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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ3位 点と線 松本清張

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     最初に読んだのは中学生の時か。意外と面白かったのを覚えているが、そのころには新潮文庫の「張込み」にある短編を読んでいたので、印象としてはそちらのほうが強かった。「顔」「鬼畜」「声」「地方紙を買う女」「一年半待て」……どれも読後感がヘビー級だったなあ。

     ひさかたぶりに再読。意外と面白かったが、物語としての読後感は、「長い短編」というところであった。これは、作品のほとんどが刑事によるアリバイ崩しの描写に充てられており、崩しては壁、崩しては壁という面白さはあるものの、「犯罪を犯すまでに追い詰められた人間があがきにあがく、そのあがきぶりを執拗にまで描く」という、本領である物語作家としての松本清張色が希薄なゆえではないか。この小説の人気が高いのも、その「アクの薄さ」ゆえに「程よい味」になっているからだろう。読みやすい作品なのだ。

     それにしても「四分間」というトリック、トリック自体としてはあまりにも不自然で『意図がありありと見えすぎる』欠陥があると思っていたが、読み直してみるとそうではないことに気づいた。あれは「存在することすら気づかれないことを目的に作られた」トリックなのだ。そう考えると、ごく平凡な日常を過ごしていると、その日常の中に埋没して、誰からも気づかれないでいる、という、松本清張の描く犯人らしいトリックである。裏を返せば「気づかれた時点でアウト」であり、あの四分間に命を懸けた犯人は、あまりにも捨て身にすぎる。殺人というハイリスクハイリターンもいいところのぎりぎりの戦いに、ある意味脆弱すぎるトリックで挑まなくてはならない理由も思い浮かばないが、当時の戦後復興のただなかの日本人としてはリアリティがあったのだろう。「四分間」の後に続く日本を縦断してのアリバイトリックとアリバイ崩しは、面白いことは面白いのだが、なんというか、『消化ゲーム』の色合いが強いような感じを受けた。それほどまでに、「四分間」は秀逸ではあるが異常なトリックである。そこだけ別な小説のような雰囲気すらする。

     もしかしたら、松本清張はこの「四分間」を、「短編」に使うつもりだったのではないだろうか。「短編」として使いあぐねた結果、『点と線』という「長い短編」として完成させたのではないだろうか。犯人側の描写が非常にあっさり目なのは、本来は「短編」の登場人物だったからではないか。そんなことを考えるのは短編好きとしてのバイアスがかかっているのかもしれない。

     読後のなんともいえないもやもや感も含めて、松本清張らしいのではあるが、かなりライトだ。「けものみち」とか、人間の権力欲と金銭欲と色欲と、猖獗を極める社会悪に憤る松本清張のダークでヘビーな話を読みたくなってきた。でもまずはその前に、読みかけの松本清張の伝奇小説巨編「西海道談綺」を読まなくちゃなあ……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    「西海道談綺」は、松本清張の伝奇時代小説の大作です。西国の小藩の隠し銅山をめぐって、松本清張らしい影を背負った人間たちがあがきながら繰り広げる大ロマンだとか。

    北上次郎氏が「冒険小説論」において、「あの人がこんな話を書くとは誰も思っていなかった大傑作」と評して、一章を割いて解説にあててます。

    中公文庫から分厚い全四巻の新装版が出ていて、ロングセラーです。読むのにみんな疲れきって挫折するのか、ブクオフの時代小説の文庫の棚では美品をよく見かけます(笑)

    Re: blackoutさん

    更新お疲れ様です。

    blackoutさんの断章小説、ほんと読み込まないとつながりがわかりにくいから敬遠される、いうこともあるんじゃないでしょうか。

    ちょっと自分にはKindleデビューは怖くてできない(^_^;)

    NoTitle

    「西海道談綺」ってなんでしょう
    「点と線」よりそちらのほうが気になりますね。

    NoTitle

    今更ではありますが、今自分のブログは、旧作を地味に移行しているところですw

    ええ、新作を書くまでの時間稼ぎと旧作の英訳がなかなか進まないからではありますが(汗)

    そうですね

    自分の場合、初期の小説は文体がくどくて内容がライトです
    なので、kindleの読み放題で読まれるのもこちらが多いですねw
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