東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ89位 リリアンと悪党ども トニー・ケンリック

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     最初に読んだのは中学生の時だった。あまりのギャグのバカバカしさに腹を抱えて笑ったことを覚えている。特に冒頭近くの、こじゃれたアパートの一室で酔っぱらいの一団に寄って行われるフットボールのシーンなんてスラップスティックのまさにお手本で、笑いすぎて呼吸困難になるのではないかと思ったくらいだ。

     というわけで今回もそうしたスラップスティックギャグのつるべ打ちで笑おうと思ったのだが、三十年ぶりの再読では、この小説、そうしたスラップスティックよりも、「泣かせる笑い」のギャグを中心に組み立てられており、どちらかといえば人情噺の側面の方が強いことに気づいた。

     ケチな詐欺師のバニー・コールダー、ただ部屋を飾り付けることに情熱を傾けてきたデパート店員のエラ・ブラウン、施設から施設を転々としてきて人間というものが九歳にして一切信用できなくなってしまった孤児のリリアン・フェラン、この三人が、移民局の切れすぎる役人であるラスキーの陰謀の結果とはいえ、どうしてかくも強く精神的な絆で結びついたのか、四十を越した今ならばわかる。痛いほどわかる。わかると同時に、笑いも中学生の時のそれとは違ってくるのだ。

     そうした背景があると、この小説のメインであるリリアン誘拐作戦と、クライマックスの、テロリスト集団とバニーの決死の知恵比べが、がぜんスリリングなものに感じられる。手に汗握る、とはまさにこのことだろう。三十年ぶりに読んで、トニー・ケンリック、ここまで知恵比べを濃密に書いていたっけか、といささか意外に思えた。

     どきどきはらはらしながらページを繰り、ここだけ記憶に残っていたラストの一行を読んで深く息をついた。

     誘拐ものの傑作である。

     トニー・ケンリックは一時期角川がやたらと和訳を出していた。消えた飛行機をめぐってカスタードパイが飛び交う「スカイジャック」、ギャングのボスを罠にはめるために全米最悪の腕を持つ最低のプロフェッショナルたちを集める「俺たちには今日がある」、ニューヨーク市に戦いを挑んだ三人のキ〇ガイと、その相談を盗み聞きして悪事を企てた三人の悪党が大騒動を巻き起こす「三人のイカれる男」。どれも笑えて面白かったが、肝心のトニー・ケンリックは今何をやっているのかもよくわからないらしく、再版の契約すら難しい状態だそうだ。生きてはいるらしいのだが……。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    まあ海外作家の場合はエージェントを通じてやればいいのでさほど問題はないでしょうが、

    「足取りすらわからず生死不明になった日本作家」

    の場合は再版をかけたりするのがむちゃくちゃたいへんらしいですほんと……。

    たまにいるんですよね。乱歩賞作家の藤本泉とか。「東京ゲリラ戦線」、けっこう好きです(笑)

    稼ぐだけ稼げばもういいや

    って事でしょうか。それとも事実は小説より奇なりで何処かに埋められてたりして・・・。ひぃぃぃぃ。
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