FC2ブログ

    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ6位 ドグラ・マグラ 夢野久作

     ←日本ミステリ5位 黒死館殺人事件 小栗虫太郎 →イベント参加のお知らせ

     高校生のころに一度読了し、わかったつもりでいた。それから何度か挑戦しかけてはやめていたが、今回ずいぶんとひさしぶりに読了。

     読んでみると、1935年、昭和十年に書かれたとは思えない恐ろしいまでの社会派ハードSFであった。しかもことは精神医学である。そこでハードSFをやってしまうのである。夢野久作という作家が、本当に百科事典を読んでの独学だけでこれを書いたのならば、たとえ完成まで十年かけたとしても、その科学的・哲学的センスは、とても余人の及ぶところではない。小栗虫太郎と並んで称されるが、小栗虫太郎は徹底的に「詩人」だったのに対し、夢野久作は自分は認めなかったであろうが「SF作家」であった。本作「ドグラ・マグラ」には、たしかに荒唐無稽なところはあるが、「支離滅裂」なところはひとつも存在しない。すべてのパーツが、ひとつひとつ計算された場所に落ち着き、あとは「あなたはこの『事実』を認めるか、どうか」という決断を読者に求めてくる。

     読者を選ぶ小説であることは確かだ。この「ドグラ・マグラ」は、遠くデカルトを悩ませた「自分が今夢を見ていないとどうしていえるのか」という哲学的な疑問を「リアルなもの」として「真剣に」考えたことがない人間には、面白くもなんともあるまい。夢野久作は、この難問を解くために、ありとあらゆる手段を講じる。それは、「狂人の解放治療」と「精神医学批判」という(おそらく、フランスの医師で精神病院改革者のフィリップ・ピネルの影響だろう。百科事典で読んだのだろうか)科学的な道具だてであり、「胎児の夢」「脳髄論」という、驚嘆すべきハードSF的アイデアであり、この問題に取りつかれた人々の苦悩それ自体である。

     夢野久作がこの問いを完全に解いたかといわれれば、それは無理だといわざるを得ない。だが、夢野久作は自分の問いを明確にすることには成功した。「我々の認識しているこの世界が、ひとつの『ブウウウーン…』に還元され得ないということは証明可能か」という問いである。

     まあ、そういう小説なのだからしかたがない。これは、ひとりの人間が、その問いに対し、ミステリという手法を使って、認識自体をひとつの『ブウウウーン…』に還元してみせた実験の詳細な記録である。この実験がもたらした結論は驚くべきものである。その内容が知りたかったら、角川文庫の表紙イラストにもめげず、この上下巻一五〇〇枚の長編に取り掛かってもらいたい。ちなみに伝説的な煽り文句の「本書を読んだものは一度は精神に異常をきたす」というのは大嘘である。「精神に異常をきたすタイプの人間はこの小説を好む傾向にある」というだけだ。健闘を祈る。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【日本ミステリ5位 黒死館殺人事件 小栗虫太郎】へ  【イベント参加のお知らせ】へ

    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    大学がキリスト教系だったらカッコよかったんですがね。

    青山とかICUとか(笑)

    けっこう奥深いですよキリスト教。意外とキャパシティが広いんですよね。世界宗教だから当たり前ですけど。

    しまったなあ。ニーチェの代わりにアウグスティヌスにハマってればわたしも今頃は青山学院大に進んで女の子にも(以下削除(笑))

    NoTitle

    ははは、言われてみればポールさんの言うとおりな気がしますなw

    確かに、自分は人間の知性ってもんは信用してません
    そして、自分も含め、人間は原罪を抱えて生きてるとも思ってます

    純粋な理性なんてもんはないのよ
    正しいことをした、というのは復讐をしてやった、ってことだ

    っていうのが基本スタンスですw

    ちなみに、自分はキリスト教徒ではないですが、高校までは、小学を除いて、キリスト教系の学校に行ってましたw

    プロテスタント系、カトリック系の両方の学校に身を置いてましたが、カトリック系の方が性に合いましたね

    まぁ、プロテスタント系の学校にいたときは、1年以内に親の仕事の都合で転校しましたけどね

    日本だとプロテスタント系が多いので、どうも居心地が悪いわけです

    Re: blackoutさん

    いやあ、blackoutさんは詩人で神学者ですよ。全編を覆うあの終末感は詩人で神学者じゃないと出せません(^^) 哲学っていうのは終末を語るのにはあまりにも楽観的すぎるんです。人間の知性ってもんを最終的に信頼していますから。その信頼がゆらぐところから神学は始まるんです。ウィトゲンシュタインの「語り得るもの/示されるもの」なんて、まさに哲学者としての限界と神学の果てしない荒野をあらわしていて最高ですな(^^)。

    NoTitle

    詩人か作家か…
    哲学的か神学的か…

    私はどっちだろう?w

    両方ありそうな気がしますが、強いていうなら、詩人・哲学的かな?って思ったりしますですw

    Re: 矢端想さん

    なにをいってるんですか。あの絵は「胎児の夢」というテーマを具象化したもので(笑)

    戦前だったらあの絵だけで発禁処分ですな。いい時代ですよ戦後(^_^)

    Re: 面白半分さん

    いや、夢野先生がくわえているのはただの「キセル」というものではあるまいか(^_^;)

    米倉先生のあの絵を夢野作品の表紙イラストに登用することを決断した角川の当時の編集部の英断はホームラン級ですな(^_^)

    ほかのすべてが忘れられてもこの絵とこの本だけは永遠に残りそうです(笑)

    NoTitle

    ところで角川版の表紙絵って本編と関係ないよね(笑)
    …まあ米倉斉加年画伯の絵ってところに謎の値打ちを感じますが。

    NoTitle

    「本書を読んだものは一度は精神に異常をきたす」
    角川の表紙絵。
    何か咥えている夢野久作の近影。

    これだけでおなか一杯のレベルです。


    Re: 矢端想さん

    この小説、人間ドラマとしてみればひたすら陰惨で「どこで感動したんだお前」な話でありますが(笑)、情報小説として見るともう神懸かり的な作品ですよね。よくもここまで首尾一貫した「頭のおかしい人間の物語」が人間に書けたものです。

    ブウウ……ンンン……。

    NoTitle

    とあるライターさんと飲みに行ったとき「一番感動した小説」として教えてもらったのが読んだきっかけです。「長くてめんどくさい本だなあ…」と思いながら読んでましたが、下巻後半の怒涛のごとき展開に読む手を止めることができませんでした。…ただし、この作品を私が理解し得たかというと、自信がありません。ブウウウ…ンンン…。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【日本ミステリ5位 黒死館殺人事件 小栗虫太郎】へ
    • 【イベント参加のお知らせ】へ