5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 3-3

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     福嶋清親に案内されるまま、わたしと林看護師は応接室に入った。

    「他のスタッフは?」

     わたしは誰にも行き会わなかったことを不審に思った。

    「全員、暇を出した。患者も転院させた。いま、この病院にいるのは、おれとお前と林さんと、美奈だけだ」

     林看護師が、電気ポットのお湯でインスタントコーヒーを作り、出してくれた。

     福嶋清親は、自分の前のカップを取ると、ブラックでひと口飲んだ。骸骨のようにこけた頬が、そのときいささか緩んだ。

    「美奈とは、お前が縁で知り合った。それには感謝しなくちゃならないな」

    「わたしが?」

     あまりいい気持ちはしなかった。わたしが全国的な有名人になったのは、戸乱島から始まる一連の吸血鬼事件のときと、新興宗教団体の起こしたスキャンダルに絡んでの大量殺人事件のときである。しかも、その大量殺人犯を殺したのは、わたし本人なのだ。思い出したくなるような体験ではない。

    「ふたりを結びつけたのは、わたしに対する嫌悪感か」

     わたしの言葉に、福嶋清親は肩をゆすって苦しそうに笑った。

    「嫌悪感? ……美奈が効いたら否定するだろう。嫌悪感どころじゃない、憎悪だよ」

    「憎悪されて当然だ。家族と、家族同然の人間のすべてを失ったんだからな。わたしのために」

     わたしはちょっと言葉を切った。

    「いつ知り合ったんだ?」

    「五年前だ。あのころ、テレビで戸乱島事件の再現番組があった。学生のころのお前をよく知る人物、ということでおれが取材を受けた。美奈は、そこでのおれの話を聞いて興味を持ったらしい。あとはお前もわかるだろう。アラフォーになってからのボーイミーツガール。お前の悪口を互いにいい合っている間に、とんとん拍子で話が進んだ。そんな美奈が……」

    「お前以外の医者に診せたか?」

    「できるわけがないだろう。おれは美奈なしでは生きていけない。そもそも、どういう医者に診せろというんだ。皮膚科か、内科か、内分泌科か。それとも獣医か。おれは美奈をそんなところにモルモットとして献上する気になんかなれない」

     わたしは沢守澄麗がそのような状態になった場合を考えた。答えは火を見るよりも明らかであった。

    「医者も最終的には人間でしかないことくらいは知っている。お前は悪くない」

    「よかったよ、同意してくれて。もし、学会に発表するのが医者の当然の義務だとかいったら、こいつをぶっかけるつもりだった」

     福嶋清親は、マグカップの持ち手を、指が白くなるほど強く握りしめていた。
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