5 死霊術師の瞳(連載中)
死霊術師の瞳 5-3
「西日本?」
「井垂島のことだ。あの本もたまには帰省くらいしたいだろう」
わたしは余目の肩をつかんだ。
「それだ」
「なにがだ」
わたしは頭の中に浮かんだことを手早くまとめ、余目に話した。
「そもそも、奪ったやつが、あの本を使って、なにをしようというんだ? どこへ持って行こうというんだ? 常識的に考えれば、持っていく当てはひとつしかない」
余目は眉根を寄せた。
「それで、井垂島か? あまりに安直にすぎないか? だいたい、井垂島にあの本を持って行ったところで、なにができる」
わたしは首を振った。
「それはわからない。だが、あの本を効果的に利用する方法があったとしたら、それはあの島に持っていくか、もしくはあの島に手がかりがあると考えるべきだろう」
「やれやれ」
余目は、肩からわたしの手を払いのけた。
「どうせ、どこかから手を付けなければいけない以上は、行動あるのみか」
「そういうことだ」
「ならばひとりで行ってくれ。おれはそこまでつきあいきれない」
わたしはうなずいた。薄々だが、そんな気がしていたのだ。
「大野老人は……」
「悪い。もとから膵臓に爆弾を抱えていたが、それが秒読み段階に入っている、と医者はいっていた」
「癌?」
「もっとたちの悪い、舌を噛みそうな長ったらしい名前の難病だ。手術する方法もないことはないんだが、肉体がそれに耐えられないだろう」
余目は、部屋がある程度きちんとなったことを確認すると、わたしから目をそらせた。
「桐野、いま、おれのおかれている立場はわかるな」
「想像はつく」
「傘下の企業や、その他の利権集団が、いま、猛烈な切り崩しに遭っている。それは、おれの統括する、あまり表側には出ないほうの活動でも同じだ。あの方の権力は、あの方の肉体の衰えと同じか、あるいはいくらか上回るスピードで減少しつつある」
余目はドアのほうに歩きだし、わたしはそれに慌ててついていった。
「実はな、おれや女房やガキの身体のほうも、それほど安全というわけじゃないんだ。おれはいろいろな連中から恨みを買いまくっているからな」
「じゃあなんで、わたしをこうして援助してくれたんだ」
余目はドアノブに手をかけ、振り向いた。
「わからんのか。『登志子のため』だ」
「井垂島のことだ。あの本もたまには帰省くらいしたいだろう」
わたしは余目の肩をつかんだ。
「それだ」
「なにがだ」
わたしは頭の中に浮かんだことを手早くまとめ、余目に話した。
「そもそも、奪ったやつが、あの本を使って、なにをしようというんだ? どこへ持って行こうというんだ? 常識的に考えれば、持っていく当てはひとつしかない」
余目は眉根を寄せた。
「それで、井垂島か? あまりに安直にすぎないか? だいたい、井垂島にあの本を持って行ったところで、なにができる」
わたしは首を振った。
「それはわからない。だが、あの本を効果的に利用する方法があったとしたら、それはあの島に持っていくか、もしくはあの島に手がかりがあると考えるべきだろう」
「やれやれ」
余目は、肩からわたしの手を払いのけた。
「どうせ、どこかから手を付けなければいけない以上は、行動あるのみか」
「そういうことだ」
「ならばひとりで行ってくれ。おれはそこまでつきあいきれない」
わたしはうなずいた。薄々だが、そんな気がしていたのだ。
「大野老人は……」
「悪い。もとから膵臓に爆弾を抱えていたが、それが秒読み段階に入っている、と医者はいっていた」
「癌?」
「もっとたちの悪い、舌を噛みそうな長ったらしい名前の難病だ。手術する方法もないことはないんだが、肉体がそれに耐えられないだろう」
余目は、部屋がある程度きちんとなったことを確認すると、わたしから目をそらせた。
「桐野、いま、おれのおかれている立場はわかるな」
「想像はつく」
「傘下の企業や、その他の利権集団が、いま、猛烈な切り崩しに遭っている。それは、おれの統括する、あまり表側には出ないほうの活動でも同じだ。あの方の権力は、あの方の肉体の衰えと同じか、あるいはいくらか上回るスピードで減少しつつある」
余目はドアのほうに歩きだし、わたしはそれに慌ててついていった。
「実はな、おれや女房やガキの身体のほうも、それほど安全というわけじゃないんだ。おれはいろいろな連中から恨みを買いまくっているからな」
「じゃあなんで、わたしをこうして援助してくれたんだ」
余目はドアノブに手をかけ、振り向いた。
「わからんのか。『登志子のため』だ」
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今回は孤立無援で戦うことになりそうな桐野先生……
それでも「登志子のため」か。背負った思いが、重いですね。いやダジャレではなく(^-^;
それでも「登志子のため」か。背負った思いが、重いですね。いやダジャレではなく(^-^;
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Re: 椿さん
どうなるかについてはお楽しみ(^^)