東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ74位 摩天楼の身代金 リチャード・ジェサップ

     ←オフ →1983年(15)
     たしかこれは浪人中に読んだんだっけかな。83年度の文春ミステリーベスト10で1位を取った作品で、実際に面白いのだが、このベスト100の74位というのはつけすぎな順位だろう、と思ったのも事実。

     そのときの感想をもとにもう一度読んでみたが、たしかに面白いことは面白いのだが74位は評価しすぎだろう、という気持ちには変わりなかった。どちらかといえば「ハリウッド映画の原作」といったほうが近い。たった一人で巨大なビルを人質に取る、というシチュエーションは、映画のほうが映えるのではないだろうか。そういう意味では、これは「襲撃小説」というよりは「誘拐もの」といったほうがいいだろう。この発想をもっと極端にやると、連城三紀彦の某作になるが、タイトルを挙げると即ネタバレになってしまうので、ここではタイトルすらいえないのが残念。

     誘拐ものとして読んだときには、その「人質のとり方」と「身代金の受け渡し方法」のアイデアは実に素晴らしい。四百万ドル、という金額に目をくらまされていると、いきなり思わぬところから奇襲攻撃が来る金の巻き上げ方など最高である。だが、天藤真「大誘拐」を読んだ後では、できることなら血を見ない方法でやってくれよ、とこの小説の主人公に文句をいいたくなった。証拠を残さないためとはいえ、そういう冷酷非情に人を殺すシーンがあるので、読了後にどこかもやもやが残るんだよなあ。

     ちなみにこの「摩天楼の身代金」で標的にされるのは、五番街ミッドタウンにある百階建ての超高層ビル「セントシア・タワー」である。完全な警備体制がほどこされ、「世界で一番安全なビル」であり、持ち主は不動産王のスペイン氏……どこからどう見ても「トランプタワー」だろうこれ! いやー、いま映画を作ったら大ウケしそうなネタである。たぶんあの同時多発テロ事件がなかったらどこかの会社が作っていたろうなあ。

     もっとも、このミステリが成立しているのは、あくまでも「80年代半ば」のテクノロジーあってのことである。今のテクノロジーは進歩しすぎていて、この小説の手段は原始的に思えるだろう。そう考えると、「映画にできる時期」はもう過ぎてしまったようにも感じる。着想の面白さからすると、なんとなく惜しい。

     冒頭部から最後の人を食った一行まで、良くも悪くもアメリカ的なミステリ。読み始めたらページをめくる手が止まらないスリリングかつシリアスな展開にも関わらず、この全編にわたって感じられる「軽さ」をどうとらえるかで評価は違ってくるだろう。なにか面白いものを面白いままに味わいたい、ちょっと疲れた退屈な夜にぴったりな作品。
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    ~ Comment ~

    Re: マウントエレファントさん

    小説をブドウにたとえたかたがおりまして。

    とれたばかりのみずみずしいブドウはおいしい。

    時間がたって腐ってしまうと食えたものではなくなる。

    腐りきってワインになると、それはそれはすばらしい味になる、と。

    個人的にはこの「摩天楼の身代金」は、ワインになるにはもうちょっと寝かせる必要がありそうです(^^)

    NoTitle

    進化とともに古びて見える作品はあるでしょうね。
    とくにSFは。
    でもおもしろいものはおもしろい、そんな作品を読み返して、学ぶこと多いですよね。
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