東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ94位 血の絆 A・J・クィネル

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     クィネルが2冊続いたが、たぶんこれは熱狂的な支持者が少数いたということだろうなあ、文春がアンケートを取った中に。まあそれも当然で、当時「ベストセラー作家なのだがわけあってペンネームを使用している謎の覆面作家」として「燃える男」を引っ提げてさっそうと現れたA・J・クィネルは、手に汗握る面白い作品を次から次へと生み出していたのだ。「メッカを撃て」「スナップ・ショット」と、一作一作がらりとタッチを変えながら、しかもクィネルらしい、クィネルでなければ書けない話を書いていくのである。なにしろ、その正体について、ドナルド・ウェストレイク説、スティーヴン・キング説などなど、ビッグネームの名前が挙がったくらいだ。わたしは半分冗談でトレヴェニアン(ミステリ界では有名な覆面作家)説を唱えたりしていた。

     この「血の絆」は、最盛期のクィネルの渾身の海洋冒険小説である。しかしここでも中心となるのは「人情」なのであった。地球の裏側で行方不明になった息子を見つけようとなにもかも投げ出す未亡人カースティが、息子をさらった悪漢を、旅の途中で出会い、熱い友情で結ばれた仲間たちと共にアフリカ沖に追い詰めていくという、こてこての浪花節というか、人情の支配する世界なのである。この「東西ミステリーベスト100」の解説には「童話」とあるが、童話というよりは現代を舞台にしたドラクエ的RPGだな。

     いま読んでみると、たしかに面白いことは面白いのだが、なにせカースティの、根拠が全く何もない「息子は生きている」という直観に、主要なキーパーソンがことごとく賛同してくれるのだ。共感してくれるのだ。激励してくれるのだ。援助をばんばんしてくれるのだ。まあそこを気分良く読めるときには面白いのだろうが、二十年ぶりに読むとちょっとノリ切れなかった。

     人情噺なのだから「泣かせる」ポイントもクィネルはきちんと押さえている。それをもっともよく表しているのがラストシーンの手紙だろう。泣かせるのだが、少々「あざとい」。だがそれがクィネルらしいといっちゃクィネルらしいのだ。

     人情路線を行くところまでいったうえで、国際スパイの非情な謀略をからめたのが傑作「イローナの四人の父親」だろう。しかしどうしたわけか、「燃える男」でも書いた通り、クィネルは「パーフェクト・キル」に始まる『クリーシィ・シリーズ』に転向してしまうのである。一作一作違うシチュエーションで書くことに疲れたのだろうか。

     ちなみにクィネルの正体は、フィリップ・ニコルソンという男だった。それを知ったときの日本中のミステリファンの「誰それ?」感を伝えるのは……別にいいや。
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