ゲーマー!(長編小説・連載中)

    1984年(3)

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     Nの家のファミコンソフトはみるみるうちにその層を厚くしていった。それは、任天堂の起こした一種の奇蹟だった。ほかのゲーム専用機について語ることは、今では、ほとんどばかばかしいことになっていた。競合機としては、セガのSC-1000、バンダイのスーパーカセットビジョンがあるくらいだった。他に有力なゲーム専用機としては、ベクタースキャン方式というファミコンとはまったく違うシステムを使用していた「光速船」と呼ばれるゲーム専用機があったが、システム上家庭用テレビが使用できず、特別製のモニターを使用せざるを得なかったために、普通の家庭においそれと買える値段ではなかった。

     セガやバンダイの機械は、ファミコンに対抗できるほどのグラフィック能力を有していなかった。ハードウェアを限界まで酷使すれば可能だったかもしれないが、それを可能にするだけのソフトウェアを開発する時間的余裕がなかった。

     その間にも、修也たち小学生は、コントローラーを手にテニスをし、ピンボールをし、ゴルフをした。ゴルフについては修也は果てしなくヘタクソで、15オーバーを叩いてCPUにすら負ける始末だった。

     もちろん、そんな能天気なことばかりしていたわけではなく、修也は受験勉強もやり、小学生のくせに学習塾に通い、家では進研ゼミのテキストを、住所を書いたり赤ペン先生に近況を書いたりマークシートを塗りつぶしたりするのはめんどくさくてしかたがないなあ、などとぶつぶついいながら解いていた。

     進研ゼミの通信教育には、送り返されてくるテストにはシールがついていた。それを台紙に貼りつけ、ある程度溜まると賞品がもらえるというスタンプサービスが、小学生にとって馬の目の前にぶら下げられたニンジンのような役割を果たしていた。

     修也ももちろんそれに乗っかった。目指すのは最も入手が難しい、「ゲーム付きデジタル腕時計」である。

     修也はテストを解いて解いて解きまくり、夏休み前にシールを規定枚数以上貯めることに成功した。

     どきどきしながら修也はシール台紙を封筒に入れ、ポストに投函し、商品が送り返されてくるのをわくわくして待った。

     修也はもっとよく考えるべきだった。

     なぜ、その「ゲーム付きデジタル腕時計」と選択可能な賞品が、「図書券2000円分」なのか。

     もしかしたら、そのゲーム付き腕時計は、店に行くと2000円くらいで買える代物なのではないか。

     しかしそこは小学六年生の脳味噌である。そのような人生の機微を理解するには、もっと修練が必要だった。

     修也はその腕時計でできるゲームについて妄想をたくましくして眠りにつくのだった。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    進研ゼミにはほんと人生を狂わされました。

    小学5年生の時でしたか、生まれて初めて書いたウソ八百のジョークネタ(きちんと最後にジョークだと書いておいた)を4月に投稿したところ、9月に読者コーナーに採用されたのです。

    そのときの脳髄がしびれるような快感はいまでもよく覚えています。

    そしてやがて送られてきた賞品の鉛筆三本。

    そう、わたしはたった三本の鉛筆で買収され、親が望んでいた普通の公務員になる道から外れて詩と芸術の女神に人生をささげることに決めてしまったのです。

    やっすい人生ですねえ~(笑)

    NoTitle

    ポールさん お友達さんご愁傷さまでした……(^-^;
    そういえば自分も、一度スタンプセットか何かもらって二日で飽きた後はひたすら図書券をもらっていた気がします。
    そうか、あれはきっと大きな夢を追うより確実な利益を手にしろという社会勉強だったのかもしれませんね。

    Re: 椿さん

    決してわたしではないですが、進研ゼミでそのゲームウォッチを手に入れたやつは、「ダマされた!」といってました。

    わたしはその人はそれ以来進研ゼミ不信になってしまったそうです。

    最後には、「もうおれはチャレンジランドしか読まん!」といってました。親の財布をどう心得ているのでしょう(笑)

    NoTitle

    進研ゼミやってました~。いいものをもらうには年をまたいでシールを集めるくらいの勢いが必要でしたね。あの交換品のパンフレットがまた子供心をくすぐるように出来ていて(^-^;

    ちなみに最近は、一番いい品物でも一年間集めたシールで何とかなるくらいのレートになっているようです。交換品のレベルはまあ、お察しですけれども。
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