東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ77位 復讐法廷 ヘンリー・デンカー

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     裁判長殿。本作品が「東西ミステリーベスト100」の77位に入ったことについての検察側の攻撃は、公正を欠いたものであると弁護人は考えます。なぜなら、ヘンリー・デンカーのこの小説は、読みやすく面白いリーガル・サスペンスであり、法廷ものの傑作といえることに間違いはないからであります。84年度の文春のミステリーベスト10において堂々の1位に選ばれたことからもそれは明らかであります。しかもこの小説は文春文庫の一冊として刊行されているのであります。同じく文春文庫である「東西ミステリーベスト100」のアンケートが行われた1985年において、文芸春秋が本書にかけた意気込みを、回答者が理解していなかったとは到底思えません。したがって、本書がこの位置に来ることは別に何ら意外でもないわけであります。検察側は、「明白なる出来レース」と主張していましたが、出来レースならどうして本書が上位50位に入らなかったのでしょうか。検察側の「そりゃ回答者にも良心ってものがあるだろう」という発言は、本書を侮辱する以外のどういう意図があったものか判然といたしません。

     陪審員の皆さん。この小説には、アメリカと法律と民主主義との抱える爆弾が実にうまく表現されています。具体的に言ってしまえば、この小説で被告側弁護人となるベン・ゴードンは、明らかな「ルール破り」を平然と行っているのです。小説を読む限り、小説内での検事であるレスター・クルーの判断におかしなところはまったくありません。道理は検察側の方にあるのです。そうした法律のうえでの道理と、人間としての当然の常識とが食い違ったとき、人間はどうすればいいのかが本書のテーマであり、それを具現化するために、ヘンリー・デンカーは「行為も兇器も意思も証言も自白もすべてそろっており、かつ捜査活動も厳密で適正に行われた殺人事件」を弁護する、というアイデアを出してきたわけでありますが、その弁護と判決をどう評価するかについては、議論してしかるべきであります。アメリカの法と民主主義は、バラク・オバマを育むだけではなく、ドナルド・トランプを生む土壌でもあるのです。本書を読了したわたしは、その事実に慄然とするものを覚えるものであります。

     こうしていろいろと考えてみると、老子の語った逆説が思い起こされるのであります。「大道廃れて仁義有り、智慧出でて大偽有り」。われわれが生きているのはデモクラシーの時代なのでしょうか、それとも民主主義とはポピュリズムの一変形にすぎないのでしょうか。いずれにせよ、アメリカのみならず日本の裁判の意味を考えるうえでも、本書は今こそ読み直されるべきであります。弁護人は、本書のやり方は小説内のみにとどめておくべきだと考えます。仮に陪審員のかたがたがこの本を読む気になれなかったとしても、裁判長殿には、いくらかなりとも寛大な判決を願ってやみません。これをもって弁護側最終弁論を終わりたいと思います。
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