東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ86位 九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン

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     最初にこの小説のさわりを読んだのは、小学生の頃に読んだ児童向けガイドブックだった。「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という何の変哲もない文章から、名探偵の教授が推理に推理を重ねて殺人事件を解決する、という筋立てだけが書いてあり、どうしてそういう解決になるのかについてはひとことも書いていなかった。要するに、つべこべ考える前に、読め、ということなのだろうが、その短編をどこで探せばいいのかについてはひとことも書いていなかった。小学生にはまことにもどかしい限りであったが、当時は子供が大人向けの文庫本を読むことはあまり感心したことではないと思われていたらしく、水戸の市立図書館では大人向けのコーナーと児童向けのコーナーとにきっちり分類されており、小学生が「大人向け」のコーナーに入るにはいささかの度胸が必要だった。しょうがないのでジュブナイルの推理小説を探したが、そのような小説は一冊も出てこず、フラストレーションがたまるばかりであった。

     次にこの小説について読んだのは、各務三郎だったか松田道弘だったかのミステリエッセイで、かなり詳しく取り上げられていた。ここで、「九マイルは遠すぎる」というタイトルを知った。野望に一歩近づいたわけだが、当時はネットというものがまだなかった。古本屋を探す以外に道はなかったのである。

     高校のときにようやく手に入れた。そのとき思ったことは、たしかに「九マイルは遠すぎる」は場外ホームラン級の傑作だが、他の作品はそれほどでもないな、ということだった。

     それから二十年。もう一度短編集を上から下まで読んでみた。高校生の自分はどこに目を付けていたのか、といいたい。「九マイルは遠すぎる」はたしかに場外ホームランであるが、ほかの作品もあの手この手で名探偵ニッキイ・ウェルト教授に安楽椅子探偵をさせている渋い作品ばかりである。安楽椅子探偵はワンパターン化しがちだが、それをワンパターンと思わせないためにはあれだけの寡作ぶりが必要なのだろう。それに対して、徹底的にマンネリズムとワンパターンの舞台設定をセットし、その中で安楽椅子探偵がどれだけ遊べるかの至芸を見せてくれたのがアイザック・アシモフと我らが黒後家蜘蛛の会、そして都築道夫と我らが退職刑事なのだと思う。

     作者であるハリイ・ケメルマンは、ユダヤ人の聖職者であるラビを務めるデイヴィッド・スモールを主人公にした一連の長編にもファンが多いが、相変わらず古本が手に入れにくい。もしもユダヤ人秘密結社が世界を牛耳っているならば、「ラビのスモール」シリーズをベストセラーにするくらいのことはしてくれてもいいのではないかなあ。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    どこだろ。あれ綿密な論証であるようなふりしてけっこう論理の飛躍も大きいところがありますから、ツッコもうと思ったらいくらでも、という面がありますので……。

    それをいったらすべての安楽椅子探偵ものがそうですけどね(^^;)

    NoTitle

    今手元にないので確認できないのですが
    何回読んでも、なぜそういう推論になるんだろう、というところがありました。(単なる理解不足なんでしょうけど)
    そんなわけでいまだ本作を完全理解出来ていないのですが
    「九マイルは遠すぎる」を下敷きにした各種ミステリは大好きです。

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