東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
日本ミステリ2位 虚無への供物 中井英夫
最初に読んだのは中学生の時である。学校図書館に泣かんばかりに直訴して入れてもらったのだ。で、読んでみたところ、謎解きミステリなのはわかったが、なんとなくボンヤリとした小説だな、という印象だった。
次に読んだのはそれから二十年を過ぎてからである。一読し、これは堅牢に作られた謎解きミステリだ、実によくできている、掛け値なしにそう思った。
さて、今回で三読目である。期待半分、安心半分で、という、つまり完全に油断しきった状態で読んだ。そこにあったのは恐ろしいほどに豊饒な世界だった。「薔薇」あり「宝石」あり「少年愛」ありと、中井英夫先生、自分が好きなものを全部ぶちこんだな、というのが正直な感想である。もうなんでもかんでもぶちこめるだけぶちこもう、という実に前向きな作品なのだ。「ワンダランド」とはよくいったもので、この小説は、中井英夫というひとりの作家が、言葉と衒学とミステリ的なロジックのすべてをぶち込んで、自分なりのユートピアを作ろうとして、「失敗」に終わるまでを描いた作品なのである。
そう、「失敗」なのだ。中井英夫の怜悧な頭脳とこの戦後社会の現実は、「言葉によるユートピア構築の不可能性」をどうしようもないほど明瞭に暴き出してしまった。そして、この「虚無への供物」という作品が傑作なのは、その敗北と破綻を最後まで描き切ったからである。
竹本健治先生がかつてツイッターで、「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」を三大奇書と称するのは間違っている、真の三大奇書とは「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「家畜人ヤプー」だ、と発言されていたが、まさにその通りで、「黒死館」「ドグラ・マグラ」「ヤプー」の三冊においては、作者は異質な世界を異質なものとして完成させることができ、そこを「閉じられたもの」とすることができたが、「虚無への供物」は、外部の世界との連絡通路をこしらえないわけにはいかなかった。現代においては、連絡通路なしにユートピアをこしらえることは不可能なのだ。「精神病院の内と外」というパラドックスで世界を逆転させるのは不可能であり、パラドックスは不可能だからパラドックスと呼ばれるのだ。
まあそんなことはおいといて、作者の精神世界に深く入り込まなくても、本書は創意工夫に富んだ密室殺人が四つも起こる、超絶技巧の限りを尽くした本格ミステリの傑作である。「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」に比べたらはるかに読みやすいし、素人探偵たちの活躍ににやにやしながら深夜の読書を楽しむにはぴったりの作品である。
次に読んだのはそれから二十年を過ぎてからである。一読し、これは堅牢に作られた謎解きミステリだ、実によくできている、掛け値なしにそう思った。
さて、今回で三読目である。期待半分、安心半分で、という、つまり完全に油断しきった状態で読んだ。そこにあったのは恐ろしいほどに豊饒な世界だった。「薔薇」あり「宝石」あり「少年愛」ありと、中井英夫先生、自分が好きなものを全部ぶちこんだな、というのが正直な感想である。もうなんでもかんでもぶちこめるだけぶちこもう、という実に前向きな作品なのだ。「ワンダランド」とはよくいったもので、この小説は、中井英夫というひとりの作家が、言葉と衒学とミステリ的なロジックのすべてをぶち込んで、自分なりのユートピアを作ろうとして、「失敗」に終わるまでを描いた作品なのである。
そう、「失敗」なのだ。中井英夫の怜悧な頭脳とこの戦後社会の現実は、「言葉によるユートピア構築の不可能性」をどうしようもないほど明瞭に暴き出してしまった。そして、この「虚無への供物」という作品が傑作なのは、その敗北と破綻を最後まで描き切ったからである。
竹本健治先生がかつてツイッターで、「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」を三大奇書と称するのは間違っている、真の三大奇書とは「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「家畜人ヤプー」だ、と発言されていたが、まさにその通りで、「黒死館」「ドグラ・マグラ」「ヤプー」の三冊においては、作者は異質な世界を異質なものとして完成させることができ、そこを「閉じられたもの」とすることができたが、「虚無への供物」は、外部の世界との連絡通路をこしらえないわけにはいかなかった。現代においては、連絡通路なしにユートピアをこしらえることは不可能なのだ。「精神病院の内と外」というパラドックスで世界を逆転させるのは不可能であり、パラドックスは不可能だからパラドックスと呼ばれるのだ。
まあそんなことはおいといて、作者の精神世界に深く入り込まなくても、本書は創意工夫に富んだ密室殺人が四つも起こる、超絶技巧の限りを尽くした本格ミステリの傑作である。「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」に比べたらはるかに読みやすいし、素人探偵たちの活躍ににやにやしながら深夜の読書を楽しむにはぴったりの作品である。
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~ Comment ~
NoTitle
「匣の中の失楽」を読んでからそれの先行的な作品として数十年前、高校生くらいに”虚無”読みました。
なんだかわからないなりに引き込まれた気はしますが内容は忘れているので再読したいと思っていました。
講談社文庫でちょっと文字が大きい新装版を見つけたので買ってはいましたが、現在行方不明中です。
なんだかわからないなりに引き込まれた気はしますが内容は忘れているので再読したいと思っていました。
講談社文庫でちょっと文字が大きい新装版を見つけたので買ってはいましたが、現在行方不明中です。
- #18897 面白半分
- URL
- 2017.09/16 22:57
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Re: 面白半分さん
登場人物がうたた寝をしているのにすら意味がありまして、そこらへんは「割り算の美学」の土屋隆夫先生でも納得の伏線でしょうね……。
でも今読むと、新本格の連中のほうがアクが強いかも……(^_^;)