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    昔話シリーズ(掌編)

    大麦パンと詩人の昔話

     ←決まり文句 →鎧をまとった戦士の昔話
     このところ、お前、酒ばかり飲んでいるらしいそうじゃないか。そんなに毎晩飲んでいたら、肝臓や胃腸を壊すぞ。なにか、悩み事でもあるのか?
     なに。世の中が悪い? ろくなことがない? 時代が閉塞しきってる? そんなことでお前。だったら、おれがこれからする話をよく聞くんだ。いいか。昔、昔……。

     昔、昔、ある国に、一人の詩人が住んでいました。
     詩人は、生まれたときに、通りすがりの占い師から、「世の中を変えていく力がある」という言葉をもらっていました。そのため、両親は一生懸命子供を育てたのですが、
    「……できたのは、こんなへっぽこ詩人ひとりか」
     そうです。詩人にとって仕事といえば、詩を書いては人前で歌い、いくらかの小銭をめぐんでもらいながら村から村、町から町をさすらい歩くことだけでした。
     詩人にとっては、ぶつぶつぼやきながらお酒を飲むことくらいしか、憂さを晴らす方法はありませんでした。
    「なーにが、『世の中を変えていく力がある』だ」
     詩人は今日も、酒場の椅子に腰を下ろし、とぼしい上がりでお酒を飲みながら、詩をひねっていました。
     そのころ、詩人の心と同様に、世の中もすさみきっていました。あちらこちらで戦争は起こり、飢饉は起こり、疫病ははやり、まつりごとは腐敗して、とにかくろくなことはない、今の世の中は、天地創造以来の最悪の状態だ、というのがおおかたの意見でした。
     こんな世の中では、詩人がひねり出す詩句も、当然ながら、世の中の悲惨を嘆く、悲しいものばかりでした。
    「こんなおれに、世の中を変えていくことができるんだったら、もっとおれの歌は愛唱されてもいいんじゃないのかな」
     明日歌う予定の風刺歌をまとめ上げた詩人は、そうつぶやくと席を立とうとしました。
    「おじちゃん!」
     ふと、足元を見ると、小さい男の子が詩人を見上げていました。
    「なんだ、ぼうず。ここは酒場だ。子供なんかの来るところじゃない」
     詩人はそう叱って、追い払おうとしましたが、男の子は熱心でした。
    「でも、ぼく、おじちゃんの歌を聞きたかったんだ。一日中、おじちゃんの後についていったんだけど、おじちゃん、ぼくの好きな歌を歌わなかったからさ」
    「好きな歌?」
    「うん。ぼく、『大麦パンを食べよう』って歌が好きなんだ」
     そういわれて、詩人は、ふと、懐かしくなりました。
    「『大麦パンを食べよう』、か。あの、どんどん増えていく大麦パンを、おなかをすかせたたくさんの子供が食べるっていう、あの。おじちゃんも子供のころ、よく歌ったなあ」
    「じゃ、歌ってくれる?」
    「うーん、ここでか。うーん、まあ、いいだろう。特別だぞ。歌い終わったら、さっさと家に帰ると約束するなら、歌ってやろう」
     男の子は喜びました。
    「やったあ!」
     詩人と男の子は、声をそろえて、『大麦パンを食べよう』を歌いました。
    「……ひとつ、ふたつ、みっつの大麦パン。食べても、食べても、どんどん増える。あの子も、この子も、よっといで。大麦パンを、どんどんあげる。よっつ、いつつ、むっつの大麦パン。みんなで、なかよく、いただきましょう」
     そのうち、酒場の客たちも歌の輪に加わってきました。
    「……食べても、食べても、減らない大麦パン。大人も、子供も、召し上がれ。大麦パンを、どんどんあげる。バターがなくても、おいしい大麦パン。そのうち、おなかも、まんぷくに」
     最後の節になると、店中の人が、店主も使用人も、誰もかれもが歌っていました。
    「……みんなが、満足、おいしい大麦パン。最後に、ひとかけ、残してね。明日になったら、増えてる大麦パン。これなら、けんかに、ならないね……」
     歌い終わった後で、酒場中のみんなは、詩人に拍手しました。
     詩人は照れ笑いしながら、頭をかきました。
    「いや、おれも、こんないい気持ちで歌えたのはひさしぶりだ。ありがとう」
    「皆さん!」
     店主が大声を出しました。
    「こんなに盛り上がったのは久しぶりですわい。つきましては、わしのおごりで、大麦パンを用意しました。酒の肴に、つまんでいってやっておくんなさい」
     詩人は、歓声を上げて大麦パンの置かれたテーブルに走っていく男の子を見て、目を細めました。
     そのとき、詩人は電光にでも打たれたかのように硬直するのを感じました。
    『……おれが、大麦パンの歌を歌ったら、本当に大麦パンが出てきた。もしかしたら、おれに与えられた、「世の中を変えていける力」というのは、おれが歌った詩の通りに、世の中が変わっていく、ということなのか?』
     詩人は、ばかばかしい、と思いながらも、その目には真剣な光が宿っていました。
     それ以来、詩人は、嘆き歌を捨てて、希望の持てる、明るい歌ばかり歌うようになったということです。

     ……という話だ。どうだ。心を入れ替える気にはなったか。
     なに? 占い師から世の中を変えていける力なんて予言されていない? あるかもしれないじゃないか。予言されていないだけで。
     詩人の歌で世界が変わったという証拠でもあるのかって? いちいちうるさいやつだな。ほら、窓の外を見ろ。どうあれ、世界は、まだ続いているだろう? 問題はあるけど、とりあえずまともな方向に向かっているよな。
     もしかしたら、詩人の残した歌は、なにかの形で今の時代まで生き延びているかもな。どんな歌だって? 知らないよそんなこと……。
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    ~ Comment ~

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    Re: YUKAさん

    ご謙遜を。

    少なくともわたしの心はわしづかみにしているであります(^^)

    こんばんは♪

    幸せな結末はいいですね~~

    シニカルなポール・ブリッツさん作品も好きですけど^^

    歌には大きな力があるんです。
    文字にも力があるんです。
    ――力の宿る文を、私は書けてませんけども^^;

    Re: 桐月きらり☆さん

    この小説は自分でもお気に入りの一作です。

    先のコメントにも書きましたが、出てくる民謡が童謡「ふしぎなポケット」のパクリでさえなければ、この小説、もっと自慢できるんですけどねえ。

    ちなみにこの歌を作るときは、自分で勝手に曲を作って口ずさみながら文字を数えました(笑)

    歌が下手なのでとても聞かせられたものではありませんが(爆)

    歌で世界を変えていける力は、詩人ひとりにだけ与えられた力ではないと思います。

    わたしたちひとりひとりにそうした力が……というメッセージも込めたのですが、それでもシニカルなショートショートや犯罪小説を書きたくなってしまう、人間の悲しいサガでありました(汗)

    NoTitle

    歌にも言葉にも力があって、大麦パンを食べようの歌は、みんなで幸せになる歌だなぁと思いました。
    読んでいる私たちも、にこにこしてました。

    しかもそのあとは、みんなで美味しく食べて争いはなし☆
    これから詩人さんもそんなみんなが口ずさむようなものを作っていったのかなって思いました。
    平和な世界になりますように☆

    Re: ぴゆうさん

    楽しんでいただいてありがとうございます。

    いろいろと創作活動をやってきて、

    「自分には、オリジナルの詩作の才能は、ゼロだ!」

    という結論に達するも、自分の小説に詩や歌を入れるときには自作せざるを得ず、PCを前にうなっているわたしですが、
    この小説に出てくる大麦パンの歌は、自分でもちょっと気に入っています。
    まあ、「ポケットの中にはビスケットがひとつ ポケットを叩くとビスケットはふたつ♪」で始まる「ふしぎなポケット」という有名な童謡のパクリといっちゃパクリなんですけど。

    こういうときに、古文や漢文の授業をもっとマジメに受けておくんだった、と後悔するんですがねえ。先に立ったためしなし。とほほほ。

    ショートショートに陰惨な話が多いため、こっちの昔話シリーズはハッピーエンドを心がけているのですが、それでも陰惨な話が増えてしまってどうしよう、であります。マイナスの事ばかり考えているとほんとにマイナスになるもんな(実感)

    昔話シリーズもなにか新しいのが書きたいなあ。

    NoTitle

    読後の幸福感。
    これはハッピーエンドならではのもの。
    歌がいい、幸せになる。
    この歌に載せて自然と読者もノリノリになってしまう。
    のせられて気がつくとニコニコして終わっている。
    短編の良さでもあり、あっけなさでもあると思う。
    それだけに、作者の思いがストレートに伝わってくる。
    楽しかったですv-398

    Re: LandMさん

    わたしももっと詩とか歌を入れたいんですけどどうもうまいのが書けません。

    ファンタジーとか書いていたら、「漢詩」を入れたくなってもだえ狂うんですけど、素人に書けるわけがないという(^^;)

    高校のころの友人で大学で中国文学を専攻したやつがいるんですけど、そいつは素で中国人と議論ができるほどの中国語の腕の持ち主ですが、それでも漢詩は無理みたいですからねえ。

    うーむ……。

    ちなみに「歌」を題材にした小説でいちばん印象に残っているのは、いつぞやのSFマガジンで読んだ、南北戦争直後のアメリカで、たったひとりでエレキギターを発明してハードロックに目覚めた少年の孤独を描いた短編小説です。タイトル忘れちまったんだよなあ、もう一度読みたいのに。

    「歌」が重要な役割を持つファンタジー小説といったら、誰がなんといおうと中井紀夫先生のSFファンタジーの傑作中の傑作、「タルカス伝」! あんないい本がどうして絶版なんだ、早川書房、なんとかしろ!

    NoTitle

    じゅげむじゅげむ……ということを思い出したお話ですね。
    私の作品も歌や詩の要素を加えたいんですけど、いかんせん、あまりそっちは勉強不足ですからね。まあ、そのうち取り入れていきたい思っています。私なりのやり方です。
    どうも、LandMです。
    『歌はいつだって世界を変えることができるのさ~~』っていう感じのファンタジー小説があってもいいと思いますけどね。私も。
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