ミステリ・パロディ

    点と線と面

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     昭和三十×年一月。

     『犯人』は、ある意図をもって東京駅を利用するつもりだった。混雑を極めるダイヤグラムの中で、たったひとつ見つけた黄金のような一瞬。

     四分間。その四分間にすべてを賭ける!

     のちに『奇跡の四分間』といわれることになるのだが、『犯人』にとってはどうでもいいことだった。

     十八時少し前。運命と作為に導かれた三人の男女が、十三番ホームに入ってきた。

     博多行きの特急「あさかぜ」の止まっている、十五番線を見ていた男がいった。「安田商会」社長、安田辰郎である。

    「おや、あれは、お時さんじゃないか?」

     安田と同行していた、料亭「小雪」の女中、八重子ととみ子も、安田の言葉にうなずいた。

    「あら、ほんとうだ。お時さんだわ」

     お時さんとは、同じ「小雪」の女中である、二十六歳の整った顔の女だったが、彼らの目に映る「お時さん」は、十五番ホームで、見覚えのない若い男と親しげになにか話をしていた。

     彼らの見守る前で、ふたりは「あさかぜ」に乗り込んだ。

    「お時さんも、なかなか隅におけないね、彼氏と九州まで旅行するのかな?」

    「お時さんにあんな人がいたの?」

    「知らないわ。意外だわね」

     十八時一分。十三番線に横須賀線の電車が入ってきて、「あさかぜ」の車体は見えなくなった。安田は見送りに来てくれた礼をふたりの女中にいうと、横須賀線に乗り込んだ。

     魔術は、これで完成した。



     はずだったのだが……。

     数ヶ月後、『犯人』は、女のフットワークの軽さというものを過小評価していたことを、被告席で呪っていた。

     まさか、デリカシーのかけらもないあの女中たちが、十五番線の「あさかぜ」までずかずか行ってしまい、出発時まで「お時さん」と三十分も長々と長話をするとは!

     これではあのふたりを心中に見せかけるという偽装工作もなにもないではないか!

     人間の世界は点と線だけでできているものではない。その背後には、『面』というどこまでも底のない深みが存在しているのである。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    いや、ダイヤすらない状態で列車を走らせたらマジで自殺行為ですから(^^;) それにいかに大空襲を受けたからって、鉄道の復旧は最優先事項です。

    アリバイ崩しでは、戦前の蒼井雄先生とか、戦後の鮎川哲也先生なんてところが有名ですね。口の悪い人は、時刻表トリックは「警察が地元大学の鉄道研究会を訪れたら一発で解けるのに」とかいってますが(笑)

    NoTitle

    松本清張の作品ですね。
    あの時代ではダイヤがようやく確立した時代ですよね。
    まあ、巧緻を凝らし過ぎると、逆に初歩的なところで失敗する。
    ・・・というのはよくあることですからね。

    Re: ダメ子さん

    多くの犯人が、ヒューマン・ファクターを考えるのを忘れてお縄になってますからな。中には、密室殺人をやろうとしたのに扉に鍵をかけ忘れて御用になって伝説を作った人も(笑)

    Re: 山西 サキさん

    昭和三十年代の飛行運賃はすさまじいものでしたからね(笑)

    某西村京太郎先生が茨城を舞台に描いた鉄道ミステリで、「どうして東北地方行くのに東北新幹線を使わないんだろう」と思っていたら、「メイントリックだったから」というすごい例が(笑)

    NoTitle

    昔からミステリーはトリックよりも
    きわどいトリックを平然と実行し容疑者と疑われても平然としている
    犯人のメンタルの方がすごいとは思っていましたが
    成功の陰にはこんな数々の失敗例があったなんて

    NoTitle

    うわ~、松本清張かわいそう!
    凄いトリックなのに、なにもかもがぶち壊しです。
    でも、こういうの最高だなぁ。

    この作品、読んだことがあります。
    読みながら、どうして飛行機を使わないんだろうってずっと思ってました。
    時代の違いってものなんですかね。
    松本清張では「黒い画集」の「遭難」も好きです。
    映像のものを最初に見たのですが、出だしは登山のドラマだと思ってみていました。
    まさか殺人事件とは・・・
    「スリーピングマーダー」のような展開も面白かったですね。

    ああ、20000拍手狙ってたんですけど20007拍手でした。残念!
    ご褒美を狙ってたんですけれど・・・。
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