FC2ブログ

    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    日本ミステリ10位 刺青殺人事件 高木彬光

     ←自炊日記・その70(2017年10月) →日本ミステリ11位 山猫の夏 船戸与一
     この「刺青殺人事件」は、わたしにとっては、大乱歩の「怪人二十面相」シリーズや、あかね書房の「少年少女世界推理文学全集」などにハマっていた小学生の時……おそらく小学四年生のころ……押入れから掘り出したいかにも怪しげな、初めての「大人向け」ミステリである。あれから三十年以上経った今だからいえる。ガキがこんな本を読むんじゃない! 読むのはいいとしてハマってはいかん! ガキの頃からこんな本にハマると「東西ミステリーベスト100」を、一冊一冊再読するような、性格的にいびつなミステリファン人間になって、いわゆる出世コースはおろかまともな人間生活からも脱落してしまうようになるのだぞ! アル中とヤク中とミステリ中毒には、21世紀の現在に至っても、いまだ治す薬が存在しないのである。

     まあそれだけ魅惑的な作品なのだ。「刺青」「美女」「密室」「連続殺人」と、道具立てが豪華なのにくわえて、登場する名探偵、神津恭介のカッコいいこと。トリックがまた人間の盲点をついたものであり、真相を知らされたときの「あっそうだったのか」体験はミステリファンしか味わえないすばらしい背負い投げの快感に満ちている。故エドワード・D・ホックは町の雑貨店で初めて買った大人向けの本、エラリー・クイーン「チャイナ橙の謎」を読み、その人為的なからくりの支配する蠱惑的な世界の魅力に取りつかれてミステリ作家の道を志したそうだが、わたしにとってはこの「刺青殺人事件」がそれなのだ。泡坂妻夫先生も、どこかのエッセイで、初めて読んだミステリが「刺青殺人事件」でさえなかったらばこんな道にはけっしてうんぬんなどと書いておられた気がするので、この作品の麻薬的な魅力にハマった人はけっこうな数にのぼるらしい。

     それから幾星霜。再び本書を図書館で借りて読んでみた。ページを数ページめくるだけで、あの小学生のころのどきどき感がよみがえってきた。終戦直後の猥雑な空気の中、いかがわしいバーでマダムをやっている妖しげな刺青の美女! 残虐な密室バラバラ殺人! 文章はやたらと漢語が多いにしては実に読みやすく、すいすいと読めてしまう。第二第三の殺人事件が発生し、警察の捜査が完全に行き詰まり、作者から「読者諸君への挑戦」が突きつけられたすぐ直後、軍医として応召していた南方から九死に一生を得て帰ってきた白皙の青年が、焼け跡の母校を訪れて感慨にふける……むろん、彼こそが、この難事件の解き手である、東大が産んだ最大の天才にして法医学者、名探偵・神津恭介なのだ。いやあ、かなりバイアスがかかっているとはいえ、今読んでも、しびれるほどカッコいい。

     神津恭介ものでは、32位に「刺青」と並ぶ必読の名作「人形はなぜ殺される」が、46位に「成吉思汗の秘密」が入っているが、「成吉思汗」は……「成吉思汗」だけは……神津恭介も、高木先生も、天才の考えることはわけがわからん、とだけいっておこう……。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【自炊日記・その70(2017年10月)】へ  【日本ミステリ11位 山猫の夏 船戸与一】へ

    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    出世は人生のすべてではないが、明日を過ごすためのおぜぜはほしい(笑)

    高木先生と谷崎潤一郎御大とは……結びつく、の、だろうか……?(^^;)

    まあ谷崎先生も「途上」とか名作ミステリ残してますけど。

    ちなみに「乱菊物語」は谷崎先生が書いたとは思えない波乱万丈の冒険ファンタジー小説です(笑) 前半だけで未完なのが残念。

    Re: ihiroppiさん

    これから読む人がうらやましいです。

    極上の読書時間を保証いたします。(^^)

    面白かったら「人形はなぜ殺される」もどうぞ(^^)

    Re: 面白半分さん

    ほんと、子供にはコロコロコミックと少年ジャンプを与えて育てるべきですな(笑) どっちが教育に悪いかわかったもんじゃない(笑)

    押入れにあったのがドグラ・マグラでなかったことを神に感謝しよう(笑)

    NoTitle

    いいんじゃないですか?
    出世が人生の全てではないですし、もちろん幸せに直結するものでもないですしw

    ええ、小学生時代に乱歩の大人向けシリーズやクリスティとかドイルとかを読みまくってしまい、それ以降色々な目に遭った結果、ああいう終末観漂う小説ばかり書くようになったのが自分です(汗)

    ちなみに、この小説、出てくるワード的には、谷崎氏的な感じがしますね

    NoTitle

    ポールさんの文章があまりにも巧みなのでこれと戻り川心中を入手してしまいました。
    まだ読めてませんが(^^;)
    こっちは神津恭介がマンガスケバン刑事の神恭一郎という
    キャラクターとかぶる感じがして気になってしまいました。

    NoTitle

    さすがに小学生時代はコレは読んでません。
    おかげさまで
    性格的にいびつなミステリファン人間になって、いわゆる出世コースからははずれましたが、
    通常な人間生活は遅れています。

    小学生時代に読まなくてよかった!

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【自炊日記・その70(2017年10月)】へ
    • 【日本ミステリ11位 山猫の夏 船戸与一】へ