5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 3-2

     ←ナイトメア・ハンター桐野あれこれ001 →死霊術師の瞳 3-3
     最初に見えたのは、うずくまった人間の背中だった。

    「美奈……」

     絶望に満ち満ちた声。

    「清親先生、桐野様です」

     林看護師のその言葉に、やつれた男の顔がゆっくりとわたしのほうを向いた。

    「桐野……。見てくれ、この通りだ……」

     わたしにはなにもいえなかった。

    「今は寝ているよ……ときどき、正気に戻る。そしてときどき、暴れるんだ……」

     福嶋清親はゆらりと立ち上がると、わたしのほうに一歩近づいた。

    「お前は、たしか、こういうことの専門家だったよな……さあ、早く美奈をなんとかしてくれよ……」

     動けないでいるわたしに顔を寄せてきた福嶋清親は、いきなりわたしの襟元をぐっとつかんだ。

     ワイシャツではなくセーターだったのは幸運だった。ワイシャツの襟元をつかまれていたら、息が止まっていただろう。

    「美奈がこうなったのも、お前が刑務所を出てからだぞ! 全部お前のせいなんだろ! わかってるぞ! なんとかしろよ! なんとかしろよ! この野郎!」

     わたしは福嶋清親の手をもぎ離した。林看護師が、わたしと福嶋清親の間に割って入った。

    「清親先生!」

    「林さん、止めるな、おれを止めるな! おれはこの野郎に……この野郎に……」

     もみ合う福嶋清親と林看護師の動きが次第にゆっくりになった。

    「桐野」

     福嶋清親は、喉元をさすっているわたしに向かって、いくらか静かな声でいった。

    「すまん」

     わたしは福嶋清親がそうなるのもよくわかった。

     わたしが遥美奈として知っていた女性は、カフカの不条理小説のように、人間ならざるものへと変身していた。原文のウンゲツィーファーという単語からしてみれば、カフカがイメージしていたのは、毒虫ではなくてこちらだったのかもしれない。

    「一夜にしてこうなったのか」

     わたしの問いに、福嶋清親は首を振った。

    「いや。運命はもっとひどい苦痛を用意していた。美奈が人間からこの巨大な鼠に変わるまで、三日という時間がかかった。そして今も進行中だ」

     わたしの目の前にあるベッドで丸くなっていたのは、人間ほどの大きさをした巨大なドブネズミだった。そしてなによりも憂鬱なことに、この姿になってさえいても、遥美奈を知る者には、このドブネズミが遥美奈であることがひと目でわかるということだった。

    「出よう。ここじゃ平静でいられない」

     福嶋清親はいった。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【ナイトメア・ハンター桐野あれこれ001】へ  【死霊術師の瞳 3-3】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【ナイトメア・ハンター桐野あれこれ001】へ
    • 【死霊術師の瞳 3-3】へ