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    昔話シリーズ(掌編)

    花になった婦人の昔話

     ←不幸虫 →金貨騒動
     いいか、貴様ら、今、われわれがなにをしているかわかっとるのか。
     戦争だ。そう、戦争だよ!
     そんなときに、昔話だなどという腑抜けたものを聞いていて勝てると思っとるのか!
     どんなものを聞いていた。え? 少尉。話してみろ!
     昔、昔、なにがあった?
     …………。

     昔、昔、この国が王様に治められていたころのことです。
     王国のはずれに、二人の夫婦者が暮していました。二人は、もとは山奥にあるまじない師の弟子で、牛のお産などを手伝っては人々を助け、それに対するささやかなお礼を受け取って、つましい生活を送っておりました。
     さて、王様ですが、王様は、武勇に富んで戦は強かったものの、残酷で、心が捻じ曲がった人でした。
     ある日、家来衆を連れて王国を見回っていた王様は、平伏している人々に、ふと目を止めました。
    「これ」
     家来の一人が、慌てて飛んできました。
    「偉大なる国王陛下、なんでございましょう。なにか、ご不興を買うようなものでもありましたでしょうか」
    「そうではない。あそこに女がいるな。連れてまいれ」
    「ははっ」
     家来は急いで部下の兵士に命令し、平伏していた女性を連れてきました。
    「ほう、これは美しい」
     女性をまじまじと見て、王様は、歓声を上げました。
    「女、わしの城へ来い。側室の一人に迎えようぞ。悪い話ではあるまい。のう?」
    「国王陛下、わたしにはすでに夫がおります。夫がある女を側室にするのは、法ではそれは許されないことにございます」
     女性、まじない師夫婦の妻は、そういって平伏しました。
    「余を拒むと申すか」
     王様は激怒し、女性の身体に手をかけようとしました。
     脇から、家来の一人が必死で王様を抑えました。
    「国王陛下、おやめください。それは宗祖の法に反します」
    「さよう、やめるべきですな」
     王様のそばにいた、やせこけた大臣が立ち上がり、王様に耳打ちしました。
    「王様、あの女が欲しければ、いくらでも方法はございます」
     王様はにやりと笑うと、女性を放し、にやりと笑いました。
    「そちに任す。よきにはからえ」

     まじない師の家に、兵士たちがやってきたのは、陽もまだ落ちないうちでした。
    「どうしたのでございますか!」
     動転するまじない師を、兵士たちの隊長は大声でどなりつけました。
    「国王陛下のご命令だ! ついてこい!」
     家から引きずり出されてきたまじない師は、道に陣取ってにやにやと笑う王様と、そのそばで蒼白な顔をしている自分の妻を見、いったいなにが起きたのかを悟りました。
     大臣が、低いくせによく通る声で罪状を述べました。
    「これなる者、呪術を使い、人々を惑わし、家畜を病にし作物を枯らす。罪状は明白なり。臣思うに、死刑をもってこれに臨むべきなり。国王陛下?」
     王様は醜い顔を歪めていいました。
    「斬首にせよ」
     兵士の一人が剣を振り上げました。
    「王の御前である。いい残すことはないか?」
     まじない師は、王様をにらみつけました。
    「自分の命が大事なら、けして我が妻を殺すでないぞ……我が妻を殺したときこそ、お前と王国の破滅の始まりと知れ。わかったか!」
    「斬れ」
     王様は命令し、次の瞬間、まじない師の首は胴から飛びました。

     かくしてまじない師の妻は、王様の側室となりましたが、王様が飽きるのもすぐのことでした。
     しばらくの後、まじない師の妻は、とうとう王様から死を賜ることになりました。怪しげな薬草を使い、王様を毒殺しようとした、というのがその罪状でした。
     後ろ手に縛られ、牢に入れられた彼女は、牢番に話しかけました。
    「どうか、王様にお伝えください。わたしを殺すときには、国のはずれの平原の真ん中でお願いしますと。もしそうしていただければ、わたしは花と変わり、王様に永遠に貢ぎ物を差し出すでしょう、と」
     牢番は半信半疑でしたが、それを上役に伝えました。上役も半信半疑でしたが、それを王様に伝えました。
     王様は笑いました。
    「人間が花と変わる? それはすごい。ぜひとも見に行こうではないか」
     こうして、まじない師の妻は望みどおりに平原に引きずり出され、首を打たれました。死体から流れる血潮が、大地に触れたとき。
     見るもの全てが息を飲みました。彼女の体が吸い込まれるように大地へと溶け出し、代わりに地面から、一本の草がにょきにょきと伸びだして、鮮やかな血色の、誰も見たことのない花を開かせたのです。
     王様は手を叩きました。
    「見事、見事。それで、貢ぎ物はなにかのう?」
     王様は輿を降り、花のそばへ近寄りました。無造作に花の奥へと指を突っ込み、先についたものを舐めました。
    「おう!」
     王様の身体が、びりっと震えました。
    「甘露じゃ、まさに甘露。この花の蜜は、なんとも素晴らしい、天上のものじゃ!」

     その日から、王様は、花の蜜なしではいられなくなってしまいました。花のそばに『花の庵』と名づけたぜいたくな庵を作り、そこで過ごすことが多くなりました。花を王宮に株分けできないかという努力が、ことごとく失敗したからです。
     花の蜜には、なにか、人を狂わせるものがあるようでした。大臣や将軍たちが、いや、王様の子供たちでさえ、なんとかひと口舐めようとしては、王様の怒りに触れて処刑されるということが続きました。
     乱れていた国は、さらにどんどん乱れていきました。
     国の乱れは、戦争を招きました。着々と力を蓄えていた隣国が、ついに王国に攻め寄せてきました。
    「敵兵はどこに来ている?」
     将軍の質問に、伝令はひざまずいて答えました。
    「はっ、閣下。敵軍は、平原を北上中。『花の庵』を通って都へ……」
    「いかん!」
     王様は、真っ青になって立ち上がりました。
    「あの花を敵に渡してはならん! ものども、進軍のラッパを鳴らせ! なんとしてでも、花を守るのじゃ!」
     将軍が諫めようとしました。
    「しかし陛下、あのあたりは、一面の平野。攻めるに易く、守るに難い土地でございます。さらには敵はわれらより多勢。どうか、もっと守り易きところに……」
    「問答無用!」
     王様は、剣を振るうと将軍を一刀で切り捨て、そのまま馬で突き進んでいきました。
     二つの軍は、平原で激しくぶつかり合いました。
     王様の軍は、立派に戦ったものの、数の差と地の利の不足はいかんともしがたく、夜を待たずに王様は討ち死に、軍勢は四分五裂になって、あるものは逃げ、あるものは降伏しました。
     こうして王国は滅亡してしまいました。
     後に、この話を聞いた隣国の将軍が『花の庵』の跡を訪れたときには、あの妖しい蜜をたたえた花は、すでに枯れてなにも残っていなかったということです。

     ……こんな話をまともに信じているのかお前らは!
     いいか、明日は決戦なのだぞ!
     わが偉大な総統閣下の名前のついたこの街と平原だけは、絶対に敵の手から守り抜かねばならん。あの、自由と民主主義などというくだらんことを唱えるやつらからは、絶対にだ!
     なに? 地形が不利だから退いて、もっと守りやすいところで守ったらどうか、だと?
     貴様、総統閣下に無礼であろう! 敵のスパイか、貴様! 衛兵、処刑しろ、衛兵ッ!
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    ~ Comment ~

    Re: ROUGEさん

    花を作ってらっしゃる方からそういってくださると、作者としても救われた気分です。

    しかしわたしがいうのもなんですが、深読みするとそうとうえっちな話ですよねこれ(^^;)

    ギリシャ神話にもありますよね♪
    お花に変わっちゃう話。
    こういう話、大好きですし
    お花って、かな~りエロティックですから
    いいんじゃないでしょうか?(^^;

    Re: ダメ子さん

    どんなのを思い浮かべましたか? ふっふっふっ(^^)

    名花はいいですよね。ふっふっふっ(爆)

    思わずにやりとしてしまいました
    思い浮かべた花のビジュアルしだいで
    話の雰囲気が変わりそう

    Re: YUKAさん

    とりあえず、ディスクに名前は書きあがったものの、「ケースを後でもう一個買ってこなければ」状態に(^^)

    さんざっぱら録画したもので、いつの間にかDVDが百枚を軽く突破していた。いつ見よう(笑)

    しかし、暴君ほどやっかいなものはないですな。とほほ。

    こんばんは^^

    こんばんは^^
    英雄色を好むと言いますが
    英雄でなくても好むのよね~~と^^
    中国の美女にまつわる逸話は多いですね。
    美人に弱いお国柄?
    ――――いや、どこの国でも弱いか^^;

    DVD整理は終わりましたか?^^

    Re: 桐月きらり☆さん

    独裁者の権勢欲、というか、歪んだ妄執が国を亡ぼす、というパターンですね。

    昔から何度となく繰り返されてきたパターンですが、ついていかねばならない下っ端はいつの世でも悲惨ですね……。

    NoTitle

    王の性格を知ってこその復讐方法ですね。
    平原を選んだことの意味、そして結果。

    最後も、結局は『自分は違う』と思ってしまうという人間心理を。そこでの結果はよくなかったけど、自分達は成し遂げることが出来ると思っている。それは、何かを強く信じているからなのか、ただ愚かなだけなのか。色々と考えてしまいました。折角いいヒントが盛り込まれた昔話を聞くことが出来たにも関わらず、それが全く役立たない固い頭の上役。兵士さんたちの行く末にどうしようもない気持ちになってしまいました。そんな上役一人で戦っていればって言って、全員で逃げ出せればいいのにとか、思ってしまいました。そうできないのが現実なのですが。

    Re: のくにぴゆうさん

    妲己も好きな人物ですけど、あのお妃様は、わたしのこの物語に出てくるような受け身な人じゃなくて、もっと活動的で能動的な人、というイメージがあるので……。

    殷の紂王については、暴君というよりは、英雄としての素質は備えていたものの、同等の野心を持つ周の親子に反乱を起こされて敗死した悲劇の王だというイメージがあります。殉死した忠臣もいることから、ただの暴君じゃないだろう、と思うので。

    だから学生時代に、紂王と妲己のカップルの鮮烈な人生を描いた歴史冒険小説を書こうとしたのですが、資料読みの段階でギブアップ(^^;)

    歴史小説って難しいであります~(^^;) プロの歴史作家のかたがたって、よくあんなものを量産できるなあ。宮城谷昌光先生や藤本ひとみ先生の資料倉庫には入りたくない(笑)

    NoTitle

    ウキャキャv-411
    わたしは妲己の事かと思っていました。
    まことに中国は美女の逸話にこと欠かぬ国ですね。

    Re: のくにぴゆうさん

    す、すみません。ご不快を覚えさせてしまったことを深く陳謝いたします。(汗)

    コメント欄で書いたことはあくまで裏話ですので、小説自体としては別段やましい話ではありません。

    ちなみにイメージしていたのは、周の幽王と褒姒や、呉王夫差と西施のエピソードなどです。項羽と虞美人のエピソードもちょっと入っています。

    でももしかしたらモテとは終生縁のないわたしが欲求不満だったのかも……(汗)。いい人探さなきゃなあ。

    NoTitle

    私は単に花と蜜と思っていました。
    うーん、すけべな話だったのか!
    だけど、この物語は教訓を込めた物語として完成していると思う。
    子供が読んでも全然平気だし、
    なのに・・・作者が不埒な事を考えながらとは、ムムムでござる。

    Re: LandMさん

    お読みいただいてありがとうございます。

    この作品は、中国で美女の色香に迷って国を滅ぼした何人かの王様をモデルに書きました。

    花と蜜にしてしまったのはある意味露骨過ぎたかもしれません(^^;)

    為政者には冷静で合理的な判断を常に下し続けていてほしいものですが……世の中見てると……うーむ。

    NoTitle

    昔話シリーズは結構ファンタジーの創作意欲を掻き立ててくれて、私は好きですね。もっとも、どこで参考できるかよくわからないのも結構多いので、どう使いかかなり微妙なラインですが。それでもやっぱり、いいなあ…・と感じずにはいられないですね。
    花はすべてを魅了すると大変なことになりますね。
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