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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ1位 獄門島 横溝正史

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     これまで建て替える建て替えるといっては無駄に時間ばかりかけていた土浦市立図書館もついに年貢の納め時か、駅前の新しい建物に引っ越すことになり、九月一日からほぼ三カ月の間、休館ということになった。ということは、三カ月分の原稿を書き溜めておかねばならないということであり、九月一日までに最低でも十三冊以上を読んでおかねばならぬことを意味する。こうなると入手難度から考えても、日本編ベストを読むしかないではないか。

     腹をくくって日本ミステリの不朽の名作ということになっている「獄門島」を三十年ぶりに読むことにした。横溝正史のストーリーテリングはさすがにたいしたもので、夢中になって読みふけってしまった。

     だが、質量ともに、一九八五年版でも二〇一五年版でもこの作品が堂々の日本軍のベスト1、というのは、あまりにも悲しい、というか、海外勢には日本軍の層の薄さを物語っているとしか思えないのではないか、と思う。作品の出来不出来以前に、この作品が日本ミステリの象徴だというのはなんとも情けない。つまらないといっているのではない。海外勢と比較すると、「ミステリという小説のジャンルがもっとも質量ともに充実していた時期の代表的作品」に対して、「ミステリという小説のジャンルがほぼ瀕死の状態の時期のカンフル剤的作品」が延々と持ち上げられ続けるというのは納得がいかないといっているのだ。

     「獄門島」という小説と、横溝正史という作家が、飢えに飢えていたミステリ愛好家にとっては干天の慈雨と呼ぶ程度ではとうてい表現し足りないまさに生命の水であり、日本のミステリの方向性を決定づけるほどの影響を与えたことは、坂口安吾の盆と正月が一緒に来たような浮かれ方をした論評を見るまでもないが、だからといって「乗り越えるための壁」を半世紀にわたって崇めることもないはずだ。「ロジック」でいえば安吾の「不連続殺人事件」や鮎川哲也の諸作があるし、「視覚に訴える絢爛とした殺人」ということでは高木彬光のほうが上だろう。「戦後すぐでしか通用しないトリックの妙」では梶龍雄を読めばいい。それらが混然一体となったところがいいのだ、というならば、われわれには島田荘司と「占星術殺人事件」があるのである。

     裏を返せば、そういった名作群はほぼこの小説を通過することにより成立している。日本のミステリを系統だって読んでいこうと考えるなら、「絶対に外してはならない小説」だ。「金田一耕助」という名探偵を知らないで終わるのは人生における痛恨事である。たぶん、本書を読んでつまらなかったら、他のどんなミステリを読んでもちっとも面白いとは思わないだろう。もし、ミステリに興味があるのなら、なんとしても読むべきだ。幸いにも現在は手に入れやすい。横溝ワールドにぜひともハマってほしいものである。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    まあなんといっても、派手ですからね、俳句殺人とか。おどろおどろしさでは「犬神家」並ですし、動機の異常さでも一段上ですしねえ。

    やはり真犯人の設定かなあ。この反則を堂々とやったことが、本作を一読忘れがたくしているのかも。

    後は映画かな、やっぱり(^_^)

    Re: miss.keyさん

    これを書いたときの横溝先生にとっては、因襲のほうは二の次だったと思いますね。あくまでも、日本を舞台としてクリスティができないか、ということのほうが強く頭にあったのでしょう。ほぼ同時期発表の、「蝶々殺人事件」では、より都会的でモダンさを感じさせる作品に仕上げています。

    しかし読者にウケたのは圧倒的に金田一耕助であり、それが横溝先生の方針を決めてしまったのでありました。(^_^;)

    後年の少年向け作品「怪盗X・Y・Z」なんて、ほんとに横溝先生が書いたの、と思うような都会的作品で大好きだったりします(^_^)

    NoTitle

    こんばんは。
    何年か前に自分内横溝正史ブームがあり、結構いろいろ読んだのですがこの本は面白かったのを覚えていますね。

    ……でも内容を思い出そうとすると、すぐに『犬神家の一族』とごっちゃになってしまうのでした。全然違う筋立てなのになぜなんだろう。
    久しぶりにまた読もうかなあ。

    因習のおどろおどろしさ

     何よりの魅力ですな。今はそういうの無いじゃないですか。極めて幼い個人的な恨み辛み妬み嫉み僻みでちょいと人殺して、あまりにもつまらない。困った時の臨時列車てなトレインミステリーもいい加減うんざりだし。悲しいかな、先人を超えられない現在のミステリー作家、反省しろ。

    Re: 面白半分さん

    この作品で横溝先生がやりたかったのは、日本という風土でやるクリスティ的な童謡殺人ものだと思ってますので、その点では狙い通りなんでしょうけれど、日本で昔の上流階級が出てくる話やるとたしかにああなってしまうだろうなあ(笑) イギリスなら、なんとか男爵とか地方貴族を出せるけど、日本じゃ、何々村の網元レベル(^^;)

    売り方がホラーになってしまうのもわかる(笑)

    Re: 百物語ガールさん

    面白い作品であるのは事実なんですよね。

    だけれども、横溝作品のみに限っても、「通過点」だと思うんですよねえ……。ミステリという面に限っても、横溝正史がやりたかったクリスティの日本的再咀嚼は、坂口安吾がより鋭く「不連続殺人事件」でやってますし。

    もし、「本陣殺人事件」が当初の構想通りに完成していたら、わたしはそっちのほうを推したと思うなあ(^^)

    NoTitle

    イメージとしての横溝正史はおどろおどろしくて本格っぽくない。
    でも本陣と本作はパズル的な本格要素があって再読時驚きました。
    残念ながら多くの方は本格のイメージを持っていない気がします。

    NoTitle

    > この作品が日本ミステリの象徴だというのはなんとも情けない。つまらないといっているのではない。

    その言葉、120%賛同します!
    面白いのは間違いないだけど、ていうか、何回でも読めるミステリー小説ってすごいなーと思う反面、いわゆる「推理小説」っていう方向から見ると、えー、こんなのでいいの!?って思っちゃう部分があるっていうか…。

    まぁニッポン人はブランド好きだから。
    一度、「名作」って言われちゃうと、その実力以上に「名作」になっちゃうって面が大きいんでしょうけどねー。
    とか言って、ネットのレビューで(たぶん若い人が)「古くさくてつまんない」とか書いてるの見ると、それは違うだろ!って思っちゃうし。
    その反面、そういう指摘はとっても大事なんだろうなーとおも思っちゃう。

    そういう意味じゃ角川に踊らされたんでも何でも、「楽しく読めた時代」に読めたのは幸せだったのかな?
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