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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    日本ミステリ13位 二銭銅貨 江戸川乱歩

     ←1984年(13) →自炊日記・その71(2017年11月)
     少年向けのリライトで初めて読んでから、何回読んだかわからない。たしかに江戸川乱歩の原点にして日本ミステリの記念碑ともいえる好短編だが、同時に大乱歩の人気投票ベストがこれかよ、と思わないでもないのが正直なところ。これなら、14位の「陰獣」のほうが納得もできるのだが。短編だったら25位の「心理試験」とか、圏外の「屋根裏の散歩者」とかのほうが出来がいいだろう。

     この短編がこれまでも高く評価されているのは、畢竟、日本人というのが、根本的に「ビンボー」であり「ケチ」であり、「ラクして小金をもらいたい」からではないかと考えたい。そういった意味では、この書き出しの「あの泥棒が羨ましい」という精神で、戦前から、戦中から、戦後から、この平成の21世紀に至るまで、まったく変わることなく日本人は生活というものをやってきたのであろう。大胆に投資して濡れ手で粟、というのは日本人には似合わない。指先でつまめるような額をちょいとつまんでポケットに入れ、そして知らぬ顔を決め込む、というのが日本人の生活スタイル、いや、「身の丈」に合った犯罪者の姿なのである。

     この小説に出てくる紳士盗賊は、綿密な計画とそれなりの投資、それにわが身を危険にさらすことで会社から大金を奪い去った。だが、その作品中でのリアリティの薄いことときたらない。まさしく「絵空事」である。それに比べてこの小説の主人公である二人の貧乏書生は、考えることもやることも、どこまでもみみっちい。その「みみっちさ」が本作の肝である。「みみっちく」あったからこそ、読者はリアルな人間存在としてこの二人の青年の冒険を聞くことができるのだ。

     この「二銭銅貨」における「みみっちさ」の出し方をよく心得て、それをどこまでも徹底することで作品に無上のリアリティをもたらしたのが松本清張であり、「社会派推理小説」の書き手たちであろう。平凡なサラリーマンが小金を横領したことがばれそうになって完全犯罪を企てる、などというフレームの源流には「二銭銅貨」がある。そして貧乏人はいつまで経っても貧乏人であり、底辺から這い上がれないものなのだということも、「二銭銅貨」から変わらないのである。

     そう考えると、「二銭銅貨」はこの位置でいいのかもしれない。ポオは「モルグ街」を書くことによってファンタジーをリアリティに接続したのに対し、乱歩は「二銭銅貨」によってリアリティをファンタジーに接続したのである。どちらの作品がミステリとして正しいか、などということはいうまい。われわれはただ、「それぞれの国のミステリの原点」の違いをしみじみと噛みしめればいいのである。
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    ~ Comment ~

    Re: 百物語ガールさん

    社会派ミステリは、現在ではハードボイルドや警察小説に、発展的に継承されたと考えていいのではないかと思います。

    そんな中で積極的に「社会派」であることを頑固に崩そうとしないのが姉小路祐であるわけですが、たいへんみたいですね。

    奇抜なトリックと社会性をドッキングしようと頑張っている代表選手が法月綸太郎ですが、力作を発表する割には話題にならず。

    もっとも、松本清張以外の社会派ミステリで、現代でも色あせていない作品は、わたしは高木彬光の「白昼の死角」と大岡昇平「事件」くらいしかない、と思えるので、社会派が復権してもいいのではないかとも思います。

    NoTitle

    > というのが日本人の生活スタイル、いや、「身の丈」に合った犯罪者の姿

    ホンっト、ニッポン人の貧乏崇拝っていうのは、なんとかなんないもんなんですかねー(爆)
    GDP世界3位なのに、なんで貧乏くさい生活しかおくれないんだろう?
    そこはホント考えないとヤバイですよね(-_-;)
    …って、自分がまさにそうだからこそ、それは思うんですけど―(爆)

    > 「二銭銅貨」から変わらない

    なるほどなー。それは面白い見方です。

    > それをどこまでも徹底することで作品に無上のリアリティをもたらしたのが松本清張であり、「社会派推理小説」

    ふん、ふん。なるほど。
    そう。リアリティなんですよ。
    そろそろ、本格に対しての新本格みたいに、新社会派推理みたいな流れが出てこないかなー。
    それこそ、ネオ清張みたいな人が出てこないかなー。
    いや。決して「本格」が嫌いってわけじゃないんですけどね。
    でも、「新本格」はもはや浮世離れした中二病だけが喜んでるみたいな気がしちゃって…(^^;
    だからって、やたらバイオレンスになっちゃうとイヤだし。
    あと、ありがちなスーパー刑事みたいなのもツマンナイしなー(笑)
    あの類ならロボット刑事Kで充分って(爆)

    Re: 面白半分さん

    そうした「現実の生活」とリンクした所帯じみているところを受け継いだのが「社会派」だというのはわたしの勝手な読み込みですが、現代日本でいちばん思想としての「二銭銅貨」イズムを受け継いでいるのは「宮部みゆき」だといったら言い過ぎ……だよなあ(^_^;)

    Re: 椿さん

    ひびが入らないわけがない(^_^;)

    そういう意味で、この短編は「青春小説」でもありますね。

    このように多様な読み方を許容するのは、この短編が名短編である証明ですが、「デビュー作が最高傑作」というのもなあ、と思うもので(^_^;)

    NoTitle

    「社会派推理小説」のフレームの原点という捉え方は上手いですね。
    なるほどなあ

    NoTitle

    二銭銅貨、どんな話だったっけと思って久しぶりに読んでみました。
    面白うてやがて悲しき趣もありますね……(^-^;
    というか二人の友情にひびは入らなかったのか……

    確かに乱歩だったら他の作品がもっと上位に来ても良さそうですね。良作がありすぎて票が割れ、意外なものが上に来てしまったパターンなのかな?
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