映画の感想
「人魚伝説」見た
この作品を見てつくづく思ったことであるが、たぶん監督はものすごく真面目な人なのであろう。監督は初めての監督権と、ミニシアター系では例外的に、普通ミニシアターの作る映画予算の5~6倍という予算を与えられ、そうとう発奮したものと思われる。
きっと監督はこう考えたのだろう。「おれは『過剰』な映画を作るぞ! なんでもかんでも『過剰』な映画にしたら、きっとウケるに違いない!」と。
当時流行していた社会学のタームに、「『過剰と蕩尽』理論」というものがある。つまり、時間をかけて少しずつ少しずつ貯めていき、あまりにも「過剰」になったものが、「祝祭」によって一気に「蕩尽」される、それによって人間社会は説明付けられるというものだ。難しくいわなくても、「タメ」と「メリハリ」といえば物語づくりにはわかるだろう。監督は、その理論をまともにとらえ、そして愚直なまでにこの理論を実行したのであろう。
かくして、この作品には「過剰」なまでのエロスが盛り込まれた。「過剰」なまでのバイオレンスが盛り込まれた。「過剰」なまでの生命力が盛り込まれた。そして監督はそれを「過剰」なまでに美しく撮った。
方針は間違っていなかったと、21世紀の今にこの映画を見て思う。それは批評家たちも同様で、本作はヨコハマ映画祭で監督賞と主演女優賞を受賞している。
しかし、いくら『過剰』な映画を撮ったとしても、それだけでは商売としてペイしないのも事実である。当時の観客にとっては、この映画はあまりにも『過剰』すぎたのか、ウケなかったらしい。21世紀の今にこの映画を見て、それもわからないではないな、と思う。
いわば存立自体から『カルト映画』になることを宿命づけられていた映画といえよう。どう考えても、「一家団欒」のために見るタイプの映画ではないし、ぼかしがかけられたセックスシーンはあるが、健康な青少年が見て面白いタイプの映画とも思えない。「なんだかよくわからんがすごいものを見たい」という人間向けに作られた映画のように思える。そしてこの映画を見終えた今、同じくこの映画を見終えた人と、意見の相違はどうあれ、「アツく映画について語り合いたい」と思える、そんな映画でもあるのだ。
監督が一般にそれほど広く名前を知られていないのは、「この映画のような作品」を撮ってくれ、もしくは撮りたい、というプレッシャーがあったからではないか。不幸なことに、この「人魚伝説」みたいな映画は、『意図的に撮ろうと思って撮れるようなタイプの映画ではない』のである。この映画で最も印象に残るのは、なんといっても、血まみれで銛を振るい、悪人どもや罪もない人(!)を無慈悲に殺しまくる白戸真理の鬼気迫る姿だろうが、あれも白戸真理がまだ新人で、マネージャーや家族といったものと物理的に切り離された状態(!)で過酷な撮影に耐えさせることができたからこそ撮れる顔であり姿なのである。この映画の後、監督は撮る作品の俳優との関係に苦労したそうであるが、さもありなん、というしかない。
しかし、これほどまでに猥雑なわけのわからんエネルギーにあふれている映画を見たのは、「仁義なき戦い」以来である。そしてある意味、この「人魚伝説」は「仁義なき戦い」よりも美しいのだ。
水中シーンの澄み切ったブルーの美しさ、獣のようなセックスシーンからいきなり血まみれの乱闘になる強烈な生命力、白無垢で銛を振るう白戸真理に至っては、ポオの「赤き死の仮面」を彷彿とさせる。いずれも映像的にエネルギーにあふれ美しい。ここに「恐怖」はない。監督が撮ろうとしているのは断じてサイコホラー映画ではない。西田幾多郎や岡本太郎なら理性で分明する前の美しさと暴力と生命力が交じり合った「いわくいいがたい」状態、といったかもしれない原初の混淆状態ではないのか。
無茶で理不尽なストーリーと、過激なまでのエロスとバイオレンスを受け容れるだけの「体力」があったら、ぜひ一度見てほしい映画である。でも一般ウケは絶対しない映画ではあるな……。
この「ブログDEロードショー」の運営を一手に引き受けられていた宵乃さんが、運営から一歩を退くことになられた。趣味がゲームのほうに移ったからだということだが、わたしが妙な映画ばかりお題としてリクエストしたからというのも一因ではないかな、と反省している。わたし自身も、この「ブログDEロードショー」という企画にリクエストすることによりあえて自分も「普通だったら一生見ることもないだろう映画」を見る、という一種の「動機付け」をしていた面もあるので、それが心労につながっていたら謝るしかないのであるが。
長いことお疲れ様でした。これまで楽しかったです。わたしも今後、なにかの形でブログDEロードショーを主催して、これまで以上に妙な映画を(←え?(^^;))
きっと監督はこう考えたのだろう。「おれは『過剰』な映画を作るぞ! なんでもかんでも『過剰』な映画にしたら、きっとウケるに違いない!」と。
当時流行していた社会学のタームに、「『過剰と蕩尽』理論」というものがある。つまり、時間をかけて少しずつ少しずつ貯めていき、あまりにも「過剰」になったものが、「祝祭」によって一気に「蕩尽」される、それによって人間社会は説明付けられるというものだ。難しくいわなくても、「タメ」と「メリハリ」といえば物語づくりにはわかるだろう。監督は、その理論をまともにとらえ、そして愚直なまでにこの理論を実行したのであろう。
かくして、この作品には「過剰」なまでのエロスが盛り込まれた。「過剰」なまでのバイオレンスが盛り込まれた。「過剰」なまでの生命力が盛り込まれた。そして監督はそれを「過剰」なまでに美しく撮った。
方針は間違っていなかったと、21世紀の今にこの映画を見て思う。それは批評家たちも同様で、本作はヨコハマ映画祭で監督賞と主演女優賞を受賞している。
しかし、いくら『過剰』な映画を撮ったとしても、それだけでは商売としてペイしないのも事実である。当時の観客にとっては、この映画はあまりにも『過剰』すぎたのか、ウケなかったらしい。21世紀の今にこの映画を見て、それもわからないではないな、と思う。
いわば存立自体から『カルト映画』になることを宿命づけられていた映画といえよう。どう考えても、「一家団欒」のために見るタイプの映画ではないし、ぼかしがかけられたセックスシーンはあるが、健康な青少年が見て面白いタイプの映画とも思えない。「なんだかよくわからんがすごいものを見たい」という人間向けに作られた映画のように思える。そしてこの映画を見終えた今、同じくこの映画を見終えた人と、意見の相違はどうあれ、「アツく映画について語り合いたい」と思える、そんな映画でもあるのだ。
監督が一般にそれほど広く名前を知られていないのは、「この映画のような作品」を撮ってくれ、もしくは撮りたい、というプレッシャーがあったからではないか。不幸なことに、この「人魚伝説」みたいな映画は、『意図的に撮ろうと思って撮れるようなタイプの映画ではない』のである。この映画で最も印象に残るのは、なんといっても、血まみれで銛を振るい、悪人どもや罪もない人(!)を無慈悲に殺しまくる白戸真理の鬼気迫る姿だろうが、あれも白戸真理がまだ新人で、マネージャーや家族といったものと物理的に切り離された状態(!)で過酷な撮影に耐えさせることができたからこそ撮れる顔であり姿なのである。この映画の後、監督は撮る作品の俳優との関係に苦労したそうであるが、さもありなん、というしかない。
しかし、これほどまでに猥雑なわけのわからんエネルギーにあふれている映画を見たのは、「仁義なき戦い」以来である。そしてある意味、この「人魚伝説」は「仁義なき戦い」よりも美しいのだ。
水中シーンの澄み切ったブルーの美しさ、獣のようなセックスシーンからいきなり血まみれの乱闘になる強烈な生命力、白無垢で銛を振るう白戸真理に至っては、ポオの「赤き死の仮面」を彷彿とさせる。いずれも映像的にエネルギーにあふれ美しい。ここに「恐怖」はない。監督が撮ろうとしているのは断じてサイコホラー映画ではない。西田幾多郎や岡本太郎なら理性で分明する前の美しさと暴力と生命力が交じり合った「いわくいいがたい」状態、といったかもしれない原初の混淆状態ではないのか。
無茶で理不尽なストーリーと、過激なまでのエロスとバイオレンスを受け容れるだけの「体力」があったら、ぜひ一度見てほしい映画である。でも一般ウケは絶対しない映画ではあるな……。
この「ブログDEロードショー」の運営を一手に引き受けられていた宵乃さんが、運営から一歩を退くことになられた。趣味がゲームのほうに移ったからだということだが、わたしが妙な映画ばかりお題としてリクエストしたからというのも一因ではないかな、と反省している。わたし自身も、この「ブログDEロードショー」という企画にリクエストすることによりあえて自分も「普通だったら一生見ることもないだろう映画」を見る、という一種の「動機付け」をしていた面もあるので、それが心労につながっていたら謝るしかないのであるが。
長いことお疲れ様でした。これまで楽しかったです。わたしも今後、なにかの形でブログDEロードショーを主催して、これまで以上に妙な映画を(←え?(^^;))
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Re: 宵乃さん
いやー、社会派ドラマのつもりで見ていたらスプラッタ顔負けの血しぶきですからまいりました(^^;)
こんなカルトにとどまらず、見たい映画のDVDはけっこうあるので、ぼちぼちと提案していこうと思います。
個人的には「天井桟敷の人々」はぜひ、見たいですね~。名作と聞いておりますが未見で。
「人情紙風船」も見たいなあ。
まあぼちぼち暇を見て提案しますね(^^)
こんなカルトにとどまらず、見たい映画のDVDはけっこうあるので、ぼちぼちと提案していこうと思います。
個人的には「天井桟敷の人々」はぜひ、見たいですね~。名作と聞いておりますが未見で。
「人情紙風船」も見たいなあ。
まあぼちぼち暇を見て提案しますね(^^)
NoTitle
「なんだかよくわからんがすごいものを見たい」という人間向けに作られた映画、ですか~。なんだかすごそうですね。
ポールさんが楽しめたようで良かったです。他の方と早く語り合えるといいですね。
>わたしが妙な映画ばかりお題としてリクエストしたから…
いえいえ、最近はブログ更新も適当になってきてますし、24時間ゲームのことばかり考えてる状態です(若干不眠症…汗)
主催してくれる方がいないと年4回だけの企画になってしまうので、よければまた観たい映画を紹介して下さいね~。
今回もリクエストありがとうございました♪
ポールさんが楽しめたようで良かったです。他の方と早く語り合えるといいですね。
>わたしが妙な映画ばかりお題としてリクエストしたから…
いえいえ、最近はブログ更新も適当になってきてますし、24時間ゲームのことばかり考えてる状態です(若干不眠症…汗)
主催してくれる方がいないと年4回だけの企画になってしまうので、よければまた観たい映画を紹介して下さいね~。
今回もリクエストありがとうございました♪
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