ゲーマー!(長編小説・連載中)

    1984年(8)

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     修也はうきうきとした気分でNの家に向かって自転車を走らせていた。

     Nの話によると、とうとうファミコン用のキーボードである「ファミリーベーシック」を買った、というのだ。

     その声はあまり興奮もしていないようだったが、修也にしてみればどうでもよかった。

     パソコンに触れる、ということ自体が一種の冒険だったからだ。

     Nの家へやってきた修也は、どきどきしながらNがファミリーベーシックのキーボードをつなぎROMカセットを差し込むのを見ていた。

     画面がついた。

    「ワタシ ハ ファミリーコンピュータ デス。 クリカエス……」

     修也はNを見た。

    「それで、これは! どれだけのことができるの!?」

     Nは力のない声で笑った。

     ファミリーベーシック。ファミコンを使って簡単なBASICプログラムの入力ができるデバイスである。PEEK、POKE命令を使うことで、機械語を使うことにも対応していた。外部記録装置としてはデータレコーダによるプログラムの保存と再生の機能が使用可能であった。要するにカセットテープである。

     問題は、任天堂としては「簡単なBASICプログラムの入力と保存」をさせる以外の目的でこのキーボードとBASICを運用することは全く考えていなかったことにある。このファミリーベーシックから、市販のゲームのそれに匹敵するようなアマチュア作品が出てくることなど、任天堂は意図もしていなかったし歓迎も全くしていなかった。

     入力可能なプログラムは最大でも2KBにすぎなかった。これは、そもそものファミコンの性能が、大きくROMカセットに依存しており、本体自体のRAMが2KB、VRAMが2KBという、当時のゲーム機としても非力な仕様だったことによる。ファミコンは、性能をぎりぎりまで特化させることによりあの見た目の高性能を得ていたのだった。

     豊富でカラフルなスプライトも、その内容はROMカセットに依存するものだった。ゲームの背景画面も同様である。既に与えられているキャラクターを組み合わせることは可能でも、ドット単位でユーザーが背景やスプライトを描くことは不可能だった。

     これでは、基本的にPB-100と同じではないか! 修也は歯噛みする思いだったが、それが廉価のもたらした現実だった。

     修也の内面で、ファミコンに対する「信頼」というものがガラガラと音を立てて崩れていった。

     修也はファミコンを買うことを放棄した。そんな代物を買うくらいなら、貯金をしてもっと自由なパソコンを買おうと誓ったのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    まあ裏を返せば、ROMカセットにキャラクターや背景やゲームのルールのプログラムさえ書いておけば、実際にプログラムを動かすのに必要なRAMは最小限でいいから、非常に合理的なつくりではありますね。あくまでもFCはゲーム専用機であり、パソコンではなかった、ということです。

    前にECMさんが幻に終わったファミコンワープロについて語っておられましたが、メインRAMが2KBで日本語ワープロ作れ、といわれたらわたしがプログラマなら敬遠しますね。バックアップを取るための増設RAMにしても開発をイチから進めるとなると……(^^;)

    これから数年後に、修也くんをまたまた激怒させる出来事が起きて、修也くんはFCから完全に遠ざかってしまうのですが、それについてはまたいずれ(笑)

    こう書くと修也くんは作者のわたしと違って純粋だなあ(笑) 抒情的サスペンスである椿さんのミステリ作品に出してもらうよう交渉しようかなあ(笑)

    NoTitle

    本当、あのROMカセットどれだけの情報が入っていたのか……
    今、説明を読むとどれだけソフト依存だったのかがよく分かりますね。そして良くそれを発売に踏み切ったし、あんなに売れたものだなあ。

    確かに既にパソコンで何が出来るかを知っている人だったら、そんな低スペック機は要らん! ってなったでしょうね。
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