5 死霊術師の瞳(連載中)
死霊術師の瞳 5-4
「小笠原登志子」
わたしは低く繰り返した。ナイトメア・ハンターとしてのわたしの罪の象徴。
よほどひどい面をしていたのだろう、余目はわたしを元気づけるように、いくらか明るい口調でいった。
「なに、お前を責めているわけじゃない」
責めているようにしか聞こえなかった。余目は続けた。
「お前がやってくれたことを、忘れるようなあの方じゃないさ」
わたしがなにをやったのか。やったのは森村探偵事務所の探偵たちだ。わたしは単に彼女を傷つけた卑劣な男に私刑をくだしただけにすぎない。
「……質問がある」
わたしはかねてから気になっていたことを尋ねた。
「わたしが『麗澄真理心理学研究所』に潜入調査していた時があることを知っているだろう」
余目はうなずいた。
「知っているとも。お前が警察に逮捕されて刑務所暮らしをすることになった発端じゃないか」
「わたしは、あのとき、沢守澄麗と出会った。あの女(ひと)は、わたしのナイトメア・ハンターの力とはまた違った、超常的な力の持ち主だった」
「それで」
「わたしはあの女と力を合わせ、小野瀬孝史をはじめとする幾人もの、不治と思われた精神病患者を狂気の淵から救い出した。これは紛れもない事実だ」
余目の声が硬くなった。
「なにをいいたい」
「わたしも沢守澄麗も、治すべき人間を選り好みしたことはない。力の限界ゆえに癒せなかった人たちもいたが、それは別の話だ」
わたしは唇を湿し、言葉を押し出した。
「だが、わたしたちは、いや、わたしは、たったひとりだけ、癒したかった患者がいたんだ」
「それがどうした」
「はぐらかすな。小笠原登志子だ。わたしは彼女を癒せる可能性があることを知ったとき、大野老人に連絡を取ろうとした。そうでなくとも、あんたらのネットワークが、その可能性の情報を老人に伝えていたはずだ。だが、老人と連絡を取ることはできなかった。なぜなんだ?」
「桐野。お前はあの方やおれたちが、登志子お嬢さんをどれだけ愛していたか知らない」
「なんだと?」
「あの方はお前には黙っていろといったし、おれも墓まで持っていくつもりだったが、知りたければ教えてやる。登志子お嬢さんはお前が助けられる状況になかった。なぜならその時はすでに荼毘に付されて土の下にいたからだ。これで満足か。え?」
わたしは低く繰り返した。ナイトメア・ハンターとしてのわたしの罪の象徴。
よほどひどい面をしていたのだろう、余目はわたしを元気づけるように、いくらか明るい口調でいった。
「なに、お前を責めているわけじゃない」
責めているようにしか聞こえなかった。余目は続けた。
「お前がやってくれたことを、忘れるようなあの方じゃないさ」
わたしがなにをやったのか。やったのは森村探偵事務所の探偵たちだ。わたしは単に彼女を傷つけた卑劣な男に私刑をくだしただけにすぎない。
「……質問がある」
わたしはかねてから気になっていたことを尋ねた。
「わたしが『麗澄真理心理学研究所』に潜入調査していた時があることを知っているだろう」
余目はうなずいた。
「知っているとも。お前が警察に逮捕されて刑務所暮らしをすることになった発端じゃないか」
「わたしは、あのとき、沢守澄麗と出会った。あの女(ひと)は、わたしのナイトメア・ハンターの力とはまた違った、超常的な力の持ち主だった」
「それで」
「わたしはあの女と力を合わせ、小野瀬孝史をはじめとする幾人もの、不治と思われた精神病患者を狂気の淵から救い出した。これは紛れもない事実だ」
余目の声が硬くなった。
「なにをいいたい」
「わたしも沢守澄麗も、治すべき人間を選り好みしたことはない。力の限界ゆえに癒せなかった人たちもいたが、それは別の話だ」
わたしは唇を湿し、言葉を押し出した。
「だが、わたしたちは、いや、わたしは、たったひとりだけ、癒したかった患者がいたんだ」
「それがどうした」
「はぐらかすな。小笠原登志子だ。わたしは彼女を癒せる可能性があることを知ったとき、大野老人に連絡を取ろうとした。そうでなくとも、あんたらのネットワークが、その可能性の情報を老人に伝えていたはずだ。だが、老人と連絡を取ることはできなかった。なぜなんだ?」
「桐野。お前はあの方やおれたちが、登志子お嬢さんをどれだけ愛していたか知らない」
「なんだと?」
「あの方はお前には黙っていろといったし、おれも墓まで持っていくつもりだったが、知りたければ教えてやる。登志子お嬢さんはお前が助けられる状況になかった。なぜならその時はすでに荼毘に付されて土の下にいたからだ。これで満足か。え?」
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NoTitle
ああ……また桐野先生にとって重い事実がまたひとつ。
七年前に既に……ですか。
むしろあの後、どのくらい彼女は生きていられたのだろう……
七年前に既に……ですか。
むしろあの後、どのくらい彼女は生きていられたのだろう……
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Re: 椿さん
書いている方もそりゃあ鬱々としてくるのであります(^^;)
だから原稿が遅れても仕方がないのだ!(←おい待てコラ)