5 死霊術師の瞳(連載中)

    死霊術師の瞳 4-4

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     自分に坂元開次のような鍛えられた肉体と筋力がないことをこれほど呪ったことはない。射撃部というごりごりの体育会系の部活に入って曲がりなりにも身体を鍛えていたのは二十年も昔の話である。

     妊娠中の妻をあのような姿にされたと信じ、激怒に狂った四十男をひきはがすのは、人間よりもむしろ四輪駆動車に任せるような仕事だった。

     ようやくその身体を引きはがしたとき、林看護師は息も絶え絶えという状態だった。

     林看護師は喉を押さえて半身を起こした。

    「なにもここまで……」

     わたしに羽交い絞めにされてはいたが、福嶋清親の怒りは激しかった。

    「『なにもここまで』だと? よくもいえたものだな! 美奈は、おれにとっての美奈はな、貴様なんかより、何万倍も、何十万倍も……」

     その言葉が林看護師に及ぼした影響は多大だった。

     林看護師は激しく嗚咽し始めた。

    「離せ桐野!」

    「バカかお前は。手がかりを自分から潰してどうする」

    「離せ……。おれは、あの女を、あの女を……」

     福嶋清親の声からは自分を見失ったものにありがちな特徴がありありとわかった。いったい「あの女」が誰かということすらよくわからなく……。

     待て。なにかがおかしい。

     鈍いにもほどがある。わたしは自分のうかつさを呪った。『ユニオン』のやつらの、ひねくれているにも限度というものがあるだろう作戦が何を狙っていたのか、ようやく私は理解したのだ。

    「林さん」

     わたしは暴れる福嶋清親の身体をぎりぎり締め上げながらいった。

    「これが『ユニオン』が求めていたことだったんですよ。あなたを使って美奈夫人をああいう目に遭わせたのは、福嶋のやつをこうするためだったんでしょう」

     福嶋清親のしゃべる内容は、脈絡はおろか、判別すらできないものになっていた。

    「福嶋のやつの精神は、今のあなたの告白、家族のように信頼していた人間の裏切りの告白で、ぶっ壊れてしまった。ここにいる人間の中で、いくらかでも正気なのは林さん、今やあなただけだ。あなたが福嶋のやつを愛していたことがあったのなら、やつをまともに戻すためにもどうか……」

     林看護師は答えなかった。少なくとも、意味のあることは答えなかった。

     林看護師は、低く、昏く、うつろに笑い出した。それはいつまでも止まらなかった。

     ここに必要なものは警察と精神科の入院施設だ。わたしは余目に連絡を取るべく、不自由な手でスマホのボタンの操作を始めた。
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