東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ79位 見えないグリーン ジョン・スラデック

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     前に友人にいわれた。「ポールさん、あなたは天才だけど、自分の能力をどう使えばいいのかまったくわかっていない!」その意見が当たっているかどうかはさておき、実際に「自分の能力をどう使えばよかったのかがまったくわかっていなかった天才」が、このジョン・スラデックである。ほんとこの人、生まれる時代をプラスマイナス50年間違えていたんだな、と本書を再読して実感。

     「見えないグリーン」は、ジョン・スラデックが書いた謎解きミステリの大傑作である。意外かつ絶妙、さらに冷静に考えればすさまじくバカバカしいトリックを使って密室殺人が行われ、伏線の張り方も必然性も解決に至る論理も見事である。もしこれが1937年に発表されたのならばベストセラーになって原稿依頼も殺到しただろう。一生を謎解きミステリにささげたうるさがたのミステリ作家である鮎川哲也は感動と熱狂がありありとわかる文章を早川文庫版の解説に残したくらいだ。しかし、スラデックにとっては不幸なことに、ハードボイルドとスパイ小説と冒険小説との洗礼を受けた1977年の英米圏では、そんな小説を読みたいと思っていた人間などまったく存在していなかったのであった。こんな本が売れる日本の方が異常、というかガラパゴス諸島みたいなものだったのである。

     さらに誰にとっても不幸な事態は続く。鮎川哲也がいかに感激しようと、日本でいくら売れようと、作者のスラデックにとって、ミステリは「余技」にすぎなかった。スラデックの本職は、「SF作家」だったのである。「見えないグリーン」を最初に読んでからしばらくして、大学に入り、図書館で「スラデック言語遊戯短編集」を読んだときの衝撃はいまでもはっきり覚えている。「論理」と「言語」によって表現される世界の果てまでいってやろう、というような気概を持つ作品がずらずらと並んだその本は、「そうかこれがスラデックの本領だったのか」と納得させられるものだった。しかしこれも、海外のSFのオールドファンからも、ニューウェーブにも受け入れられなかったらしい。時代はスターウォーズであり、指輪物語であったのである。スラデックのSFが、今でも理解されているとは思えない。もし理解されるとしたら、それこそさらに50年は経ないとだめなのではないだろうか。

     スラデックという人と作品を総括していうならば、「飲み会で、タイミングを明らかに外したジョークを飛ばして座を白けさせるが、翌朝になってよくよく考えてみるとその人のジョークはものすごく面白かったことに気づかせられる」ような人、なのではないだろうか。結局英米では最後までミステリでもSFでも異端者であった。もしも日本に生まれていれば、と思わざるを得ない。日本に生まれていたってそう変わりはしない運命をたどったんじゃないのか、といわれればもっともであるが。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    あっ、それ、高めロンね。純チャンイーペーコーピンフね。(待て(^^;))

    Re: 面白半分さん

    ちょっと違いますねえ……。

    スラデックはミステリにおいてもSFにおいても孤高の天才だからうまくあてはまる人がいませんが、

    「泡坂妻夫のようなミステリを書くことができる筒井康隆」

    といえばなんとか伝わるでしょうか……。

    まあ変な人ではあります(えええ(^^;))

    Re: 椿さん

    今はスラデックが非常に手に入れやすい時期ですから、読むなら今ですね。

    SFなら「蒸気駆動の少年」http://blog.livedoor.jp/sintamanegi/archives/51366521.html

    ミステリならこの「見えないグリーン」が普通に買えます。

    一時期に比べたら夢のような話で(笑)。

    もともとこういう人なんですスラデック先生って。

    http://www.asahi-net.or.jp/~kx3m-ab/sladek.html

    読むにはそれなりの覚悟が(^^;)

    あなたには隠れた才能が有る

    ふっ、一生隠れたままのあっしでさぁ。

    NoTitle

    SF文脈でスラデックの名は見かけていたが(でも読んでいません)
    この「見えないグリーン」(これは読んだ筈)のスラデックと同じとはうかつにも知らずにいました。

    いやいや日本に生まれていれば
    山田正紀かスラデックかってなものかも

    NoTitle

    も……もったいない……(^-^;
    けれど本人にしてみればスぺオペとかに日和らず書きたいものを描き続けたのだ! という人生だったかもしれないですね。
    このレビューでぜひ一度読んでみたくなりました。
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