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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ9位 戻り川心中 連城三紀彦

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     学生時代にあまりのショックに小便を漏らしそうになってから何回読んだかはわからないが、何度読んでも面白い。「夕萩心中」と並んでこの一連の「花葬」シリーズは、日本のミステリのひとつの到達点であり、日本政府がプラチナの板にでも刻んで国宝とすべき珠玉の作品である。まあ国宝というのは大げさだが、重要文化財くらいには指定してもいいと思う。

     収録されている短編が全部傑作、という短編集はけっこう見るが、収録されている短編が全部大傑作、という短編集はそうそうない。トリック的に優れているだけではなく、文章がもう飛び抜けてうまいのだ。ひとりの殺人犯をめぐるホワイダニットの「藤の香」、奇妙なダイイングメッセージの「桔梗の宿」、終盤まで一体何が進行しているのかまったくわからない「桐の柩」、異常すぎるスリーピング・マーダーもの「白蓮の寺」、と、どれも幻想的であわあわと描かれた世界が、ひとたび作者がそのトリックを明かした時にはまったく違う、切れば血の出るようなショッキングな光景に変わる。その変貌ぶりはまさに「マジック」に例えたくなるのもわかる。

     そしてこの中でも場外ホームラン的超特大の傑作が、表題作である「戻り川心中」である。天才歌人が心中に至るまでのどうしようもない道行きを抒情的に描いた作品、と思わせてからの二転三転するプロットのうまいこと。そしてたどり着いた結論は、ミステリだとか小説だとかの根幹に触れる、ひとつの「文明批判」になっているのだ。発想の転換ぶりが、ミステリを飛び越えて、ここまで来たらもうSFではないか、というレベル。たまらんね。内容がわかっていてもぞくぞくする。

     しかし連城先生、多作家で長編でもヘビー級なのをいくつも出しておられるのに、1986年版では、入っているのはこの「戻り川心中」だけで、2016年版も「戻り川心中」と「夜よ鼠たちのために」という二冊の短編集のみ。同じく「幻影城」を出身とする泡坂妻夫がいくつもランクインしているのを見ると、票が集中したとはいえ、ちょっと気の毒になってしまう。

     まあそれだけ「戻り川心中」の出来がすごいのだ。日本人でしか描けない世界……いや、ミステリの天才でしか書けない境地だ。もし、まだこの短編集を読んだことがなく、連城三紀彦の名前も知らないで本のページを開くなら、その人がとてもうらやましい。さらにあり得ない想像だが、もし、まだこの短編集を読んだことがなく、目の前のテーブルにもこの本が置いていないのならば……なにをぼやぼやしているのだ。すぐにパソコンで通販サイトを開き、この本を買うのだ! 買って読みふけるのだ! 損はさせない。
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    Re: 面白半分さん

    同じ幻影城出身で、同じくらい恋愛小説なり恋愛ミステリなりを書きまくっていた泡坂妻夫先生が「ミステリ作家」と認識され続けたことを考えると面白いですね。泡坂先生の場合は本職の紋章上絵師のせいで何を書いても「余技」とみなされてしまうからなのかな(^^;)

    NoTitle

    私もかつてそうでしたがミステリ作家というより恋愛小説作家というイメージが強いのがミステリ側からするともったいないですね。
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