東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ80位 ナヴァロンの要塞 アリステア・マクリーン

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     どちらかといえば映画のほうが有名か。軍事冒険小説の傑作である。「女王陛下のユリシーズ号」のあまりの重さに比べれば、こちらのほうが娯楽小説としては読みやすい。英軍の撤退を支援するため、敵国ドイツが占領するナヴァロン島に潜入した五人の男たち。狙うのは、巧妙にカムフラージュされた洞窟に設置された巨大な大砲。英軍の撤退路にぴたりと狙いをつけたこの大砲を破壊しなければ、英国陸軍の兵士千二百人が海の藻屑となる運命なのだ! と書いただけでわくわくしてくるのが、冒険小説中毒者の悪いところである。冒険小説というものに触れたことすらないかたは、ぽかーんだろう。どうしてわたしが熱っぽく語るのかわからないに違いない。

     それに対する答えは、月並みではあるが、「読んだらわかる」でしかないのがつらい。世の中、「読んでわかる」人ばかりではないんだよなあ。読んでもわからない人はわからない。これが人間というものであるが、「読んでわかるはずの人」が、食わず嫌いで読まないまま一生を終える、となったら、それってものすごく悲しいことじゃないのか、と、冒険小説中毒者には思えてならぬ。かくして会う人会う人道行く人に冒険小説の素晴らしさを説いて説いて説きまくり、みんなから白い目で見られ……ってこれじゃカルト宗教の類ではないか!

     それでもつらいのだ。ドイツ軍から目をくらますため、オンボロ漁船に乗り込んでナヴァロン島に向かった五人を木の葉のようにもてあそぶ嵐の荒海も、照明弾に照らされてぱっと目に飛び込んでくる真っ白なナヴァロン島の断崖も、雨と寒さに耐えながらロープとハーケンのほかには素手と素足で断崖をよじ登る、ニュージーランドが生んだ「史上最高のクライマー」キース・マロリー大尉の苦闘も、それらの光景をあたかも目の前に浮かんでくるかのように描き出す、作者アリステア・マクリーンのハードでかつみずみずしい文体にも一生触れないままで終わる人がいるなんて。そして、断崖を征服したその瞬間から始まる、本当の危機また危機の連続に手に汗握る体験を語り合えない人がいるとは!

     映画版(邦題「ナバロンの要塞」)を見ればいいじゃん、というのもひとつの生き方ではある。だが、読書ってそういうものではないだろう。本を読む時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ、独り静かで豊かで……と「孤独のグルメ」の井之頭五郎みたいになってしまうところが、こと冒険小説にはある。そういやあ谷口ジロー先生の山岳劇画はすごかったなあ。もうあの世界は読めないのか、残念だ、と今朝がた知った訃報に衝撃を受けつつ書く。ご冥福をお祈りいたします2017年2月12日。「餓狼伝」もいつかは谷口先生版で続きが出るんじゃないかと淡い期待をしていたんだよなあ。板垣先生が不満というわけじゃないけど……何の話してたんだっけ。
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    ~ Comment ~

    Re: ECMさん

    裏切者がいないのは「女王陛下のユリシーズ号」くらいですね(笑)

    わたしも先に映画「ナバロンの要塞」から見たクチですが、映画会社、むりやりラブロマンスをぶち込んできますなあ(^^;)

    NoTitle

     私は映画しか観ていないですねぇ。
     裏切者がいるのは、アリステア・マクリーンのパターンで、ナヴァロンの嵐でも、荒鷲の要塞でもパターンですなぁ。
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