東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ71位 ディミトリオスの棺 エリック・アンブラー

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     高校生のとき初めて読み、そのときはよくわからなかった。それから二十五年経った去年の正月に読み直した。

     ムチャクチャ面白かった。

     今日また読んでみた。

     やっぱりムチャクチャ面白い。ページをめくる手ももどかしく、二時間で読んでしまった。ガキにはわからない世界を扱った大人の小説なのである。

     いわゆるスパイスリラーの古典的作品だが、「国家」の謀略を描いているわけではない。「国家」の思惑がぶつかる中で悠然と泳ぎながら、人を殺し、騙し、のし上がっていくひとりの男を、その足跡から追っていくというストーリーで、それはスパイものというよりは、むしろ松本清張的な、「社会派推理小説」的なノリである。もっとも、松本清張ほど「怨念」やら「情念」やらがこもっているわけではない。湿っぽくないのだ。本書の冒頭で謎の死を遂げるディミトリオス・マクロポウロスの痕跡を執拗に追い続ける語り手のラティマーは、別に果たさなければならない社会的責任や道義に基づいて追っているのではなく、純粋に「好奇心」からディミトリオスを追っている。むろんそれだけでは小説にならないので、もっと切羽詰まった理由からディミトリオスの足跡を追う人間が出てきて、いろいろとドラマが発生してくるわけではあるが。

     それにしても悪党と小悪党と腹黒いやつしか出てこない小説であった。殺人あり陰謀ありスパイ作戦あり麻薬組織ありと、道具立ては派手なのに、読後感としてはものすごく地味、いや、「渋さ」を感じる。これも「巡礼」としてのラティマーの位置にあるのではないだろうか。最初は純然たる好奇心であったものが、いつの間にか抜き差しならぬものになっていく。そのなんともいえぬ悪夢感。

     本書が発表されたのが第二次世界大戦前夜の一九三九年。作者アンブラーの時代感覚はその空気を、ラティマーが味わう悪夢感としてみごとなまでに結晶化している。道義も信義もなく、ただ金持ちと貧乏人しかいない世界、カネと物質がすべての、閉塞感にあふれた世界。そんな世界で生きていくには、誰もが皆、ディミトリオスでなければいけないのであろうか。もし、この21世紀の世界が、そんなカネと物質がすべての、閉塞感にあふれた世界だとするならば、われわれも皆、ディミトリオスでなければいけないのであろうか? そんなことまで考えさせる作品。面白いよ。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    あの気がくるっていた「冷戦」の時代を乗り越えられたんだからだいじょうぶ!

    ……とはとても思えぬ各国首脳陣。ちょっとでもバランスが崩れると中東と東欧と極東にあっという間に火が付くのではないかと思えてならず。それも、かかわるすべての国が「世界大戦を引き起こさないための予防戦争」のつもりでいるらしい泥沼……。

    とりあえず今はおいしいものを食べて寝るくらいしかできることがない(汗)

    NoTitle

    今って、一応21世紀ですが、どうも時代のノリは戦前とか戦中な気がしますね

    カネと物質とデータが全ての閉塞感溢れる世界ですからね(汗)
    そして、人類はその狭い中で互いの取り分を巡って争ってるわけですし

    ちなみに、今書いてる小説とその前に書いた小説は、「んなチマチマしたことやってるうちに、生き延びるのが困難なほどの氷河期や環境破壊が起きたらどうするよ?」っていうメッセージ的なものも込めてたりします
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