東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ97位 クロイドン発12時30分 F・W・クロフツ

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     最初に読んだのは小学生のおり、父の蔵書を押入れから引っ張り出してのときである。たぶん父はあまりにも几帳面だったのだろう、読書パターンが「名作と呼ばれているものをとりあえず押さえておく」というものだったらしい。それが息子をこんな悪の道へ誘い込む罠になろうとはたぶん思ってもみなかったんだろうな。

     というわけで再読。ちょっと前までは「倒叙ミステリの代表的傑作」といわれていたやつであるが、今の目で読むと、展開がのんびりしているのが面白い。のんびりとはしているが着実に主人公が追い詰められていき、善良な普通の工場主であったはずの主人公が「あいつを殺してやろう」という結論に達するところにはかなりくるものがある。倒叙ミステリで長編を書くには、ここらへんの布石をおろそかにしてはいけない。

     そこがしっかりしているから、いったん殺人計画がスタートするとこれがもう面白くてたまらんのである。思わず「犯人」を応援してしまうところこそ倒叙ミステリの醍醐味といえよう。むろん警察の捜査をくらませる作戦が成功するわけがなく、このクロフツの作り出した名探偵「フレンチ警部」がじわりじわりと迫ってくるのだ。

     しかし敵に回すと怖いなフレンチ警部は。二重三重に目くらましをして完全に隠したはずの不利な証拠を、片端からずばずば掘り当てていくのであるから。倒叙ミステリとしての創意工夫ではフリーマンの「ポッターマック氏の失策」のほうが面白いが、暗躍する名探偵の不気味さではこちらの勝ちだろう。

     というわけで退屈せずに読み終えたわけだが、巻末の例の「中島河太郎による解説」が、時代というか、今読むと「あんたなにいってるの」といいたくなるような犯人当てミステリ原理主義者ぶりに苦笑を禁じ得ない。中島河太郎としては「倒叙ミステリ」をミステリと認めたくなかったのではないだろうか。本格ではなくむしろサスペンスの範疇だと思っていたのだろう。「歌う白骨」に代表されるフリーマンの諸作やフランシス・アイルズの「殺意」とかハルの「伯母殺人事件」などを取り上げてはいるが、奥歯にものが挟まったような評価のしかたである。

     あれから幾星霜、図書館に行けば「刑事コロンボ」のDVDがあり、「死の接吻」をはじめ「単純な倒叙ミステリと思っていたのが意外な展開を見せ、最後にあっと驚く真相が待っている」作品をいくつも読める世の中が来ると、評論家がいくらマニア的な知識の量を誇っていたとしても、めったなことはいうもんじゃないな、と自戒を込めてそう思うのである。マニアでないわたしがいっても説得力はないが。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    なにせ「点と線」の選集版の解説で平野謙先生が

    「倒叙とはアリバイ崩しを指し」

    とか堂々と書いているので、まあ、好事家の間でも、「倒叙」については混乱があったんでしょうなあ。

    犯人当てのみを「本格」と思っていた形跡がなきにしもあらずで、創元の解説目録にも、一時期、「<本格>」と「<倒叙もの>」のレッテル分けがされてましたもん(^^;)

    NoTitle

    でた!中島河太郎。
    犯人当てミステリ原理主義者ですか。

    意識しなかったですが倒叙の扱いがそんな感じだったってのは
    面白いですね。

    今では考えられないですね



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