映画の感想

    「怒りの日」見る

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     すごい映画を見てしまった。こないだの「奇跡(御言葉)」を撮ったカール・ドライヤー監督の「怒りの日」である。この映画は魔女裁判と、「女性の自律」という主題を、近世ヨーロッパを舞台とした一種の心理サスペンスとして撮ったものである。

     もう、主役のアンネ・ペータースドッテルを演じたリスベト・モーウィンがいい。親子ほど年の離れた牧師の後妻なのだが、ファーストシーンのやせ細って頼りない若い娘が、遊学から返ってきたアプサロンの息子、マーチンと出会うところからみるみるうちに「魔女」としての本性をあらわにしていく。この「魔女」というのが、現代の目で見れば「ひとりの女性としての自由への目覚め」以外のなにものでもないのだ。下司ないいかたをすれば義理の息子との不倫なわけであるが、近世ヨーロッパを覆う、狂信的なまでの抑圧社会の中では、「魔女」でしかない。アンネは、夫の老牧師アプサロンから「魔女は人の死を願うとその人間を死なせることができるのだ」という話と、「魔女であるアンネの母を、アンネ目当てに宗教裁判で無罪の判決を出した」ことを聞かされ、「自分にもその力があるのではないか」と思い、生まれて初めて「自信」を抱き、笑う。その笑いを、ドライヤー監督は光の当て方で「邪悪な笑み」に見せてしまう。そこから、この映画は息をのむサスペンスの様相を見せてくるのだ。

     この作品では、実際に超自然的なことが起こるわけではない。単に、嵐の晩に遠出から家に帰ってきた老牧師が、妻が息子と不倫をしていたことを当の妻から聞かされてショック死するだけの話である。しかしそれが、全編を覆う、気を許す暇もないヒステリックな空気により、「魔女」が存在するということが、「裁かれる本人」であるアンネ自身ですら認めざるを得ないほどになっていくのだ。ドライヤー監督の腕は神がかっているとしかいいようがない。

     また、このさわぎの発端である、村の老魔女ヘアロフス・マーテが火あぶりにされるシーンなど、下手なホラー映画よりもショッキングである。グロテスクな描写はまったくないのに、うわあ、と叫びたくなるような凄惨な映像なのだ。

     このような現実と狂気が交じり合ったヒステリックな社会を、監督は絵画のような見事な映像で切り取っていく。

     すごい映画だ。

     こんな傑作を見ると、ドライヤー監督の代表作といわれている「裁かるゝジャンヌ」も見たくなってくるのだが、紀伊国屋から出ているDVD、2万円以上するのよね……。
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