東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ86位 赤い館の秘密 A・A・ミルン

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     最初に読んだのが小学生向けリライト。ものすごく面白かったのを覚えている。面白かっただけではなく、「洗練された」「あかぬけた」ものを感じた。小学生らしく、犯人の名前以外はすべて忘れた。

     再読したのは数年前か。わくわくしながら読み、あれれ、と思った。この企画のために創元版の完訳を読み、その「あれれ」の正体がわかった。いってしまえば、この本は、「すれっからし」の人間が読んで面白いタイプのミステリではないのである。

     この小説でもっとも重点を置かれたところは何か。それは、「いい大人が実際の殺人事件をもとに探偵ごっこをする」のを大真面目に書いたところにある。この趣向にノレない人間がこの小説を読んでも時間の無駄にしかならないであろう。犯人は最初から見当がついており、別に不可能状況で被害者が殺されたわけでもなく、殺人の動機に思わず絶句してしまうようなドラマがあるわけでもない。いわゆる「驚くため」の小説ではないのである。

     主人公のアントニー・ギリンガムは読者と同じく、犯罪捜査に関してはしろうとの知識しかないしろうと探偵である。ワトスン役のビル・ベヴリーも同様。そうしたしろうとであるからしろうとらしいミスをいくつも犯す。それでは犯人を指摘するに至るまでの小説内でのリアリティが保てない。そこで作者のミルンはどうしたか。「犯人に探偵以上のミスをいくつも犯させる」ことでバランスをとるという手段に出たのである。なんといってもすさまじいのは、殺人事件が発覚するや否や、犯人があからさまに怪しげな行為を次から次へと堂々と行うというのがすごい。探偵の先を行くように先手先手と怪しげな行為を行い、この犯人は、もしかしたら自分から捕まりに行こうとしているのか、と首をひねってしまう。

     しろうとの探偵としろうとの犯人が知恵比べをしているだけならまだいいが、結果としてこれは、「普通の警察ならその日のうちにけりをつけるのではないか」としか思えない事態をもたらした。ここに一番敏感に反応したのがハードボイルドで有名なレイモンド・チャンドラー。警察の不自然極まりない無能さに対するチャンドラーの苛立ちはよくわかる。なにせ科学者探偵のソーンダイク博士が捜査に乗り出したら30ページで終わってしまうような話なのだ。そして、この小説の序文によれば、ミルンはソーンダイク博士のような、顕微鏡片手に科学捜査をやるタイプの探偵が大嫌いだったらしい。

     作者が「くまのプーさん」を書いていなかったらすでに忘れられていた小説だったろう。21世紀の現代にあらためて読むべきミステリとも思えない。あえておすすめはしない。
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