東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ90位 オランダ靴の謎 エラリー・クイーン

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     なんかやたらと入っているなエラリー・クイーン。まあ、この1986年当時はミステリファンの基礎教養みたいなものであったからなあ。マニアであろうとなかろうと、クイーンの国名シリーズの一作くらいはきちんと読んでいないと「趣味は推理小説で」だなどとはとてもいえたもんじゃない、そんな世の中ではあった。

     というわけで、長い夏休みを使って、エラリー・クイーンの国名シリーズを全部読もう、と心に決めた中学生がいたと思ってほしい。「ローマ帽子の謎」をひいひいいいながら読了した後で、最初につまづくのが、「フランス白粉の謎」「オランダ靴の謎」「ギリシア棺の謎」と続く山脈のようなシリーズである。ここで繰り広げられる論理と論理のぶつかり合いのパズルは、正直地味で退屈でしかも本が厚くて、中学生をクイーン嫌いにしてしまうのであった。かくして中学生は高校のミステリ研で「クイーン? ああ、バーナビー・ロス名義は好きですよ。でもぼくは冒険小説の方が好きかな、どちらかといえば」などといってしまうズブズブのイヤミな半可通へと変貌を……たいして遂げていないな。遂げるも何も、もとからそういうイヤミな半可通じゃないか。

     で、三十年経って読み返してみたわけであるが、読んでみるものである。あの退屈な質疑応答の繰り返しであった国名シリーズがすいすい読める。面白いではないか。

     むろん、面白がるにはコツがあって、エラリー・クイーンのような論理パズルを扱ったものの正しい読み方は、「探偵と一緒に読者も推理『しない』」ことである。ミステリを書こうと挑戦したころの若き笠井潔が気付き、「名探偵の掟」で東野圭吾が苦い笑いをもって揶揄したように、だいたいの「読者への挑戦」が付されている小説は、「探偵と一緒に読者が推理したら絶対に解けないように作ってある」のが通例だからである。だって、解けてしまったら、誰が「今度は負けないぞ」とシリーズの続きを買ってくれるのだ。それに、鮎川哲也の「薔薇荘殺人事件」を発表時に読んで見事解いたマニアの感想を読むと、「ぶちこわし」ってあるのだなあ、と……。それに、そのマニアの解き方も、「探偵と一緒に推理する」という方法ではまったくないし。なんにせよ、凡人は素直にだまされるつもりで事件の展開に流されたほうがいいだろう。

     再読に当たっては創元版を読んだわけだが、もちろん解説を書いているのは中島河太郎である。本書はすごい。甲賀三郎と江戸川乱歩と海野十三の感想を引いてきて、ほとんどそれだけ。海野十三の感想に至っては「海野氏の推理小説感は見当違いがほとんどだから」とまで書いており、だったら貴様のオリジナルな感想を書け! ……まあ、当時は「生き字引」というだけで需要があったからなあ。時代というものであろう。南無。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    ほかに書ける人がいなかったんでしょうねえ……。

    それに、「いらぬことまで解説してしまうのは野暮」という美意識もあったのかもしれません。

    今となってはよくわかりませんが。

    Re: blackoutさん

    あの手の乱歩の通俗ものは、徹底して「悲惨な目に遭うヒロイン」視点で読むことにより真相が最大の効果を発揮する、と思ってます。

    「魔術師」なんてその好例ですな(^_^)

    NoTitle

    クイーンでなくて中島河太郎のほうですけど。
    横溝短編作品集での氏の”解説”は
    あらすじ紹介と発表誌だけでおしまい、という印象をずっと持ってました。

    NoTitle

    ええ、特に乱歩先生の暗黒星とか魔術師あたりを読むときは、探偵視点だと無駄にオロオロするだけですなw

    ん?なぜ見事に息の根を止められてる連中と未遂に終わったかのような連中がいるのだ?もしや…、ならその動機は?なんだ最後に後出しかよ

    って言うスタンスだと犯人が結構わかる気がしますw

    もちろんこういう視点は、リアルタイムで読んでた小・中学生の頃は持てなかったわけですが(汗)
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