ウォーゲーム歴史秘話
「シュリーフェン・プラン」季刊タクテクス誌No.7付録
今を去ること三十年ほど前、「月刊タクテクス」という雑誌があった。ホビージャパン社から出版された、シミュレーションボードゲーム専門誌である。
「毎号付録ゲーム付き」という、いま考えても豪華な雑誌だった。付録ゲームも、シミュレーションゲームの老舗SPI社の作品の和訳などといった本格的なものであり、カラーページもふんだんにあり、一種のゲームカタログともいえる雑誌で、わたしはもう発売日が近づくとそわそわするのだった。
しかしまあ、TRPGの台頭と、コンピュータの発達は、ボードゲームというものをどんどんマイナーなものに変えていった。歴史もののシミュレーションウォーゲームは、どんどんと支持者を失い、やがてタクテクスという雑誌にも最期の時がやってきた。
今回リプレイで取り上げた「シュリーフェン・プラン」は、そんなタクテクスの現時点での最終号についていた付録のミニゲームである。そのころには月刊誌ではなく「季刊誌」になっていた。
シュリーフェン・プランという題材自体は興味深かったが、なんとなく遊ぶタイミングを逃したまま三十年が過ぎた。ついこの間NATO兵科記号のフォントを見つけたので、ユニット総数も少ないことだしエクセルでちょこちょこと駒を作って遊んでみることにした。
わたしがフランス側で、ドイツ側をやったのはいつもおなじみ水青さん。
2回ほどためしに史実通りの作戦案でやってみて、フランス側が2勝した。ぼろぼろの戦線のように見えるが、フランス軍はけっこう粘れるのである。少ないユニットと小さなマップのわりによくできている面白いゲームではないか。
「3回目にリプレイを書く」ということでやっていたので、3回目のプレイで、写真を撮りながらリプレイを書くことにした。すると水青さんは、ドイツ軍を南下させたのである。
「いやー、南方突破作戦も面白そうだなと思って」
「そっちの作戦はタクテクスの作戦研究のリプレイで失敗してましたからねえ。テストのソロプレイをしていないんですけど。まあいいです。アルデンヌが突破されるのは第二次大戦のことですから、第一次大戦では無理と違いますか」
とはいえ、森林と要塞線に守られているとはいえ、南方突破へクスに入る道はパリに入るよりはるかに短い。
わたしは北方のベルギー軍とBEFを大急ぎで鉄道で戦略移動させた。
「まさかベルギー軍がアルデンヌで戦うとはなあ。しかも第一次大戦で」
ここの戦線で重要なのは、いかにして退却せず、ドイツ軍に消耗戦を強いるかということにある。フランス軍が1ユニット失われたら、ドイツ軍も1ユニット失わせる、そんな戦いを繰り返し、絶え間なく前線に増援を送り続けるのだ。
「意外とフランス軍、善戦してるんじゃない?」
わたしはドイツ軍の正面に強力なBEFを送り込み、ドイツ軍が側面から回り込んでくることを警戒してベルギー軍も投入した。
「その機動でいいんですかポールさん?」
動かした後でわたしも自分の失敗に気付いた。このゲームでは、一度敵と隣接したユニットは、戦闘結果以外でそこから離れることはできない。つまり、戦線を強化する目的で敵にベルギー軍を貼り付けることにより、わたしは貴重な1ユニットの行動の自由を失ってしまったのである。
「いやあフランスの戦線は抜けないでしょう」
「でもこれで戦力比的にはじゅうぶんですよ。……D2(防御側2ユニット損失または2へクス退却)」
「うわあ! せめてD1なら」
戦闘力5の貴重なBEF、失ってしまったら戦線自体が崩壊しかねない。退却するしかないのだが、2へクスも退却するとドイツが盤外への突破口の形成に成功してしまう。
「せめて一太刀、……うわあ! また連合軍に損失が!」
「戦闘後前進」
「うーん、この戦力でドイツ軍を後退させることは不可能だから……投了です」
まさかあんなリプレイを書くことになるとは、である。
プレイしての感想であるが、このゲーム、ユニット数が少ないだけに、連合軍はユニットをひとつ失うだけでも戦線がガタガタになる。だから注意してユニットのやりくりをしなければならない。そしてこのゲームでユニットを隣接させると、もうそれでほぼ移動は不可能なのだ。
ドイツ軍もドイツ軍で、調子に乗って突進していると気が付かないうちに損害を食らって、パリを攻略するにも南方に突破するにも戦力が足りない、という状況になる。イニシアチブを握っているのはドイツ軍であるが、イニシアチブだけでは勝てないゲームなのだ。
どうして自分は三十年前にプレイしなかったんだろう、と思えるまさに傑作。どこかで再版しないかなあ……。
「毎号付録ゲーム付き」という、いま考えても豪華な雑誌だった。付録ゲームも、シミュレーションゲームの老舗SPI社の作品の和訳などといった本格的なものであり、カラーページもふんだんにあり、一種のゲームカタログともいえる雑誌で、わたしはもう発売日が近づくとそわそわするのだった。
しかしまあ、TRPGの台頭と、コンピュータの発達は、ボードゲームというものをどんどんマイナーなものに変えていった。歴史もののシミュレーションウォーゲームは、どんどんと支持者を失い、やがてタクテクスという雑誌にも最期の時がやってきた。
今回リプレイで取り上げた「シュリーフェン・プラン」は、そんなタクテクスの現時点での最終号についていた付録のミニゲームである。そのころには月刊誌ではなく「季刊誌」になっていた。
シュリーフェン・プランという題材自体は興味深かったが、なんとなく遊ぶタイミングを逃したまま三十年が過ぎた。ついこの間NATO兵科記号のフォントを見つけたので、ユニット総数も少ないことだしエクセルでちょこちょこと駒を作って遊んでみることにした。
わたしがフランス側で、ドイツ側をやったのはいつもおなじみ水青さん。
2回ほどためしに史実通りの作戦案でやってみて、フランス側が2勝した。ぼろぼろの戦線のように見えるが、フランス軍はけっこう粘れるのである。少ないユニットと小さなマップのわりによくできている面白いゲームではないか。
「3回目にリプレイを書く」ということでやっていたので、3回目のプレイで、写真を撮りながらリプレイを書くことにした。すると水青さんは、ドイツ軍を南下させたのである。
「いやー、南方突破作戦も面白そうだなと思って」
「そっちの作戦はタクテクスの作戦研究のリプレイで失敗してましたからねえ。テストのソロプレイをしていないんですけど。まあいいです。アルデンヌが突破されるのは第二次大戦のことですから、第一次大戦では無理と違いますか」
とはいえ、森林と要塞線に守られているとはいえ、南方突破へクスに入る道はパリに入るよりはるかに短い。
わたしは北方のベルギー軍とBEFを大急ぎで鉄道で戦略移動させた。
「まさかベルギー軍がアルデンヌで戦うとはなあ。しかも第一次大戦で」
ここの戦線で重要なのは、いかにして退却せず、ドイツ軍に消耗戦を強いるかということにある。フランス軍が1ユニット失われたら、ドイツ軍も1ユニット失わせる、そんな戦いを繰り返し、絶え間なく前線に増援を送り続けるのだ。
「意外とフランス軍、善戦してるんじゃない?」
わたしはドイツ軍の正面に強力なBEFを送り込み、ドイツ軍が側面から回り込んでくることを警戒してベルギー軍も投入した。
「その機動でいいんですかポールさん?」
動かした後でわたしも自分の失敗に気付いた。このゲームでは、一度敵と隣接したユニットは、戦闘結果以外でそこから離れることはできない。つまり、戦線を強化する目的で敵にベルギー軍を貼り付けることにより、わたしは貴重な1ユニットの行動の自由を失ってしまったのである。
「いやあフランスの戦線は抜けないでしょう」
「でもこれで戦力比的にはじゅうぶんですよ。……D2(防御側2ユニット損失または2へクス退却)」
「うわあ! せめてD1なら」
戦闘力5の貴重なBEF、失ってしまったら戦線自体が崩壊しかねない。退却するしかないのだが、2へクスも退却するとドイツが盤外への突破口の形成に成功してしまう。
「せめて一太刀、……うわあ! また連合軍に損失が!」
「戦闘後前進」
「うーん、この戦力でドイツ軍を後退させることは不可能だから……投了です」
まさかあんなリプレイを書くことになるとは、である。
プレイしての感想であるが、このゲーム、ユニット数が少ないだけに、連合軍はユニットをひとつ失うだけでも戦線がガタガタになる。だから注意してユニットのやりくりをしなければならない。そしてこのゲームでユニットを隣接させると、もうそれでほぼ移動は不可能なのだ。
ドイツ軍もドイツ軍で、調子に乗って突進していると気が付かないうちに損害を食らって、パリを攻略するにも南方に突破するにも戦力が足りない、という状況になる。イニシアチブを握っているのはドイツ軍であるが、イニシアチブだけでは勝てないゲームなのだ。
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こんばんは(*'ω')
模型誌の「ホビージャパン」はここ数年定期購読しています。
定期購読すると1年で1号分お得だそうです。
ホビージャパン社は最近は自社ブランドでフィギュアの開発、
販売もやってますね(°д°)
模型誌の「ホビージャパン」はここ数年定期購読しています。
定期購読すると1年で1号分お得だそうです。
ホビージャパン社は最近は自社ブランドでフィギュアの開発、
販売もやってますね(°д°)
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