東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ92位 歯と爪 ビル・S・バリンジャー

     ←自炊日記・その66(2017年6月) →海外ミステリ93位 燃える男 A・J・クィネル
     小学生のとき、創元推理文庫の解説目録を読んで興奮した。聞いたことのない作家の、聞いたことのないタイトルで、「彼の名はリュウ。生前、彼は奇術師だった。彼は三つのことをやってのけた。まず、ある殺人犯人に復讐を成し遂げた。次に彼は殺人を犯した。第三に、その殺人計画の中で自分も殺されたのである」というのである。この思わせぶりな宣伝文の破壊力と来たら、匹敵するのはあのジャプリゾの「シンデレラの罠」くらいのものではなかろうか。

     高校のころに古本屋で手に入れて、読んでみた。よくあるサスペンス小説ではないか、という感想を抱いた。なんとなくピンとこなかったのである。

     それから二十五年。読んでみた。ようやく気付いた。この本は、途中から袋とじになっているのだが(ここまで読んでつまらなかったら送り返してくだされば代金はお返しいたします、というやつである)、その箇所にも意味があったのだ。ぶっちゃけた話、これはある種の叙述トリックなのである。この封印の直前でそのトリックに気がついて胃袋がでんぐり返る感覚を味わってから、さて……とおもむろに封を切って続きを読む、というのが正しい読み方だろう。古本屋で、すでに封が切られているのを買ったのでは、そこの面白さが台無しになってしまうというわけだ。

     封を切ってから先は、怒涛のように話が進む。あれにもこれにも意味があったのか、と驚くと同時に、よくできた犯罪小説を読む楽しみも感じられる。いってみれば、これは二部構成のスリラーをさらに技巧的に分割することによりなし得た作者の趣向を楽しむというサスペンスなのだ。

     結末はほろ苦いものであるが、後味は悪くない。憂愁を帯びたBGMでも聞きながらゆっくり読むとまたおもむき深いかもしれない。

     なお、バリンジャーは最近翻訳ラッシュが続いたそうだが、初期に翻訳された「歯と爪」「消された時間」「赤毛の男の妻」よりはいくらか落ちるそうだ。だとすると、どうしても「消された時間」と「赤毛の男の妻」が読みたくなってくるわけだが……古本屋を回らなくちゃならんかなあ。改訳版とか出ているのかなあ。改訳版が出ていたとしても、一冊軽く千円とかしそうだしなあ。

     新刊で買える海外ミステリはぼったくりだ! 古本で買える海外ミステリは訓練されたぼったくりだ! まったく80年代以前の翻訳ミステリあさりは魔物だぜ。ヒャッハー。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【自炊日記・その66(2017年6月)】へ  【海外ミステリ93位 燃える男 A・J・クィネル】へ

    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    うちの父親はページに印をつけて読んでましたな(^^;)

    わたしはあの本は一回ずつ素直に読んで驚くだけでいいような気もしますけど(^^;)

    NoTitle

    「生者と死者」もそうですね。

    こちらも袋綴じのまま積読状態です。
    もう一冊キープしてから読もうと思って忘れています

    Re: 鍵コメKさん

    古本屋に売ったって焚き付けになるだけ、それならば好きな人に読んでもらったほうが本も幸せでしょう。

    袋とじの部分は、販売当初の場所に戻しておきました(^^)

    Re: 面白半分さん

    あの袋とじ、返金してもらった人いるのかと気になっていたのですが、たぶんいるんだろうな、と思いました。

    ミステリが嫌いな人とか。

    袋とじ系のミステリは始末に困るところがありますよね。

    泡坂妻夫「生者と死者」とか。

    図書館で読んだ初版の「占星術殺人事件」、袋とじを販売時の袋とじの場所に戻して返却したところ、目の前で司書さんにページを検査されて袋とじを後ろのページに戻されてしまった苦い経験があります(笑) 司書さんは当然の仕事をやったまでなので、恨んではいません(^^;)

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    NoTitle

    袋綴じの状態を維持したく
    買ったまま読んでいません。

    いや大昔は読んでいる筈ですが覚えていません。

    実際に読む用にもう一冊買っておかなければと思いつつ忘れかけていました。

    読むときは袋綴じの位置をあらかじめ把握しておいて、そこで必ず止まるようにして読みます。

    Re: 椿さん

    新版が出ているようなので、買うんだったら新品をおすすめします。袋とじものは封をきってなんぼですから(^^)

    いいサスペンスですよ。レビューは……当時の創元の宣伝担当さんがうまかったんでしょうなあ(笑)

    まあ原作者と訳者にも生活というものがありますし、最近の物価の高騰はひどいものがありますし……でも文庫本一冊が千円を超えると、ビンボー人には高嶺の花ですよね。とほほ。

    NoTitle

    また読みたくてたまらなくなるようなレビューを……(^_^;)
    袋とじ演出は懐かしいですね。しかしそんなに効果的に使われている作品を自分は知らないです……ダメだ今は仕事抱えてるから本を読むなら終わってからなんだ自分!!

    新刊の翻訳物はぼったくりは全面同意。
    原作者と訳者さんと二重に著作権者がいるのはわかるけど高すぎるよ……(泣)
    もうちょっと……もうちょっとどうにかならないかなあ……。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【自炊日記・その66(2017年6月)】へ
    • 【海外ミステリ93位 燃える男 A・J・クィネル】へ