東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ78位 別れを告げに来た男 ブライアン・フリーマントル

     ←「シュリーフェン・プラン」季刊タクテクス誌No.7付録 →ウェディングドレスに救いあれ
     浪人生のときに古本屋で買って読んだ。やられた、と思った。ワン・アイデア・ストーリーといってもいいスパイ小説なのだが、まるで本格ミステリのようなトリックが使われているのだ。スパイ小説の読みどころは、五里霧中だった作戦の全体像が明らかになったときの「そうだったのか感」にあるが、本書のアイデアは、シンプルなだけにより「そうだったのか感」が際立つよくできたものである。

     四半世紀ぶりに再読。トリックを知ってから読むと、作者のフリーマントルがきちんきちんと丁寧に伏線を張っているのがよくわかる。やっぱり人をだまそうというのであればこうした下処理は完璧に行われていなくてはならない。自分の作品を読み返すと……いや読み返すのはやめよう。精神衛生に悪い。

     もしかすると、決行しようと思ったけれど何らかの事情でお蔵入りになった作戦ででもあるのだろうか。問題点を指摘されて「ボツ」といわれたとか。いろいろと想像は膨らむ。

     もっとも、これがフリーマントルのデビュー作ということもあり、書き慣れていないのか、登場人物の印象がちょっと希薄である。そもそもイギリス側主人公のエイドリアン・ドッズからしてかなり押しが弱い人物だからなあ。それがストーリーを進めていく上での必然的で重要な要素のひとつになっているわけではあるから、計算の上でそうしたのかもしれないけれど。それとも現実では実際に諜報活動に携わる人間はそのようなタイプが多いのだろうか。

     よくよく考えてみると、イギリスというのはスパイ小説が書きやすい国ではあるな。ドイツやポーランドみたいに「当事国」というわけでもないし、大陸から程よく離れた島国であるし、ひねくれたことを考えさせたら世界でいちばんの、「空飛ぶモンティ・パイソン」を生んだ国でもあるし。現実にもキム・フィルビー事件なんてことあったしなあ。

     キム・フィルビーは二重スパイ小説の名作を次々ともたらしたけれど、スノーデンのほうはスパイ小説としてうまく昇華できたのだろうか。最近のミステリはほとんど読んでいないから見当がつかぬ。もっとも、イギリスがEUを離脱したり、ドナルド・トランプみたいな人間を大統領に選んでしまうご時世だからなあ。いったい誰を信じたらよいのかすらわからない微妙なスパイ小説の世界はウケなくなっているのかもしれない。最後に残るのは、旧ソ連で書かれたスパイ小説みたいに、「純粋無垢で愛国心あふれるスパイ」が「悪魔のような敵勢力から正々堂々と機密を盗む」みたいな話になるのかもしれぬ。山中峯太郎の本郷義昭ものかよ。とほほ。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【「シュリーフェン・プラン」季刊タクテクス誌No.7付録】へ  【ウェディングドレスに救いあれ】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【「シュリーフェン・プラン」季刊タクテクス誌No.7付録】へ
    • 【ウェディングドレスに救いあれ】へ