東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ74位 トレント最後の事件 E・C・ベントリー

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     昔から名作としての誉れ高い「トレント最後の事件」は74位だった。この結果を読んだとき、中学生のわたしは正直いささか意外であった。人気の高さからベスト50には入るのではないかと思っていたからだ。その「意外な結末」についてはいろいろと本を読んでいると小耳に入ってくるもので、「推理と恋愛の融合」というキャッチコピーとともに常識の類に入っていた。

     最初に読んだのは高校生の時である。74位というこの位置もわかるような気がした。意外な真相は用意されているものの、読んだ限りでは普通のミステリとしか思えなかったからである。ミステリに恋愛要素を持ち込んだ、というのも、現代の目で見れば「当たり前」にすぎるものであったし、それほど感銘を受けるものではなかった。

     今になって再読。虚心坦懐に読んでみると、この小説、『ミステリ・パロディ』小説なのであった。「アントニイ・バークリーの先駆者」と呼ぶのが一番正しいだろう。そもそもタイトルからしてギャグである。なんで処女作なのに「最後の事件」なのだ、と笑うべきところで笑えずに、妙に深刻に受け取ってしまったのがそもそもの誤解の始まりだったのではないか。

     バークリーだと思って読めば、探偵の人物設定や、多重解決といった、それまでのミステリ全般に対する挑戦的な構成も理解できる。なにせベントリーは小説家というよりはばりばりの政治評論家で、あのチェスタトンの友人である。チェスタトンが「木曜の男」や「ブラウン神父シリーズ」で描いたミステリのパロディの方法とは違うやり方でミステリのパロディを書こう、と考えてもまったくおかしくはない。そのイヤミのいちばんのポイントが、普通はミステリのおまけとしてついてくるロマンス部分を探偵にやらせ、謎解きの重要なファクターとしてからめるというのがなんともヒネているではないか。

     これは「トレント最後の事件」という小説に対して新しい見方を提出しえたか、と喜んで中島河太郎の解説を読んだが、そこで作者のベントリー自身が「推理小説というより、推理小説を皮肉ったものを書いたつもりだ」と発言していることを中島河太郎が取り上げていることにちょっとがっかりした。もっとも、その後の中島河太郎は「果たして彼の意図が表明されているかは別として」と、強引に「文学的完成度」を見出す方向に話をずらしていくのだが。

     これも「探偵小説芸術論」の余波というやつであろうか。「トレント最後の事件」のギャグはどこか日本でも海外でも正当に評価されていないような気がする。
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