FC2ブログ

    昔話シリーズ(掌編)

    王様とスープの昔話

     ←鎧をまとった戦士の昔話 →ドッペルゲンガー
     レストランに行こうって? やだよ、お前が行く店って高いから。一人じゃ行きたくない? とりあえず予算を話せよ。……うわ、なんだその金額。そんな額が払えるか。まったく、お前を見ていると、昔聞いた話に出てくる王様を思い出すよ。どんな話かって? 聞きたいか? 昔、昔だな……。

     昔、昔、ある国に食べることが大好きな王様が住んでおりました。王様は政務も執らずに朝から晩まで食べ通しで、しかも毎食、珍しい食べ物がテーブルに載っていないとたいそう機嫌を悪くするのでした。これまでにも、まずい料理を出したということで、料理人が牢に入れられるというのはしょっちゅうでした。
     王様がこれですから、王国はだんだんと乱れていくいっぽうでした。王様の食い道楽を支えるために国庫はいつも不足しがちで、民には重税がかけられました。身分の上下を問わず、国を憂える人々は王国中にあふれ、その中にはまだ幼い王子様を担ぎ上げて王様を亡きものにしようと考えるものまで出てくる始末。そんな王国を、領土欲にかられた近隣諸国は虎視眈々と狙っているのでした。
     そんな王様には、心根の優しい王女様がいました。王様は、幼い王子様と並んで、目に入れても痛くないほど王女様をかわいがっていましたが、王女様は自分がいくら懇願しても珍味を求めてやまない王様を、深く心配していたのでした。
    「賢者様、どうしましょう」
     王女様は、城に訪れていた賢者に相談しました。この齢いくつになるかわからぬ老賢者もまた、反乱を起こそうとしていた地方の農民たちを押し止め、彼らの代わりに王様に訴えに来ていたのでした。
     賢者は真剣な目で王女様を見つめました。
    「わたくしに考えがあります。でも、そのためには、姫様にも協力していただかなくてはなりません」
     王女様も真剣な顔でうなずきました。

    「おお、賢者殿か。貴殿の噂は聞いておる。それで、今日は何をしに参ったのじゃ。余としては、できればまた食卓に戻りたいのじゃが……」
     王宮の広間で平伏した老賢者は、おそれながら、と切り出しました。
    「おそれながら、陛下。わたくしは若い頃、遠い異国で料理を習っておりました。今日は陛下に、その料理を作って差し上げたく……」
     王様は、喜んで手を叩きました。
    「おお、賢者殿は料理もやられるのか。それは面白い。今晩にでも、余のために料理を作ってはくれまいか。それで、なにを作ってくれるのじゃ」
     ははっ、と賢者は平伏しました。
    「肉のスープにございます」

     夜が来ました。厨房に籠もりきりだった賢者は、大鍋とともに現れました。
     給仕がまず、一杯皿に注ぎ、毒味係に供しました。
     毒味係はスープを飲むと、目をつぶりました。
     しばらくして、毒味係は王様に目を向けました。
    「陛下。大丈夫です。毒は入っておりません」
    「さもあろうさもあろう。これ、余にもよそうのじゃ。賢者殿の作りしスープ、さぞや極上の味であろうな」
     王様は、舌なめずりをすると、皿に注がれたスープをすすりました。
    「おお、これは、初めて飲む味じゃ。……うまい。素朴じゃがうまい。しかも、えもいわれぬ微妙な味がついて……これはうまい」
     王様は、スープを二杯もおかわりし、さらにもうひと皿をよそってもらったところで、感に堪えたように賢者を見つめました。
    「これほどうまいスープ、飲んだことがない。さぞや珍しい食材を使っているのじゃろう。申してはくれぬか」
     はっ、と賢者は姿勢を正しました。
    「この食材を手に入れるのには苦労いたしました。おそらく、この世でも味わわれたのは陛下とそこのお毒味役のかただけだろうと思います。なにしろ、この食材を手に入れるのには、王女様のお力がどうしても必要でしたから」
    「娘の……力? そういえば、この場に見えておらんが……」
     王様は首をひねっていましたが、やがて、さっとその顔が蒼白になりました。
    「まさか……貴様、娘を、娘を! 娘を煮てスープとしたのか!」
     王様はばね仕掛けのように立ち上がりました。
    「衛兵! このものを……このものを、捕えよ! 反逆罪で死刑に処せ! おお、おお……こんなことが、こんなことが……」
     王様は、再び椅子にへたり込むと、涙を流し始めました。
    「おわかりになりましたかお父様」
     戸口から、静かな声がかけられました。
     王女様でした。

     呆然とするその場の一同の前に、王女様はしずしずと歩いてきて、賢者を取り押さえた兵士を制しました。
     賢者は平伏すると、王様をしっかり見て話し始めました。
    「陛下、わたくしが作りましたスープは、珍しいものでもなんでもなく、古くから王国の民がみな飲んでいた、伝統的な羊のスープにございます。珍味に飽きていた陛下をもうならせるような美味を、王国の民はみな昔から当たり前のように享受していたのでございます。しかし、それも昔の話でございます。今の王国は、諸人みな重税にあえぎ、肉のスープはおろか、雑穀のパンとくず野菜のスープですら夢のまた夢となっているのでございます。民をみな暖衣飽食させられるだけあるはずの富が、陛下のご道楽により費やされているのでございます。今、わたくしは陛下をあざむいて、王女様をスープにしたと思わせました。しかし、国が乱れ人心離れつつある今、明日には他国人により、ほんとうに王女様がスープにさせられて、陛下が食さねばならなくなりかねないのですぞ!」
     王様は、衝撃を隠せないようでした。
    「だが……だが、あの味は、ただの羊のそれではなかった。なにか、もっと玄妙な……」
     それに答えようとした賢者を、王女様はさえぎりました。
    「わたしがお答えしましょう。お父様がお飲みになったスープには、隠し味として、わたしの涙が、一滴落とされているのです」
    「涙が……」
    「それでも珍味を求めるのなら、わたしはもうこれ以上止めません。お父様、後はお父様の決められることです……」
     王様は深く考え込みました。

     十年が過ぎました。王様は老いましたが、おいしいものを食べることをやめようとはしませんでした。
     しかし、民の怨嗟の声はまったく聞かれなくなりました。
     それは、王様が政務をまじめに執るようになったこともありますが、それ以上に大きかったのは、王様が、食事に対する考え方を完全に改めたことでした。
     王様は、牢に入れていた料理人を解放すると、その技術を使って、王国の民が誰でも食べられるような安くておいしい料理を考え出すように命じ、民とともに食べることにしたのでした。
     王国は、吟味された食材を買い付けに来る商人であふれ、いつしか交易路の中心としてなくてはならない存在となりました。国は富み、兵は強くなり、侵略の食指を伸ばそうとしていた近隣諸国も、その手を引っ込めざるを得ませんでした。
     王女様はスープにされることもなく、他国の王家に無事輿入れし、世継ぎを産んで幸せに暮らしました。
     老賢者は……賢者についてはわかっていませんが、もとからいくつになるかわからない人でしたから、もしかしたら今でも生きて人の道を説いているかもしれません。

     ……っていう話だ。お前にもこの賢者みたいな人がそばにいればだな、そんな高い店で飯を食ってカードの支払いに追われるなんて生活とはおさらばできるんだ。
     だから、この店行こうじゃないか。そんな大衆食堂いやだ? わかってないな、お前。こういう店のほうが、安くてうまい料理を出すんだよ。まずかったらどうするかって? 次の店へ行くに決まっているじゃないか。ほら、ちゃんとここにリストもあるし。なあ、行こうぜ。腹が減って、腹が減って、しかたないんだ。行こうよ。行こうってば……。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【鎧をまとった戦士の昔話】へ  【ドッペルゲンガー】へ

    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    王女様は賢くて美しくて優しくて、というイメージがあります。

    もちろん女に縁のない男の妄想であります(笑)。

    このシリーズも書きたいんですけど、うむむアイデアが(^^;)

    こんばんは♪

    一瞬、え?残酷話??
    と思ったんですが、賢い王女さまでしたね^^
    う~~ん、昔話は癒されます^^

    Re: 桐月きらり☆さん

    あそこで姫様をスープの具にしてしまうようなやつをわたしは賢者とは呼びません(笑)

    この小説は脚本を書いて劇かなにかにしたいですね(^^) そんな腕はありませんけれど……。

    ごく普通の庶民が食っているメシがいちばんうまい、というのがあるべき国家の姿ではないかなあ、と思うでありますなあ(^^)

    NoTitle

    賢者さまのスープの具に安心しました。
    想いを込めた隠し味が、食に貪欲になった王様の舌に届いてよかったです。
    誰かのために作る家庭料理とは美味なもの。という思いも込められている気がしました。
    食が満たされ、民が満たされ、結果的に国も満たされる。
    素敵なお話にほっこりしました(*^^*)。

    そして、大衆食堂のごはんって美味しいですよね♪

    >トゥデイさん

    おひさです。今月中はショートショートの更新にふけるので、しばらくお楽しみください。桐野くんの長編シリーズ再開は1月からです。

    金もないし食べてもせいぜい大衆食堂なのに食い意地が張っているのでつい食べ物の話を書いてしまう(^^;) 病気の一種ですな(^^;)

    昔話シリーズですが、最初の三作で、冒頭と結末に現代(?)の人物の語りを入れたら、なんかおさまりがよかったのでシリーズにしてしまいました(^^) もとは単発のつもりで書いたのですけど。

    短編小説に入っている、「戦巫女の決断」「金貨騒動」「虚栄のルビー」のファンタジー風本格ミステリは、もしかしたら背景世界を無理やり統一して、シリーズにしてしまうかもしれません。できるのかな。

    これからもよろしくお願いします~♪

    お久しぶりです。
    食に関するお話はいい。
    先日の模擬試験で、味覚に関する話が出題されたのですが、
    導入で星新一の「味ラジオ」を引き合いに出してました。実に興味深かったです。満点取れました。

    さて、秋ごろから始まった昔話シリーズ。
    最初と最後に語り手が登場するのはこだわりでしょうか。
    あれですか。
    お爺さんが金の斧貰えたのは「普通の斧ですと答えたから」でなく「正直だったから」だからだ、的な。

    では今後とも楽しみにしてます。

    >せあらさん

    たいした理由もなしに人の肉を使って料理するようなやつは賢者とは呼べません(^^)

    それにいつもいつもグロ話なんか書いていたら精神衛生が……(^^)

    お姫様の協力+肉のスープ=……(||゚Д゚)ヒィィィ!(゚Д゚||)
    グロッキーな怪談話だ!!と思っていたら、思いのほか考えさせられるお話でした。
    ……あぁ、良かったε-(´▽`) ホッ
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【鎧をまとった戦士の昔話】へ
    • 【ドッペルゲンガー】へ