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    筒井康隆について

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     筒井康隆を最初にまとまった形で読んだのは、たしか中学一年の折に感想文の題材として読んだ「メタモルフォセス群島」だった。

     腹を抱えて笑った。そこはブラック・ジョークの実験場みたいな世界だった。あまりにブラックすぎて、読書感想文が書けないことに気がついたのは二回目を読み終わったところであった。いったい自分がどんな感想文を書いて宿題を終わらせたのか、まったく記憶にない。

     そして中学二年の四月。わたしが通っていた私立の中高一貫校(とはいえ少なからぬ人間が県立高校へ行く)の図書館に、圧倒的なボリュームの「筒井康隆全集」全24巻が入ってきたのである。

     とりあえず、第1集「東海道戦争/幻想の未来」と、ミステリの本で好意的な評価を読んでいた「富豪刑事」が入っている、第20集「富豪刑事/関節話法」を借りて家へ帰り、読んでみた。

     わが母君は怒り狂った。なぜなら、わたしが小学生のころ、全国を震撼させた少年犯罪(高校生が祖母を殺して自殺する、というとんでもない事件だった)が起こり、母親の手記が大ベストセラーとなり、その手記の中で息子を堕落させた小説の書き手として、「筒井康隆」が挙げられていたからである。

     そんなこといわれたって「富豪刑事」は読みたいし。わたしは部屋に籠って、「富豪刑事/関節話法」を読み始めた。

     3ページ目でもう腹筋が痙攣していた。そこはブラック・ジョークの実験場などではなかった。そこはブラック・ジョークの戦場だったのだ。作者である筒井康隆は、いったいいかにして効果的にブラック・ジョークを作り出し、そしていかにして『敵』に命中させるかのコツと方法論を、徹底的に研究し、そして実践していたのである。

     意識が薄くなるほど笑って、夢中になって読んだ。翌日には、完全に筒井康隆信者となり、中学卒業までにこの24冊を全部読むぞ、と誓った。

     ほんとうにそれを実行してしまうのだから、中学生の体力というものはすごいものである。SFからミステリから童話からジュブナイルからエッセイから書簡から論文から純文学から、この24冊におさまっているものは全部読んだ。

     筒井康隆全集を読破したことでわたしが得た最大の教訓は、「いかなるものであれタブーというものが存在したら、それは破られねばならぬ」という当たり前のことであった。それまでもSFファンであったが、哲学と社会学の分野でいかにSFの発想を応用するか、応用すべきかを骨の髄まで教えてくれたのは筒井康隆である。わたしが小説を書き、日記を書き、哲学書を読み、ゲームをする、そのひとつひとつの行動すべてがある種、筒井康隆的な視点のもとに行われているといっていい。

     筒井康隆の視点からすれば、すべてのものの正統性は疑われねばならない。その視線は筒井康隆本人にも向けられ、筒井康隆自身が幾度となく筒井康隆本人によって解体され、批判され、再構成される。筒井康隆の功績は、その過程を、『ギャグ』として結晶化させたところにある。解体と批判は、「笑える」ことなのである。真剣にかつ誠実にやればやるほど、それは笑えるものなのだ。SFという文脈の上で、筒井康隆は『人生とは……』などと考えていた哲学を、ソクラテスの時代に、『驚き』と『笑い』の世界に引き戻してくれたのである。

     それから幾星霜。筒井康隆がブラック・ジョークを飛ばして韓国の出版社から出版を拒否された、というニュースを聞き、ああ、あの人ならやるよなあ、と思わざるを得なかった。これは筒井康隆が時宜を心得ないブラック・ジョークを飛ばしたというよりは、日本という国が完全に筒井康隆的な存在になってしまったと考えるべきであろう。

     筒井康隆の持っていた、「すべてのものについての正統性を疑う視線」と「それをギャグとして結晶化させること」という方法論は、21世紀の現代、あまりにも当たり前すぎて陳腐化してしまったのである。

     今、ツイッターを見れば、「自分にとって存在すると都合が悪いもの」の正統性を疑い、その過程をギャグにした書き込みであふれている。それは、書きこむ人間の方向性を問わず、そうなのだ。あまりにも多数の人間がによりそれぞれ異なる方向に向けられた、そうした正統性を疑うギャグは、ひとつのかたまりとなって、「日本」という国の意見をひとりの筒井康隆のようにして発信している。30年前、「48億の妄想」「俗物図鑑」といった傑作長編で見せた筒井康隆の分析は、あまりにも正しかったのである。中心の存在しない周縁だけの志向が、「演技」された「作品」となって世界中に発信される!

     筒井康隆はかつての筒井康隆に求められていた役割として、「時宜をわきまえないブラック・ジョーク」を発信した。しかしそれは今では、「日本人なら誰でもやりかねないこと」のひとつにすぎず、韓国はそのひとつと認識してブーイングをした。そこには、「筒井康隆でなくては発言できなかった」という危険さは微塵も存在しない。

     おそらく、筒井康隆は自分がブラック・ジョークをぶつける相手がいないことに苛立っているのだろう。今の日本のどこに、完全に「それについてブラック・ジョークをいうことが陳腐でないもの」が存在するだろうか? 天皇? 民主主義? イスラム教? どれにもこれにも、プチ筒井康隆とでもいうべきネット論客がぶら下がり、芸のないブラック・ジョークをわめいている。

     まずは認めようではないか。われわれネット民はその方向性さえ違えど多かれ少なかれ筒井康隆であり、それであるからこそ質的に次なるレベルの新たな筒井康隆の登場を待たねばならないのだ、と。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    それだけ現実が筒井康隆のビジョン通りである、ということですよね。

    まさに「48億の妄想」を地でいっています。

    小松左京なんかより、遥かに正確に50年後の未来を見通していたとしか思えません。

    ネット民は「本気」で思ったことをしゃべっているのでしょうが、それ自体……この世界を外側から見ると、まさに筒井康隆のギャグ小説なのですほんと。

    NoTitle

    どちらかというと近年のネット(に限らず世の中)はジョークは廃れてマジレスばかりのような…
    今回のこともそうですが、ブラックジョークレベルのことを本気で言ってる人が多くいるので、ブラックジョークを言っても本気と捉えられかねずオチオチ言えません

    Re: blackoutさん

    意外なことに筒井康隆の長編第一作である「幻想の未来」が、そういう陰鬱にもほどがあるオーソドックスな終末SFだったりします。

    たぶん、筒井康隆はそうした陰鬱な未来を書いている自分を外部から観察して、「人類絶滅をどう描写するかを真剣に考えるなんて、何て笑えることしてるんだこいつ」と考えたのでしょう。それが、全人類が「アイ」と呼ばれる小型カメラを身につけて自分を撮影してそれを全世界に発信して互いに見て批評し合うという、「48億の妄想」というブラックギャグ作品の発想につながったのだと思います。

    「神へ復讐する」「神と刺し違える」という哲学的・神学的なテーマまでが、筒井康隆的な批判精神から逃れることはできません。筒井康隆はそれをもギャグにしてしまうのです。

    「小説を書いてネットに公開する」という行為自体が、純粋に筒井康隆的な行為以外の何物でもないのが現実です。そしてネットが世界中を覆いつくしたことにより、筒井康隆は自分の生み出した世界に「追いつかれて」しまったのでしょう。

    そして何とも筒井康隆的なことに、わたしはこうしてコメントの返事を書いている自分を外部から観察してけたけた笑っていたりもするのです。

    NoTitle

    だとしたら、自分は新たな筒井康隆にはなれそうにないですなw

    最近ある知り合いのブロガーさんのコメントで気づいたんですが、どうも自分は、神がいるのなら、その神へ復讐したい、それと同時に神から殺されたい、という願望があるようです(汗)

    その視点で自分の小説たちを読み返してみると、確かに納得しました

    世界を崩壊させたり、人類をほぼ絶滅させたり、女性をズタズタにしたり、女性の手に握られた剣で胸をとか、雪と寒気に覆われた世界とか、大気汚染と高温に覆われた世界とか

    どう考えても、どこか壊れてるヤツとしてか思えないですからね(汗)

    ※まだ続きが書けていません(汗)
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