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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ130位 二人の妻を持つ男 パトリック・クェンティン

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     パトリック・クェンティンはマニアからの評価が非常に高い作家である。つい数年前になって、素人探偵ピーター・ダルースを主人公にした初期作品が次々と翻訳されたのは記憶に新しい。だが、正直なところ、この作家の作品を読むのは気が重かった。読んだ作品が悪かったのか、この作家の作品は、ことごとく「イヤな読後感」をもたらす作品ばかりなのである。早川書房の名アンソロジー「37の短編」に挙げられた「少年の意志」なんて「イヤな読後感」の最たるもので、その地獄に突き落とされるようなラストはいわくいいがたい。そんなわけで、この本は土浦市立図書館の相互貸借で取り寄せてもらったにもかかわらず、読むのに非常な勇気が必要だった。創元の本の表紙の「おじさんマーク」なんかにはごまかされないのである。きっと、神経をやすりでギリギリされるようなサスペンスに違いない。

     で、読んだわけだが、予感は的中である。これは、「おじさんマーク」で示される「犯人当て謎解きミステリ」などではまったくない。「犯人でもないのに刑事コロンボにつきまとわれる男の悲喜劇」とでもいうべき、胃袋に悪いタイプのサスペンスなのである。

     まったくもう、パトリック・クェンティンという合作作家、「プライドだけは必要以上に高いダメな半インテリが女に翻弄されて散々な目に遭う」話を書かせたら右に出るものはいないのではないか。それほどまでに、本書の主人公であるビル・ハーディングという男は中途半端にダメな男である。深夜のバーで別れた元女房に出くわして、つい優柔不断な態度を取ってしまったがゆえに、満たされた生活から先の見えない泥沼にはまりこんでいくのだ。殺人事件が発生してからは、周囲の状況が坂道を転げ落ちるように悪くなっていくのを一人称視点からたっぷりと眺めることができる。そして事件を捜査することになった殺人課のトラント警部というやつが、ほんとにコロンボそっくりな捜査をするやつで、アリバイを偽証する羽目になったハーディングの前に、予期せぬ時に現れては、思わせぶりな質問と説明をしては去っていくという、実にイライラさせる警察官なのだ。

     コロンボの場合は、つきまとわれる相手が、「事件の犯人」だということを見ている側も重々承知だから、どきどきはらはらの末に「弁護士を呼んでもらおうか」という結末に至っても爽快でいられるが、この小説では、ハーディングは事件の犯人ではないうえに、しかも自分が知っていることを警察に話すと社会的には身の破滅が待っている、という状況なので、読んでも読んでも爽快感は微塵もない。ただひたすらに、気が狂いそうなほどイライラさせられるだけなのである。こう考えると、コロンボって、ひどいやつだなほんと。

     そして結末に至って、この事件を起こした犯人の正体が明らかになるのだが、パトリック・クェンティンのトラント警部もの作品を何冊か読んだなら、殺人事件が起こったところで、直感だけで犯人を指摘することが可能であろう。そして犯人はその人物なのである。

     たしかによくできていて面白いミステリではあるが、「読者を選ぶ作品」でもあるなあ。「刑事コロンボ」が好きなら読んでみてもいいかもしれない。だが、コロンボのような痛快な話ではない。むしろどちらかといえば「笑ゥせぇるすまん」と似た読後感だ。表紙の宣伝文には「ベストテン級の傑作である」と書かれていたが、それも過大評価だろうとは思う。好きな人は好きなんだろうなあ。でもわたしは、読んですっきり痛快なミステリの方が好きだ!
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    それだけに、食わず嫌いしていた本が好みにどんぴしゃだったりもするので楽しいですよ。「陸橋殺人事件」とかね。

    どんな本でも一度は読んでみるべきだ、とつくづく痛感したであります。

    NoTitle

    おつかれさまでした(^^;

    そうか、こういう企画だと合わない話も読まないといけないですものね。確かにきつそうな物語です……。
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