるものがありません。とうとう言葉が尽きたとき、熊ひげは、しんみりした調子でいいました。

    「思えば、つまらねえ人生だったぜ」

    「そうですか?」

    「金を奪っても、しょせんはあぶく銭だったしな。身につくわけがねえんだよ」

     エドさんは机の上にある、一枚の金貨と、熊ひげの顔の間で視線を往復させました。

    「誰かがおれの地位を狙ってるんじゃねえかと、びくびくしながら、一時も心の休まるときはなかった。船が沈んだ後にようやく、手下どもが心からおれについて来たがっているとわかったんだから、馬鹿な話だぜ」

     熊ひげは痛々しく笑いました。

    「おれだけのためじゃねえ。手下たちのためにも、皆で堅気にならなきゃいけねえんだ」

     手下たちは皆、泣きながら「船長!」と叫びました。肩を落としていた、熊ひげの目がふと、エドさんの荷物に止まりました。

    「おい、そこにあるのはなんだ?」

     エドさんは、机の陰に置いておいたボトルシップを、慌てて取り上げました。熊ひげは、ひげをひねりながらいいました。

    「ふむ。人がしばらく乗ってねえな。あちこち痛んでやがら。だが、いい船だ。ちょっと手を入れれば、見違えるようになるぜ。決めた、この船もらうぞ! てめえら、今度こそまっとうな船乗りになろうじゃねえか!」

     エドさんが止める間もありませんでした。熊ひげは、瓶のコルク栓を抜くと、瓶の中に飛び込んで行きました。手下たちもそれに続きます。呆然と見ているうちに、部屋中を埋め尽くしていた海賊たちは全員、瓶に吸い込まれてしまいました。

     空っぽになった部屋の中で、エドさんは首をひとつ振ると、瓶にもう一度、コルク栓をはめました。机の上には、金貨が一枚、輝いていました。

     エドさんの探偵事務所に来た人は、口々に、棚に飾られたボトルシップを褒めます。

    「すばらしい船だ。まるで本当に航海をしているみたいに見える。掘り出し物ですね」

     そのたびにエドさんは、あの気のいい海賊たちのことを話そうかどうか迷うのでした。

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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    喜んでくださって嬉しいです。

    これを書いていたころは、まだ将来に希望が持てましたが、このところのニュースを聞いていると、うーむ……。

    同人誌版もありますので、お気に召されたらメールしていただければ一冊300円で(←何をわたしは商売を(^^;))

    NoTitle

    楽しいです~。
    ほのぼのして、すごい好き。
    子供の時に学校の図書室や、従姉のお姉さんの本棚で借りた本を夢中になってめくった、ワクワクした気持ちが甦ってきます。

    Re: 青井るいさん

    わたしはなぜだかウーロン茶を飲むと頭が覚醒して筆が進みます。カフェインのせいで疲れないのかなあ。

    ほっとくとほんとにがぶがぶ飲んでしまうのでおすすめはしませんが……(^_^;)

    エドさんの特別長編を書くという思いは前作を書き終えたときからありました。なんとなく書ける気がしてきたので、いつやるの? 今でしょ! といきおい込んで書きはじめましたが、現在青息吐息中です(^_^;)

    あれ……まさか、長編の方でのエドさんって……。
    いやぁ、凄く面白い話です。何食べたらこんなに面白い話ばかり書けるのか聞いてみたいです(笑)

    Re: ダメ子さん

    そもそも普通の帆船模型を作ること自体がたいへんであります(^^)

    YOUTUBEで「ボトルシップ」を検索すると、面白い動画がいっぱい見られますよ~♪

    わたしも知らなかったのですが、瓶の外で船を組み立て、それを変形ロボットみたいに、瓶の口から入るくらいの細さに折り畳み(ほんまじゃあ信じてくれええ)、細い口から無理やり押し込んで、中で一気に帆を立てて形を整えるんですな。それが今のやりかたみたいであります。

    一見の価値はあります(^^)

    私もボトルシップ一度作ってみたいけど大変そう…
    海賊さんたちが中で組み立ててくれればいいのに

    Re: ヒロハルさん

    デパートや店で売っている中にはそういったものもあるそうだ、ということです。

    特に安いものの中には。

    子供のころ読んだプラモデルの教本には、「瓶にプラモデルを入れてみよう」という記事で、「瓶の口を切ってプラモデルを入れ、切り口はテープで隠しましょう」と堂々と書いてあったなあ……(^^;)

    どこか心の温まる素敵なお話でした。
    いいですね。このシリーズ。

    デパートの物……偽物だったんですね。
    買わなくて良かった。

    Re: YUKAさん

    楽しんでいただいてわたしも嬉しいです(^^)

    このシリーズがここまで続いたのも、最初の三つの話を面白がってくれた友人たちのおかげですし。

    これからも更新を続ける勇気が湧いてきました(^^)

    こんばんは♪

    こんばんは^^
    1は読んでました~~こっちだった(笑)
    ファンタジー^^
    いい職場を見つけましたね~~

    そうだ。
    あらためて頂きモノのエドさんのイラストも見ました。
    素敵ですね~*^^*

    Re: 有村司さん

    どうぞどうぞ。ご感想はどんな厳しいものであろうともわたしの新たな血であり肉であります。

    もう、これはダメだ、つまらんと思った話には、v-294をしていただいてもなにをしていただいても構いません。可能な限り誠実にお返事させていただきます。

    本人としては、「どれも自信作」のつもりなので、どこから読んでもいいですよ~♪

    こんにちは!

    わあ!

    これまた素敵なお話ですね!
    恥ずかしながらワタシも掌編は何篇か書きましたが、こんな洒落てて夢のある話はとてもとても…。
    ポールブリッツさまがウットオシクお感じにならなければ、頻繁に感想をさせて頂くことをお許し下さいませ。

    Re: fateさん

    これはけっこう自分でも気に入っている作品です。

    「作品解題」でも触れているように、ボトルシップを小道具にした作品には先例があります。

    自分なりにそれを乗り越えられたらなあ、と思って書いてみましたが、その小説、紹介文は読んだけれど本編は読んでないので、どうなるかわからない、というオチもあったりして(笑)

    こっ…こんな展開とは…!

    やられた!…って感じでした。
    すごいですね。その奇想天外さ。
    だけど、船が沈んで、手下たちが付いてきてくれた、ってところに思わずほろりとし、ああ、何か良い仕事を!って本気で思いました。
    職がえするかと思っていたのに、やっぱり海賊は海の生き物だったのですね!
    見事です!!!
    感嘆しました~

    Re: 神田夏美さん

    癒されましたか! どうもありがとうございます。そういってくださるととても嬉しいです。

    この最後のオチは自分でも気に入っています。

    やっぱり人間、「居場所」がないと……(^^)

    NoTitle

    熊ひげさん達はどんな職業に落ち着くのかな~?と読んでいたのですが、なるほどこういうオチだとは!
    まさにファンタジー、という感じで、ほのぼのしました^^
    仕事で疲れているときに、こういうお話を読むと癒されますね~。
    熊ひげさん達は、瓶の中できっと素敵な航海をしているんでしょうね^^

    Re: ぴゆうさん

    わたしはボトルシップはインテリアとしてちょっとほしかったりもしますが、そんなカネはないので、スーパーで買った食玩の戦車模型とかで我慢しています(笑)。

    けっこうあれ、できがいいので(^^)

    NoTitle

    まじかい?
    そんな大変だったのか。
    説明をされても信じられないくらい精巧だよね。
    買おうなんて思わないよぅ。
    v-16

    Re: ぴゆうさん

    ボトルシップの作り方は、わたしも聞いただけですが、ピンセットと針金を手品のように駆使して、小さな木片を少しずつ少しずつ配置して船体を作っていき、ビンの中でマストや帆を組み立てて固定し、先端に取り付けた糸を引いていっせいのせ、で持ち上げて風をはらんでいる姿を作るのだそうです。こう見えてアンティークとか小物とかが大好きなエドさんの顔がほくほくしているのが目に見えるようです(^^)

    ちなみに、デパートなんかでバカ安で売っているボトルシップの大半は、ビンの口を切り落としてできあいの模型の船を入れ、切り口に不透明なテープを貼っただけのニセモノだそうですから、お買い上げの際はお気をつけを。

    NoTitle

    ロマンだわ。
    海賊のお客さんにボトルシップ。
    最後がいい、微笑みたくなる。

    しかしあの瓶の中の船。
    どーー見てもすごいよ。
    作り方を一度テレビで見た事があるけど、忘れちゃったなぁ。
    ググってみようかな。
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